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2017年6月7日(水)

薬師寺「食堂(じきどう」再建 5年の日々

高瀬
「失われていた貴重な文化遺産が、新たな姿でよみがえりました。」

1300年前に創建され世界遺産にも登録されている、奈良の薬師寺。
人々を病や苦しみから救う薬師如来をまつり、古くから信仰を集めてきました。

先月(5月)、およそ1000年前に失われた食堂(じきどう)と呼ばれる建物が再建され、完成を祝う式典が行われました。
かつて僧侶が修行した祈りの場。
そこに飾られたのは、縦横6メートルもある巨大な阿弥陀(あみだ)如来の浄土図です。

「すばらしい。」

「こんなすごい世界があるなんて、本当に感動。」

この絵を描いたのは、日本画の巨匠・田渕俊夫さん、75歳。
今の時代に必要な祈りとは何か?
自問自答しながら5年の歳月をかけて描き上げました。

高瀬
「薬師寺といえば飛鳥時代から続く由緒あるお寺ですが、戦乱や震災によって多くの建物が失われました。

創建当時のまま残っていたのは東塔(とうとう)だけでしたが、昭和50年代から再建を進めてきました。
そして、先月完成したのがこちら。
食堂(じきどう)です。」

和久田
「この食堂に飾る絵を託されたのが、日本画の大家・田渕俊夫(たぶちとしお)さん、75歳。
人生の集大成として挑んだ5年の日々を追いました。」

世界遺産 薬師寺に新たな“祈りの場”を

リポート:李憲彦(おはよう日本)

再建に向けた計画が動き出したのは、平成24年。
田渕さんは初めて、食堂があった跡地を訪れました。

日本画家 田渕俊夫さん
「広いですね、すごいわ。」

およそ1000年前に焼失した食堂。
300人もの僧侶が寝泊まりしながら修行する場でした。
ここに当時の建物を再建し、阿弥陀如来の絵を飾ろうという計画です。

日本画家 田渕俊夫さん
「こんな大きな仕事は最後かもしれない、がんばらないとね。
1000年生きる絵を描かないと。」

田渕さんは東京芸術大学に入学し、平山郁夫さんのもとで絵を学びました。
繊細な筆遣いで日本の自然を描き、高く評価されました。

代表作の1つ、京都・智積院のふすま絵。
墨だけで満開のサクラを表現しました。
日本画の大家となった田渕さんですが、仏様を描くのは今回が初めて。
どんな姿を描けばいいのか、各地の仏像をスケッチすることから始めました。

この日訪ねたのは、京都・三千院の阿弥陀如来像。
人々を極楽浄土に導く仏様です。
今回、田渕さんが描くのも、同じ阿弥陀如来です。

さらに、名作と名高い仏像の写真を集め、ひたすらスケッチを続けました。
3か月後、いよいよ阿弥陀如来の下図にとりかかります。
通常、顔から描きますが、田渕さんはなかなか顔に取りかかりません。
ようやく描き始めますが…納得いかないようです。

日本画家 田渕俊夫さん
「きれいに美しく、やればやるほど精神性が欠けることもある。
すごく悩んでいます。
いろんな知識を入れれば入れるほど、形が取りにくくなっている。」

田渕さんの作品に惚れ込み、今回の制作を依頼したのが薬師寺の山田管主(当時)です。
田淵さんに対して一切、制約をつけず、ただ「今の時代に求められる仏様を描いてほしい」と伝えました。
きっかけになったのは、東日本大震災です。

薬師寺の僧侶たちは震災後現地を訪れ、写経の会を開くなど人々を支える活動を続けてきました。
今回再建する食堂は、そんな人たちが祈り、生きる力を取り戻す場所になってほしいと考えています。

薬師寺 山田法胤管主(当時)
「苦しみを一生懸命乗り越えた先に、幸せの阿弥陀の世界がある。
人間の考え方を、幸せになっていく考え方に導いていきたい。」

この日、田渕さんのアトリエに大きなパネルが設置されました。
依頼を受けて1年。
いよいよ巨大な阿弥陀如来像にとりかかります。

まず、下図を拡大して投影します。
1年かけて描きあげた、阿弥陀如来と浄土の世界。
下図にそってガイドの線をかき、さらに描写を加えていきます。
「人々の祈りを受け止める仏様の顔をどう描くのか?」
田渕さんが最も大切だと考えたのは、目の表現でした。

日本画家 田渕俊夫さん
「一点を見ていたら、助けようとしても1人の人しか助からない。
そうじゃなくて、目ひとつでもすべてを見つめている、皆を救うようなお顔を表現したい。」

この日、食堂再建の重要なパートナーが田渕さんのもとを訪れました。

世界的な建築家の伊東豊雄さん。
革新的なデザインで数々の賞を受賞しています。
任されている食堂の内装デザインをこの日初めて見せました。

日本画家 田渕俊夫さん
「すごいですね。」

天井を覆うのは、光を反射させる特別なパネル。
阿弥陀如来の光に包まれた極楽浄土を表現します。

建築家 伊東豊雄さん
「阿弥陀如来は無限の光を与える仏様。
光が広がって、伝わっていく感じを表現したい。」

日本画家 田渕俊夫さん
「極楽というのを、仏画からも天井からも、ひとつの雰囲気をつくりたい。」

田渕さんは、最後の工程、色づけにとりかかりました。

これまで繊細な筆使いで美しい自然を描いてきた田渕さん。
苦悩の先にある極楽浄土の世界を柔らかな色彩で表現していきます。
先月26日、ついに食堂が完成しました。

1000年のときをこえてよみがえった、薬師寺の食堂。
中央には人々を優しく見つめる阿弥陀如来。
天井は重なる雲のような装飾が施され、周りの壁には仏教伝来の道のりを描いた壁画が飾られました。
5年の歳月をかけて田渕さんが生み出した、祈りのまなざしです。

3日間の特別法要に訪れた人々は5,000人を超えました。

「圧倒されて、動けないくらい。
(亡くなった)主人があそこにいるのかなと、導いてもらっていると思ったら、すごい感動しちゃって。」

「じわっと温かいものが感じられて、不思議に涙がわいてくる。
ものすごい慈悲深いものを感じる。」

日本画家 田渕俊夫さん
「できあがるまでは単なる絵だけど、人の心を癒やす絵に変わっていくのはものすごくうれしい。
絵描き冥利(みょうり)につきる。
こんな幸せなことはない。」

世界遺産 薬師寺に新たな“祈りの場”を

高瀬
「田渕さんの絵と、建築家の伊東さんの建物とがあわさった極楽浄土の世界というのは、見ていて本当にじーんとこみあげるようなものがありましたね。」

和久田
「ぜひこの前に立ってみたいですね。
この薬師寺の食堂は、来月(7月)1日から11月30日まで一般公開されます。」

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