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2017年6月8日(木)

“赤ちゃんポスト”の10年

高瀬
「けさのクローズアップ。
幼い命と、10年にわたり向き合う現場です。」

生まれたばかりの赤ちゃん。
その命を、日本で唯一、匿名で託すことができる、「こうのとりのゆりかご」。
いわゆる「赤ちゃんポスト」です。
熊本市の病院に設置されて、10年を迎えました。
安易な育児放棄を助長するとの批判もありますが、1人でも多くの命を救いたいと、匿名での受け入れを続けています。

理事長
「“知られるくらいなら死ぬ”、叫び声を上げる人もいる。」



 

その一方で、子どもの成長とともに新たな課題も浮かび上がっています。

“赤ちゃんポスト”に託された少年
「本当のお父さん、お母さんはどこ?」



 

託される命とどう向き合うのか。
赤ちゃんポストの10年を見つめます。

“赤ちゃんポスト” ことしで10年

熊本市にある、民間の病院。
その一角には、生け垣で囲われた通路。
「赤ちゃんポスト」は、この奥にあります。

扉を開けると、中には小さなベッドがあります。
ここは、さまざまな事情で子どもを育てることが出来ない親が、24時間、匿名で赤ちゃんを託すことができる全国で唯一の施設です。
赤ちゃんを安全に保護する設備が整っているため、ここに託しても罪に問われることはありません。
 

赤ちゃんは、いつ、どのような状態で置かれるか分かりません。
その時に備えて、病院では、毎月訓練が行われています。
赤ちゃんがベッドに置かれるとアラームが鳴り、スタッフは直ちにポストに駆けつけます。
ここに託される赤ちゃんのおよそ半数は、へその緒がついたままなど、生まれて間もない状態。
命の危険があるケースも少なくありません。

病院スタッフ
「駆けつけたときは震えるというか、複雑な気持ちはあるんですけれど、どの赤ちゃんもかわいくて、大切な赤ちゃんなので。」


 

実際に、赤ちゃんポストに子どもを託そうと考えた女性です。
4年前、交際相手の子どもを思いがけず妊娠しました。

ポストの利用を考えた女性
「おろせなくて、時間がたってしまい、独りでどうにかという気持ちが強かった。」

未婚のまま、1人では育てられない。
誰にも言えない中、女性はホテルでひそかに出産し、「赤ちゃんポスト」に託そうと考えました。
ところが、破水してもなかなか生まれてきません。
パニックに陥った女性は病院に駆け込み、そこで出産しました。

ポストの利用を考えた女性
「(赤ちゃん)ポストがなければ、遺棄していたかもしれない。
育てられないのに、無責任な行動を取ってしまった。
申し訳ないなっていう気持ちしかない。」

 

この病院では10年前、各地で赤ちゃんの遺棄事件が相次いだことを受けて、ポストの開設に踏み切りました。
これまでに保護した赤ちゃんは130人。
命を守るには、匿名での受け入れが必要だと考えています。

慈恵病院 蓮田健副院長
「家族や役所にも相談できない、絶対に秘密にという人が最終手段で、誰にも相談できない女性の駆け込み寺として必要な存在だと思う。」


 

「赤ちゃんポスト」に託された子どもたちの大半は、児童養護施設や里親などのもとで育てられます。
その1人が取材に応じてくれました。
翼くんです。
翼くんは里親に引き取られ、一般的な家庭と変わらない生活を送っています。
スポーツが得意な明るい男の子に成長した翼くん。
ポストがあったおかげで、今の里親に出会うことが出来たと考えています。

“赤ちゃんポスト”に託された 翼くん(仮名)
「そこら辺に捨てて分からなくなるより、ポストという社会に守られたところに預けてくれたというのは感謝しています。」

“本当の親は誰?” 10年で課題も

しかし、成長とともに満たされない思いを持つようになりました。
両親について知りたいという気持ちが強まってきたのです。

“赤ちゃんポスト”に託された 翼くん(仮名)
「本当のお父さんお母さんはどこにいるんだろうとか、そういった気持ちが心の中でモヤモヤしていた。」


 

翼くんには、忘れられない出来事があります。
学校で、生い立ちを調べる宿題が出た時、自分だけ、生まれた直後の写真がなかったのです。

“赤ちゃんポスト”に託された 翼くん(仮名)
「小さいころの写真がなかったから絵で描いたりとか、やっぱり、1つでも写真を残して欲しかった。」

その後、断片的には両親の情報を得ることができましたが、悩みは今も続いています。

“赤ちゃんポスト”に託された 翼くん(仮名)
「生みの親との時間も自分の人生の一部だから。
育ての親との記憶はこれからでも作っていくことはできるけれど、過去には戻ることができないから、生きていた証しをポストに、赤ちゃんと一緒に預けるというか、何か残して欲しいなと思います。」

“本当の親は誰?” 10年で課題も

高瀬
「取材にあたった、科学文化部の山室記者です。
成長とともに『自分の生い立ちが知りたい』という男の子の願いというのは、自然な、かつ当たり前の願いなだけに、胸に迫るものがありますね。」

山室桃記者(科学文化部)
「親が手がかりを残していたというケースもあるんですけれども、30人近い子どもたちは、親は分からないままなんですね。
病院側は、子どもの将来を考えた場合に、匿名ということが最良かについては病院側も悩んでいるという状況なんです。」

“赤ちゃんポスト”10年 託す親の変化は?

和久田
「この10年の間に、子どもを託す親の側にも何か変化はあったんでしょうか?」

山室記者
「10年間、問題として指摘されているのが、先ほどのVTRでも紹介した女性のように、赤ちゃんポストに託すことを前提にして、危険な出産をする人が相次いでいるということなんですね。
環境の整っていない自宅や、車の中などで出産したとみられるケースは平成27年度には85%を占めていて、昨年度には、預け入れたすべてが危険な出産とみられているんです。」

“赤ちゃんポスト”10年 取り組みの広がりは

高瀬
「さまざまな課題があるんですけれども、この10年で、この取り組みというのは広がりを見せたんでしょうか?」

山室記者
「現時点では、ここ、熊本の慈恵病院だけなんですね。
病院では預け入れの前に何とか支援につなげようと、無料の電話相談も行ってきています。
この1年で6,500件以上の相談が寄せられていて、中には、病院で出産させて、子どもを養子縁組に出したケースというのもあるんです。
しかし、こうした態勢を整えるのは簡単ではなく、取り組みというのは、なかなか全国には広がっていないのが現状です。
国は、『子どもを放置することはあってはならない』というスタンスを続けていまして、子どもを育てられない親は児童相談所などに相談して欲しいと話しています。
ただ、追い詰められた状態にある女性などにとっては、公的機関は利用しにくいという指摘もあるんです。
こうした人たちを、どう支援につなげるのか。
赤ちゃんポストの10年の歩みは重い問いを突きつけているんです。」

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