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2017年6月27日(火)

「産後うつ」こうして発見、悪化を防ぐ

幸せいっぱいのはずの出産。
しかし…。
こちらは、出産直後の母親の気持ちをリアルに描いた漫画です。
泣き止まない赤ちゃん。
3時間おきの授乳。
 

『きちんとやらなきゃ、何ひとつミスはできない』。
ギリギリの体力の中、追い詰められていく様子が描かれています。



 

「意味もなく涙がわーっと出てきて、何も考えられなくなって、ぼう然と、ただ座り込んじゃう。」

「誰も悪くないけど、どうしようもできなくてイライラ。」


 

産後のホルモンバランスの急激な変化や、育児のストレスで引き起こされる「産後うつ」。
10人に1人がかかると言われています。
深刻化すれば、取り返しのつかない事態も。
去年(2016年)、茨城県で生後2か月の赤ちゃんが母親に殺害された事件。
30代の母親は育児に悩み、産後うつの状態でした。

和久田
「出産した母親の10人に1人がかかるとされる『産後うつ』。
痛ましい事件も相次ぐ中、国や学会では、医療関係者向けに産後うつへの対応を盛り込んだガイドラインの策定を進めていて、近く公表する予定です。
重要なポイントになるのは、『早期発見』です。」

高瀬
「なぜかと言いますと、こちら。
これまで、産後うつが発症する時期は個人差があるとされていたんですが、最近の国の調査では、出産から2週間後をピークにした、およそひと月の短い期間にリスクが高まることが分かってきたのです。
こうした時期に産後うつをどう発見し、悪化を防ぐのか。
その取り組みを取材しました。」

不安感・イライラ… 母親襲う「産後うつ」

リポート:野田綾(ネットワーク報道部)

産後うつを経験した女性です。
現在2歳になる息子が生まれた直後、イライラすることが多くなりました。

産後うつを経験した女性
「ふたりきりの時に泣かれると、何を対処していいか、わからなくて、おろおろするばかりで。
子どもに追い詰められているような気がして。」

それでも、育児書通りのスケジュールをこなさなくてはと頭がいっぱいになり、心身共に疲れ果てていったと言います。

産後うつを経験した女性
「自分のことも息子のことも、どうしていいか、わからなくて、買い物の途中で横断歩道とか、高架下をのぞいて、だっこしながら、ここから落ちようとか、いろいろ考えてしまった。」

「産後うつ」から母親を救え ポイントは“産後2週間”

こうした母親たちの異変に早くから気付き、治療につなげていく先進的な取り組みが東京 世田谷区で始まっています。

まず、早期発見を担っているのが、区内にある、産婦人科医院です。
出産後の健診は、生まれてから1か月が一般的ですが、ここで行っているのは2週間後の健診です。
赤ちゃんの成長を見るだけでなく、チェックシートを使って、母親の精神状態も確認しています。
はっきりした理由もなく不安になったり、恐怖感を覚えたりしていないか。
10の項目について細かく答えてもらいます。

助産師
「2週間、おうちに帰ってみて、どうでしたか?」



 

健診に訪れた母親
「夜、なんでかわからないけど、全く寝てくれないときは、寝てくれ!って。
それ以外は(大丈夫)。」

チェックシートへの回答を細かく検討し、産後うつのわずかな兆候も見逃さないようにしています。

健診に訪れた母親
「2週間のあたまに入ったくらいで、あれもこれも聞きたいというのが増えた。
このタイミングで一回(健診が)あったのは、自分としても助かった。」

 

この2週間健診によって、出産から間もない母親の2割近くに産後うつの兆候が見られることがわかりました。
世田谷区での取り組みの最大の特長は、こうした早期発見だけでなく、精神科医とも連携していることです。

毎月、開かれている、この会合。
区内の産婦人科医や助産師、保健師のほか、精神科医も参加しています。
診療科の違いを越えた繋がりで母親を救おうという全国的にも珍しい試みです。
産婦人科では、母親の異変に気付いても治療は行えません。
そこで、検診や自宅訪問などでうつの兆候が見られた母親たちを精神科へスムーズに紹介できる仕組みにしました。

国立成育医療研究センター こころの診療部 立花良之医師
「産科だけで、メンタルヘルスが不調なお母さんのケアは完結しない。
多職種がサポートしていくことが重要。」


 

この仕組みに参加している世田谷区内の精神科クリニックです。
産婦人科医や保健師から紹介された女性たちを多く受け入れています。



 

週に1回、ここに通っている女性です。
産後、夫も母親も全面的にサポートしてくれましたが、不安感は日に日に増していったと言います。

精神科クリニックに通う女性
「すごく恵まれた環境だったのに、私ひとりが不安定だったので、保健師から、この病院を紹介されて。」

女性は、精神科の医師の診察を受け、授乳中でも服用できる薬を処方してもらいました。
今では、症状を抑えることができています。

クリニックおぐら 生田洋子精神科医
「お薬の使い方にも注意がいりますし、産後のうつは『時間がたつと治る』と思われていて、だからそれまで待とうという空気があって、早い段階から必要に応じて、いろんな連携がとれれば、わりと芽が小さいうちに断てる。」
 

さらに、このクリニックでは、受診に訪れた母親が子どもと一緒に利用できるデイケアも行っています。
臨床心理士や看護師が常駐し、親子に寄り添いながら精神面に気を配ります。
女性は、臨床心理士にささいなことも相談することで、育児を楽しむ余裕が出てきたと言います。

精神科クリニックに通う女性
「ここに来てよかった。
イライラすることもあるけど、元気に過ごしている。」
 

高瀬
「取材した野田記者です。
産後2週間をピークに、1か月という短い期間でリスクが高まるということに驚いた方も多かったと思うんですけど、その後、時間がたてば自然と癒されていくということでもないんですね。」

野田綾記者(ネットワーク報道部)
「そうなんです。
産後うつというのは、れっきとした病気なんです。
また、『夫のサポートなどがあれば大丈夫』というふうに思われがちなんですが、取材をした女性のように、家族の支えがあっても産後うつになることがあるんです。
きちんと診断を受けて、きちんと治療をすることが必要なんです。
世田谷区で行われているような、チェックシートを活用した早期発見や、専門医どうしの連携といった取り組みが、ほかの地域にも広がるよう、今後、ガイドラインでも呼びかけることにしています。」

和久田
「その一方で、もっとも身近にいる家族など、周囲の人たちには、どういう対応が求められますか?」

野田記者
「取材した産婦人科によりますと、母親たちに精神科のクリニックを紹介しても、中には抵抗感を感じて、なかなか行けないという人も少なくないということなんです。
ただ、母親の精神状態が不安定ですと、子どもの発育にも影響を及ぼしかねません。
本人の意思だけに任せているのではなく、一緒に受診をすることを促したり、本人に代わって医師と面談をすることも必要なのではないかと感じました。」

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