これまでの放送

2017年7月4日(火)

小中学校で「先生が足りない」理由

高瀬
「今、全国の公立の小中学校で『先生が足りない』という異常事態が起きています。」

和久田
「NHKが、都道府県と政令指定都市、合わせて67の教育委員会に取材したところ、今年(2017年)4月の始業式時点で、半数近い32の教育委員会で、定数に対して、少なくとも717人もの教員が不足していたことが明らかになりました。」

高瀬
「こうした学校では、教頭などが担任や授業を受け持つなどして、影響を最小限にしていますが、中には、授業ができなくなるところも出ています。」

関西地方の、ある中学校が保護者に配った書類です。
美術の教員が病気で休職して授業が出来ず、およそ3週間、別の教科に振り替えざるを得なくなったのです。
代わりの教員を求めたものの、教育委員会からの回答は…。

“とにかく見つかりません。”

中学校の校長
「きちっと学べないという状況は、非常に申し訳ないことをしている。
(義務教育の)責任を果たせてない。」


 

ほかの学校でも、理科の授業を3か月行えず試験を中止したり、学級担任を教頭が兼務したりするケースも。
先生が足りない…。
事態は深刻です。

高瀬
「教員不足の大きな要因が『臨時採用』の教員、いわゆる『臨採』です。
通常、病気や産休などで欠員が生じた場合、この臨採で補充するんですが、その確保ができなくなっているんです。」

和久田
「その背景にあるのが、少子化を見越した教員の採用の見直しです。
こちらは、教員の定数に占める臨採の割合です。
赤い部分が年々、拡大しているのがわかります。
今後、少子化がさらに進むと教員の定数が削減されるため、教育委員会は、正規教員の採用を抑えて、非正規雇用の臨採の枠を広げているんです。」

高瀬
「しかし、枠を広げる一方で、思うように、なり手は増えていません。
臨採を確保できない学校の現場で何が起きているのか、取材しました。」

先生が足りない 授業に影響も

リポート:大西咲(NHK熊本)

熊本県天草市の本渡中学校です。
5月、英語の教員が突然休職することになりました。



 

天草市立本渡中学校 岩﨑宏保校長
「病気で休んでいる先生の机です。」



 

2か月近くたった今も、代わりの英語教員は見つけられず、空席のままになっています。
昨年度までは、クラスを半分に分けて、少人数できめ細かい指導を行ってきた1年生の授業。
しかし、今年は教員が足りず、大人数のままでせざるを得ません。
つまずく生徒が出ないよう、声かけを増やすなどして対応しています。

天草市立本渡中学校 岩﨑宏保校長
「これが講師採用の要望書です。」

学校は、教育委員会に「臨時採用」の教員を要請。
しかし、隣の県まで探してもらったり、ハローワークに求人を出してもらったりしても見つかりませんでした。

天草市立本渡中学校 岩﨑宏保校長
「子どもたちの学力保証に大きく関わるので非常に厳しい状況。」

苦肉の策も

こうした中、苦肉の策で急場をしのぐ学校も出ています。

高知市の大津小学校です。
子どもたちに大人気の「音楽」の授業。



 

4月から産休に入った教員に代わって、「臨時採用」の田所可南子先生が教えています。
田所先生、実は、小学校の教員免許を持っていません。
持っているのは、「幼稚園」の教員免許です。
それでも小学校の教壇に立てるのは…。

田所可南子助教諭
「小学校の助教諭免許状をいただきました。」

「助教諭免許」。
小学校の免許を持っていなくても教えることが出来る、特例制度です。

教員の免許は、幼稚園・小学校・中学校などにわかれ、本来は、その範囲でしか教えることは出来ません。



 

しかし、いずれかの免許を持っていれば、指導能力があることを条件に、3年間に限って、免許の範囲を超えて指導出来ると、法律で認められています。


 

この制度の活用に踏み切った、校長の西尾豊子さんです。
「授業に穴をあけてはいけない」。
強い危機感を持っていました。

高知市立大津小学校 西尾豊子校長
「とにかく定数がきちんと配置されていないと、本当に十分な教育が提供できませんので、いろいろな情報を集めてみると、“まだ欠員状態です”という(学校の)情報もずいぶん入っていたので、それならばもう積極的に自分で(探そう)と。」

教員仲間に紹介を頼んだり、地元の知人のツテをたどったり…。
半年探してようやく見つけたのが、音楽大学を卒業して、幼稚園の教員免許を持っていた田所先生でした。

田所可南子助教諭
「(授業を)どう組んだらいいか分からない部分がすごく不安で、そこは悩む一番の要因となりましたけど、決心しました。」


 

高知市立大津小学校 西尾豊子校長
「のんびりしていられないんですよ。
音楽だけじゃなくて、いろいろな面で(教員が)不足しているので、絶対数が足りないと思います。」

“助教諭”頼みも

和久田
「熊本放送局の大西記者とお伝えします。
苦肉の策で何とか人材を確保しているというのは、正直、驚く実態ですね。」

大西咲記者(NHK熊本)
「そうなんです。
ただ、『助教諭』という特例制度に頼らざるを得ない学校は珍しくなく、一昨年(2015年)全国で発行された助教諭の免許は、5,000件余りにのぼっています。
それほど、追い詰められている現場が多いのです。」

高瀬
「実際に子どもたちが授業が受けられないなどの影響が出ていますので、何か対策はないのかなと思うんですが?」

大西記者
「残念ながら、現状では特効薬はないと言わざるを得ません。
ただ、実は教員免許の取得者数はそれほど減っていなくて、過去5年間でみると、ほぼ横ばいです。
さらに、教員免許を持ちながら、子育てなどで職場を離れている、いわゆる『潜在教員』もいます。
つまり、すぐにでも臨採になれる人は一定数いるんです。
そうした人たちを、いかに取り込んでいけるかが、対策の鍵になると言えそうです。
文部科学省は、教員の仕事のやりがいなどを広く伝えることで、教員志望者のすそ野を広げていきたいとしています。」

必要な対策は

文部科学省 教職員課 佐藤光次郎課長
「待遇改善は間違いなく、働き方改革のひとつの論点に出てくるが、教員という仕事の重みとか、やりがいが、ひとつの選択肢として確実に出てくるような魅力の発信とか、そういったことについて、取り組みを進めていきたい。」
 

一方、専門家は、教員のやりがいを訴えるだけでなく、国が財源を確保して、採用構造を見直す必要があると指摘します。

慶應義塾大学 佐久間亜紀教授
「教員の採用計画を長期的に再検討することは、各自治体がしなければいけない。
自治体の裁量の範囲では、格差が出てしまうので、国の支援は欠かせない。」
 

高瀬
「確かに、中長期的な対策ももちろん必要だと思うんですけれども、すでに影響は出ていますので、即効性のある対策はないのかなという気もしますね。」

大西記者
「そうですね。
教育委員会の中には、一定期間、臨採として勤務すれば、正規教員になるための採用試験の一部を免除するなどの措置に乗り出すところも出ています。
特効薬はないにせよ、これは義務教育の現場で起きていることですから、教育委員会や国は、あらゆる対策をとって、教員不足の解消を急いでほしいと思います。」