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2017年8月18日(金)

“痛くない”お産 どんな施設がいいのか

三條
「今日(18日)のテーマはこちら、『無痛分べん』です。」

和久田
「『お産は痛い』というイメージが強いと思いますが、今、広がっているのが、麻酔を使って陣痛を和らげる『無痛分べん』。
痛みを和らげるため、産後の回復も早いと言われています。」

三條
「昨年度、日本で無痛分べんが行われた割合は5.2%と、9年前と比べて倍増し、生まれてくる子どもの20人に1人に上ります。
人気が高まる一方で、無痛分べんによって妊婦が死亡するなど、重大な事故も起きています。
そもそも無痛分べんとはどう行われるのか、そしてどんなリスクがあるのか、ある女性の出産に密着しました。」

密着!“痛くない”お産

リポート:森田百合奈(おはよう日本)

無痛分べんで子どもを産むことに決めた吉澤茜(よしざわ・あかね)さん、34歳です。
4年前にも長女を無痛分べんで出産しました。
母親を病気で亡くし、産後頼れる人がいないため、体力を消耗しないときいて選びました。

吉澤茜さん
「リラックスした状態で挑めた。
産後も、つらい痛みや怖い思いなく、安心して、今回も同じ理由で無痛分べんにした。」

吉澤さんが出産する東京都内の産婦人科クリニックです。
5年前に、無痛分べんを行うクリニックとしてオープンしました。
以来、関東各地から希望者が殺到し、年間400件のお産のうち、9割が「無痛分べん」です。
無痛分べんの仕組みです。

陣痛は、赤ちゃんが出てくるために子宮口が伸ばされる刺激が、背中の神経を通って脳に伝わることで引き起こされます。
無痛分べんでは、主に神経の通り道の外側の硬膜外腔という空間に麻酔薬を注入。
局所麻酔により、痛みだけをとりのぞくお産の方法です。

麻酔は産科医でも行うことができますが、このクリニックでは、麻酔科医4人が交代で勤務し、無痛分べんにあたっています。
出産の高齢化に伴い、分べんに不安を覚える女性たちが無痛分べんを希望するケースが増えていると言います。

東京マザーズクリニック 林聡院長
「高齢で初めて出産する人は、お産に対する恐怖や不安感が強い。
体力的に不安があるという人が多く、無痛(分べん)を選ぶ傾向も多い。」

7月中旬。
午前8時過ぎ、吉澤さんの陣痛の兆候があらわれ始めました。

「おはようございます。
痛くなってきました?」

吉澤茜さん
「少しだけ下のほうで生理痛のような、ちくっと。」

「(麻酔)始めましょうね。」

麻酔薬は、医師が背中に入れた管から注入します。

「薬がゆっくり入っていきます。」

麻酔が誤って神経の通り道や血管に入っていると、足を動かせなくなったり、耳鳴りやけいれんが起きます。
正しく注入されているか確認します。

「足先動かせますか?」

吉澤茜さん
「大丈夫です。」

「口の中、苦い感じとか耳鳴りとかしないですね?」

吉澤茜さん
「しないです。」

吉澤さんの夫が病室にかけつけました。
徐々に痛みが出てくる時期ですが…。


「痛くないの?」

吉澤茜さん
「うん、痛くない。」


「マジ?」

吉澤茜さん
「痛かったらキレてる。」

麻酔科 柏木邦友医師
「麻酔のチェックをします。」

その後も、数十分おきに麻酔科医などが、麻酔の効き具合を確認。
保冷剤を使って、必要ない場所にまで麻酔が効いていないかも確かめます。
おなかの周りは…。

麻酔科 柏木邦友医師
「ここ(おなか)は?」

吉澤茜さん
「冷たくない。」

麻酔科 柏木邦友医師
「おなかの上のほうは?」

吉澤茜さん
「冷たい。」

麻酔科 柏木邦友医師
「麻酔の効き方は人によって異なる。
効き方が鈍い人だと痛みが出てくる。
逆に効き過ぎてしまうと、足が動かないとか、吐き気が強くなってしまう。
しっかりチェックしていかないと安全な麻酔はできない。」

お産の進み具合は、子宮の収縮を表すモニターで確認します。
通常だと、2分間隔で激しい痛みが来ているころです。

吉澤茜さん
「すごい痛みきてるんだって。」

吉澤さんは落ち着いた様子です。
全く痛みを感じないまま、分べん室に移動。

いよいよ出産です。
陣痛の代わりに、助産師がモニターの数値を見ながら、いきむタイミングを伝えます。

助産師
「もう1回いきましょう。
そうそう。
1回はいて~。」

万が一の急変に備え、麻酔科医も分べんに立ち会います。
陣痛が始まってからおよそ5時間半、3,238gの女の子が誕生しました。

吉澤茜さん
「ストレスなくっていうのが一番。
不安な気持ちがなかったので無痛分べんでよかった。
自然(分べん)でも無痛(分べん)でも、生まれてきた赤ちゃんへの愛情は変わらないと思う。
選べる環境があることがいいと思う。」

無痛分べん リスクは?

ニーズが高まる無痛分べん。
一方で問題も起きています。

神戸市のクリニックでは、一昨年(2015年)無痛分べんをしていた女性が意識不明の重体になり、その後死亡しました。
遺族側の弁護士によると、麻酔が誤って全身に効いてしまい、対応が遅れたため呼吸困難に陥ったとみられています。
生まれた子どもも脳に大きなダメージを負いました。
こうした無痛分べんを巡る問題は、今年に入ってから各地で明らかになっています。
産婦人科の医師などでつくる委員会が検討を行ったところ、無痛分べんを行う病院の中には、妊婦が急変しても十分な知識や技術をもった医療スタッフがその場におらず、対応が遅れるケースがあることがわかってきました。

妊産婦死亡症例検討委員会 池田智明委員長
「無痛分べん自体は非常に安全。
無痛分べんを行う施設が、リスク、起こりえることを十分把握し、対応できるスキルとマンパワーをつけること(が必要)。」


和久田
「産科医療について取材している池端記者です。
吉澤さんはとてもリラックスしてお産にのぞんでいるようでしたが、一方で事故のニュースを聞くと、やはり心配な部分もありますよね。」

池端玲佳記者(科学文化部)
「『無痛分べん』は、管理体制を整えて行えばメリットがあると思います。
ただ、麻酔の針が数ミリずれて全身に効いてしまうと呼吸が止まる危険性があり、誤って血管に入ってしまうと、けいれんが起きて呼吸困難に陥るおそれがあるなど、『自然分べん』にはない特有のリスクがあるのも事実です。
こうしたリスクは、出産する女性はもちろん、赤ちゃんの命にも関わります。
現在、全国でどれくらいの事故が起きているか、日本産婦人科医会が調査しています。」

三條
「事故を防ぐための具体的な動きはあるのでしょうか?」

池端記者
「日本産婦人科医会は今月(8月)、提言をまとめました。

この中では、麻酔を投与したあとの経過観察を徹底すること、万が一に備えて蘇生技術に習熟することなどを求めています。
また、厚生労働省は今月、研究班を立ち上げ、無痛分べんの安全基準を記したガイドラインの策定も視野に検討を始めることにしています。」

和久田
「これから無痛分べんを希望する人は、どのような施設を選べばよいのでしょうか?」

池端記者
「少なくとも、無痛分べんのメリットだけでなく、麻酔によってどんなリスクがあるのかもきちんと説明を求め、そのリスクにどう対応しているのかも含めてきちんと答えてくれるところを選んでほしいと思います。
また、緊急時に総合病院に救急搬送できる体制がふだんから整えられているかも重要です。
というのも、日本では出産は『病院』より規模の小さな『診療所』で行われることが多く、無痛分べんもおよそ6割が診療所で行われています。
こうした小規模な施設だけでは、容体が急変したときに対応しきれない事態が起きかねないからです。
無痛分べんは人気が高まっていますが、こうしたリスクもふまえた上で選択してほしいと思います。」

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