これまでの放送

2017年8月10日(木)

なぜ「さい帯血」は流出したのか?

和久田
「赤ちゃんの誕生です。
お母さんと赤ちゃんをつなぐ、へその緒。
そこから採取されるのが『さい帯血』です。
さまざまな細胞のもとになる『幹細胞』が含まれています。
主に白血病の治療に使われているほか、体のさまざまな組織になるiPS細胞への活用が期待され、再生医療の分野で研究が進められています。」

三條
「ところが、このさい帯血を国に無届けのまま患者に投与したとして、愛媛や東京、大阪など12の医療機関が国から再生医療の一時停止を命じられました。
効果が証明されていない、がんの治療や、美容にさい帯血が使われていたのです。
本来、簡単には手に入らないはずのさい帯血。
医療で使うには2つのルートがあります。」

和久田
「赤十字社などが運営する公的なさい帯血バンク。
提携する病院からさい帯血を集め、厳重な管理や態勢のもとで白血病の治療などに使われます。
もう1つが、民間のさい帯血バンクです。
あくまで提供者本人やその家族が、将来、病気になった場合に備えて保管しているもので、原則、第三者に投与されることはありません。」

三條
「しかし今回の問題では、茨城県にあった民間の業者が保管していたさい帯血が売買され、思わぬルートで医療機関に渡っていました。
今、さい帯血をめぐって何が起きているのでしょうか。」

増えるさい帯血保管 民間の“バンク”では

リポート:高橋歩唯(松山局)

東京にある民間のさい帯血バンクです。
タンクの中には、液体窒素で冷やされた大量のさい帯血が保管されています。
その数、およそ4万。
年々増え続けています。
さい帯血を預けているのは、再生医療に期待を寄せる母親たちです。
女の子を出産したお母さん。
採取したさい帯血の保管を決めた1人です。
近い将来、再生医療が確立されれば、万が一、わが子が病気になったときに活用できるのではという思いからです。

さい帯血を保管する母親
「今は健康に生まれてきてくれたと思っていますけど、2歳とか3歳で何か病気になったりとか、いろんな再生医療に使えるというので、自分の子どものために使えたらいいなって思う。」

産婦人科医院 岡田恭芳院長
「いろんな応用が研究されていますから、(さい帯血を)残して損はしないのでは。」

採取したさい帯血は、48時間以内に民間のさい帯血バンクへと引き渡されます。

民間さい帯血バンク 清水崇文社長
「最近やはり再生医療ということで非常に注目されていて、年々、保管者が増えています。」

さい帯血は保管室で厳重に管理。
あくまで提供者本人やその家族への投与が目的で、第三者に提供されることはありません。

無届けで患者に投与 さい帯血はどこから?

リポート:森脇貴大(松山局)

では、国に無届けで患者に投与していた医療機関は、どのようにさい帯血を手に入れたのか。
その鍵を握る人物に接触することができました。
問題となったさい帯血の販売にかかわったといいます。
発端は、茨城県にあった民間のさい帯血バンクの倒産です。
このバンクは、母親からさい帯血を集めたうえ、将来の活用が期待できると投資を募っていました。
しかし、経営に行き詰まり、大量のさい帯血を抱えたまま8年前に倒産。
バンクに出資をしていたこの男性が、800人分のさい帯血を保管することなったといいます。

男性は、出資した資金を取り返そうと、販売を考えるようになりました。

さい帯血を保管する男性
「(保管の)施設費・運営費となると、すべてを補うために販売をしないと。
販売に関しては200検体くらいだったと思う。」

そのとき、売買を持ちかけてきたのが、医療機関と接点のあるブローカーでした。
男性は、母親から所有権を放棄されるなどした、およそ200人分を販売したといいます。
男性からさい帯血を買い取り、医療機関に転売したというブローカーにも話を聞くことができました。

ブローカー
「(医師から)問い合わせはいろいろあります、『月に何検体出せますか?』とか。
(医師から)依頼があったら出す(売る)。」

倒産した民間のさい帯血バンクから、ブローカーらを通じて医療機関へ。
売買されるたびに値段が上がっていきました。

ブローカー
「(さい帯血が)80万円だったら、160万にして先生(医療機関)に売りに出すという形で、先生は250~260から270万円くらいで(患者に)出す(治療する)という形ですね。」

「カネのなる木」として広がっていったさい帯血。
ブローカーや保管業者は、取材に対し、違法な医療行為に使われるとは思わなかったと説明しています。

さい帯血を保管する男性
「医師がきちっと判断のもとで使うという条件下で販売を行っています。
(違法な使われ方をしていたとは)予想していなかったのでびっくりした。」

こうした実態に専門家は、一歩間違えば、重大な事故が起きかねないと指摘します。

高知大学 相良祐輔名誉センター長
「(さい帯血を)不潔な処理で感染するのではないかという問題がひとつ。
いったん体の中に入ると、とてつもないことになる。」


がん患者の支援団体の代表は、患者の気持ちにつけ込んだ悪質な行為だと批判しています。

がん患者支援団体代表 片木美穂さん
「承認されていないってことは、効果が明らかにされていないっていうものを、何百万というお金を患者さんに出させて治療として行っているというのは、やっぱり詐欺に近いというふうに私は思っているので、許せない気持ちでいっぱいです。」

無届けで“さい帯血”投与 今後の対策は

和久田
「取材にあたった松山放送局の高橋歩唯記者です。
本来、流通するはずのないさい帯血が高値で売買されているとは驚きでした。
それだけ需要があるということなのでしょうか?」

高橋歩唯記者(松山局)
「国から処分を受けた医療機関は、さい帯血への期待の高まりを利用して、効果が証明されていないがんの治療や美容に有効だとして患者を募っていました。
あわせておよそ100人が投与を受けたとされ、中には最後の望みを託したがん患者もいたということです。」

三條
「そもそも民間のさい帯血バンクから流出したことが発端ではないかと思うのですが、規制はできないものなのでしょうか?」

高橋記者
「さい帯血を扱う事業者については、5年前に法律が整備されました。
さい帯血を確保し安全に使うため、事業者への国の許可や指導・監督についての規定が盛り込まれました。
しかしこの法律は、公的なさい帯血バンクを対象としていて、民間のバンクは対象外となっています。
つまり今回のように、民間のバンクからさい帯血が第三者に流出した場合を想定した法律はありません。
事実上、野放しの状態になっているのが実情です。
専門家はこう指摘しています。」

再生医療の法律に詳しい 宮田俊男医師
「再生医療はまだまだ新しい技術。
そうしたルール整備もまだ過渡期。
こういった事件が発生した以上は、早急に法律の運用を見直すのか、法律そのものを改正していくのか、早期に対応してほしい。」

和久田
「今回の問題を受けて、国はどう対応しようとしているのでしょうか?」

高橋記者
「厚生労働省は今年(2017年)6月から、民間のさい帯血バンクの実態調査を始めました。
民間のバンクについては、これまでその数さえも正確に把握できていませんでした。
各バンクがさい帯血をどのくらい保管しているのか、その保管の方法も含めて確認し、今後、法的な規制も検討したいとしています。
難病治療など、将来、大きな可能性を秘めたさい帯血が、正しく安全に使われるために、必要な法整備を進めていくことが喫緊の課題だと思います。」