これまでの放送

2017年8月1日(火)

シカやイノシシ被害 深刻化する理由

高瀬
「シカやイノシシによる被害は今、全国各地で深刻化しています。」

大学の学生寮に入り込み、まっしぐらに走り抜けるイノシシ。
住宅街に出没し、住民にけがを負わせるケースも出ました。
 

「こんなところにいると思っていなかった。」

「こわい。」



 

対策の中心を担っているのが、地元のハンターたち。
国も補助金を出すなど、後押し。
しかし、ある現場では、思わぬ事態が起きていました。


 

和久田
「国が野生動物被害の対策の柱としているのが『捕獲・駆除』です。
猟友会など、狩猟免許を持つハンターたちに捕獲してもらい、報奨金を出す制度を4年前から導入しました。
平成27年度、国が投じた額は年間39億円。
3年で、およそ2倍に増やしています。」

高瀬
「ところが、今年(2017年)に入り、そのハンターの一部の人たちが、自治体からの報奨金を不正に受け取っていたことが発覚しました。」

ハンター 発覚!不正受給

リポート:杉本志織(NHK鹿児島)

農業が盛んな鹿児島県霧島市です。
農作物への被害を食い止めようと銃やワナを使った、シカやイノシシの捕獲に力を入れてきました。
霧島市では、4年前から国の補助金を利用し、1頭あたりの報奨金は1万2,000円。
昨年度の支給額は2,200万円あまりに上りました。
ところが…。

霧島市 前田終止市長
「虚偽の報告により、(ハンターが)報奨費を受給。
心よりおわび申し上げます。」


 

一部のハンターたちが、報奨金を得るために必要な写真を偽造し、不正に受給していたのです。

別々に撮られた2枚の写真。
実は、写っているのは同じイノシシです。
背景を変えて撮影することで、別のイノシシの写真のように見せかけています。
今回、不正を犯した男性です。

不正受給した男性
「(申請を)簡単に考えていたから、ただ写真だけやればいいと。
同じもので2匹撮ったり、そういうこともした。」


 

一方、霧島市も。
職員の数に限りがある中で、年間2,000件を超える申請を十分にチェックできていませんでした。
不正な受給は過去4年間で29人、額にして少なくとも241万円に上ります。
こうした事態を受けて、霧島市は、不正を犯したハンター29人の捕獲を行う資格を停止。
資格を持つおよそ260人のうち、1割にあたります。

さらに、動物の体に番号を記入するなど、使い回しができないよう、写真の撮影方法も厳格化しましました。
しかし、思わぬ事態が…。
ルールの厳格化で負担が増えたとして、活動するハンターが少なくなったのです。
その結果、シカやイノシシなどの捕獲頭数は、去年(2016年)の同じ時期に比べ半分以下に落ち込み、484頭もの減少となりました。
こうした事態に、秋の収穫期を前にした農家からは不安の声が。

農家
「田んぼに入ってくる、全部。
イノシシにしてもシカにしても、とってもらわないと困る。」


 

チェック体制を強化した霧島市は、頭を悩ませています。

霧島市農林水産部 川東千尋部長
「農業が成り立たない地区があるので、これ(捕獲)はもう止められない作業。
審査、確認の体制を、どこまで厳しくできるかというのは、捕獲する人の意欲の減退とうまくバランスを計らなければいけないとは思うが…。」

ハンター 高齢化 行政 人手不足 対応 後手後手…

高瀬
「取材した、鹿児島放送局の杉本記者です。
不正をさせないためにルールを厳しくしたら、今度はなり手のハンターが減ってしまったと。
あっちを立てたら、こっちが立たないというような、なかなか難しい状況ですね。」

杉本志織記者(NHK鹿児島)
「霧島市を取材すると、不正の再発防止と農業被害を減らすという本来の目的の狭間で、にっちもさっちもいかない状態になっているのを感じました。
ハンターの側も高齢化で担い手が減り続け、一方の行政の担当者も人手不足な中で、互いに対応が後手にまわっていた側面は否めないと思います。」

和久田
「こうした問題は、全国に見ると、どうなっているんでしょうか?」

杉本記者
「国は、全国で同様の事態が起きていないか、緊急の実態調査を行いました。
6月に公表された調査結果では、霧島市と同様に、十分チェックできていない自治体などが全体の15%にあたる140に上ることがわかりました。
こうした中、不正防止とともに、ハンターに捕獲を続けてもらう仕組みをどう作るのか、模索が続いています。」

シカ・イノシシ対策 新たな視点で

リポート:後藤岳彦(ネットワーク報道部)

集落のすぐそばにある森の中。
ハンターに同行すると…。

ハンター
「いました、イノシシが。」

 

大きなイノシシがワナにかかっていました。
さっそく、証拠として町に提出する写真を撮影。
去年からこの町で取り入れているのが、ITを使って不正を防止するシステムです。

カギを握るのが、カメラの「GPS機能」です。
カメラは町が無料で貸し出しています。
GPSによって、日時はもちろん、緯度や経度など、捕獲場所の詳しい位置まであらゆる情報が自動的に記録されます。
申請に必要なほとんどの作業が写真の撮影と提出だけで済み、行政、ハンター双方にとって負担が少ないといいます。
 

京丹波町農林振興課 小山潤係長
「データ自体を見れば、何月何日、何時何分にとれたということまで確認できる。
不正に関しては、しにくいと思う。」

 

一方で、野生動物の繁殖など、科学的な根拠を踏まえた捕獲を目指すべきだと指摘する専門家もいます。
例えばイノシシは、通常、冬に発情・交尾をし、子どもを産むのは年に1回、春先だけです。
ところが、出産直後に子どもだけを捕獲し、母親だけが取り残されると「発情回帰」と呼ばれる現象が起こり、本来は子どもを生まない秋に出産することもあるというのです。

兵庫県森林動物研究センター 横山真弓研究部長
「『捕獲しても減らない』、そういう現象に発展してしまう地域が今、増え始めている。
増えていくもともとの(母)親をしっかりとっていくのが非常に重要。」

特徴踏まえ 捕獲のあり方を

和久田
「この問題の取材を続けているネットワーク報道部の後藤記者です。
こうした科学的な裏付けを持った、より効率的な捕獲というのが重要になってくるんですね。」

後藤岳彦記者(ネットワーク報道部)
「専門家によりますと、今は、とにかく見つけた動物を捕獲するのが大半だと言います。
報奨金も、イノシシの場合、オスでもメスでも1頭あたり同じ額が支払われるケースが多いんです。
しかし、イノシシの繁殖が強いという特徴を踏まえますと、母親のイノシシの捕獲に対しては、報奨金の額を増やすなど、差をつけることも検討されて良いと思います。」

ハンターの負担軽減

高瀬
「ただ、現実に今、対策を担っているハンター自体が減少しているんですよね。
そういう中で、やっぱりハンターの負担を軽くしていくことも考えないといけないということになりますね。」

後藤記者
「野生動物は、捕獲したあとの処分も、解体したり埋めたりという作業は大変な重労働になります。
鹿児島県阿久根市では、こうした作業を専門にやってくれる施設を4年前に作りました。
ハンターからしてみますと、シカやイノシシを持ち込むだけで良くなりまして、その結果、捕獲頭数も大幅に増加しました。」

地域全体で総合的な対策を

和久田
「さまざまな角度から、あの手この手の対策が必要になるということですね。」

後藤記者
「ただ、野生動物の対策は、地元の猟友会などのハンターに頼っているケースも多く、それだけの対策では、被害は減らせないと指摘する専門家もいるんです。
それだけでは、なかなか被害を減らせないところもありますので、捕獲や駆除による対策だけではなく、農家や地域住民、そして行政などが連携して、集落に野生動物を寄せ付けない環境を整備するなど、地域全体で総合的な対策に取り組んでいくことが重要だと感じました。」

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