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2017年4月20日(木)

性暴力 みずから声を上げた決意

高瀬
「この春出版され、大きな反響を呼んでいる本があります。
“13歳、『私』をなくした私”。
10代で性暴力の被害を受けた女性が、実名で被害の実態と回復までの道のりを描いた本です。」
 

“私が13歳のとき、父は私に性加害をするようになり、それは母と父が別れるまで7年間続いた。”

父親からの性暴力という過酷な体験を明らかにした山本潤(やまもと・じゅん)さん、43歳です。

家庭内での性暴力の実態を知ってほしい。
そして、被害者やその家族が、回復に向けて希望を持てる社会になってほしいと筆をとりました。

山本潤さん
「性暴力を解決するための取り組みを一人ひとりがしていくことがすごく大事。
社会が目覚めてくれれば。」

読者からは、深刻な被害への驚きの声、そして山本さんへの共感が寄せられています。

“性的虐待から逃れたあとも、こんなにトラウマに苦しむなんて。”

“山本さんが回復していく姿に私も救われた。”

性暴力の苦しみから立ち直った、1人の女性の訴えです。

高瀬
「山本さんが経験したような親や内縁の夫などによる子どもへの性暴力は、全国の児童相談所が把握しただけでも年間1,500件。
しかし、その被害は把握しづらく、実際には、この10倍もの被害があるのではないかと指摘する専門家もいます。」

和久田
「国会には今、110年にわたって大幅な見直しが行われていなかった刑法の性犯罪の分野を見直す改正案が出されていて、この家庭内での性暴力も改正のテーマの1つです。
今回、本を出版する上で、自身のつらい体験を赤裸々につづった山本さんも、刑法改正の議論に被害者として参加するなど働きかけを続けてきました。
彼女を奮い立たせたのは、性犯罪の被害者を取り巻く日本社会を変えたいという決意でした。

家庭内の性暴力を実名で 苦しみを乗り越えた記録

リポート:信藤敦子(科学文化部)

山本潤さん
「舞い散っていますね、きれい。」

花の美しさや、季節の移り変わりを感じる心。
被害を受けてから十数年、山本さんはこうした感情さえ抱けなかったといいます。
山本さんの日常が一変したのは、13歳の時。

“父は寝ている私のふとんに入ってきて、私の体を触るようになった。”

“抵抗することもできず凍りついていた。”

当時は性についての知識が乏しく、何をされているのかさえかわからなかったといいます。

山本潤さん
「シャットダウンして、どこの家でも起こっている当たり前のことなんだと思った。
だからこのまま受け入れる、受け入れないといけないんだと。」

いちばん身近にいる母親にさえ、助けを求められませんでした。

“子どもは言えない。”

“母親を傷つけたくないから。”

“家族を壊したくないから。”

みずからの被害を誰にも言えなかった山本さん。
20歳で父親と離れ、看護師として働き始めてからもトラウマに苦しみ続けます。
加害者である父親は処罰されずに、被害者である自分は体を踏みにじられるような苦痛を味わっている。
激しい不安や怒りをコントロールできず、うつ状態となりました。

山本潤さん
「加害者は(被害が)明らかにならないことで性暴力を繰り返して、平気な顔をして歩いている。
被害を受けた人が自分は誰にも言えないことをされてしまったと、墓場まで持って行くと思い生きていくのは、とても理不尽。」
 

山本さんに転機が訪れたのは、31歳のとき。
ある写真家との出会いでした。
アメリカで活躍していたフォトジャーナリスト、大藪順子(おおやぶ・のぶこ)さん。
自身も性暴力の被害者である大藪さんが、性暴力の被害者を撮影し、展覧会を開きました。
家族、教師、夫やパートナーから被害を受けた人たち。
山本さんは、誇り高く前を向き、ほほえみを見せる姿に衝撃を受けたといいます。
何よりも山本さんを勇気づけたのは、大藪さんが「被害にあった人たちが声を上げられる社会を」と訴える姿でした。

大藪順子さん
「被害者は悪くない。
声をあげて言いたい。」


 

山本潤さん
「とにかくすごい。
パンチをくらった感じ。
立ち上がる選択をされたことが、私に勇気、力を与えてくれた。」

性暴力の被害者が声をあげられる社会を、この目で確かめてみたい。
山本さんは、アメリカやカナダを訪れました。
そこで掲げられていたのは、被害者の意思を尊重する「被害者中心主義」という考え方でした。
被害者の負担が最小限になるよう、警察とのやりとりや心のケア、裁判の手続きなどが1つの場所でできるようになっていました。

山本潤さん
「圧倒されたというか、タイムスリップしたみたい。
日本の自分の考えの遅れを目の当たりにした。」

帰国後、勉強を重ねた山本さんは、2年前、被害者が安心して語れる場を作ろうと自助グループを立ち上げました。
月に一度、性暴力の被害者同士で集まり、自らの経験を語ってもらうことで、回復し、少しでも声を上げていけるよう支えています。

「これだけ内面や話しづらいことを話しても大丈夫という場はない。
潤さんが受け入れてくれたので、少しずつ、氷漬けにされていた地面からようやく芽が出たような。」

山本さんは、加害者がきちんと罪を問われ、被害者が守られる社会にしたいと、これからも支援の輪を広げる取り組みを一歩一歩進めていくつもりです。

山本潤さん
「(被害者が)社会的にマイナスの存在にはならない価値観を作ることが大事。
文化を変えるとか支援の形を変えるとか、そこがすごく大事。」

被害者の苦悩と願い

高瀬
「取材した信藤記者です。
性暴力の被害、本当に深刻なんだということが伝わってきました。」

信藤敦子記者(科学文化部)
「私も取材をして、改めてその深刻さに気づかされたことが数多くありました。
例えば性暴力にあうと、被害者は体も心も凍りつくフリーズ状態に陥って、何も感じられなくなり、大人になってからもさまざまな症状に苦しむなど、その影響は想像以上に長期に及んでいました。
家庭内の性暴力では、被害を打ち明けて適切な支援を受けられるまでに20年~30年かかっているという調査もあるんです。」

和久田
「しかも、自分の母親にも打ち明けられないというのは非常につらいですよね。」

信藤敦子記者
「山本さんも、母親に自らの被害について気づいていなかったのかと聞くことができたのは40代になってからということで、母親との間の長年の苦しみからようやく解放されたということです。」

高瀬
「本当に被害を少しでも減らしていかなければならないと思いますが、山本さんたちはどんなことを訴えているんでしょうか?」

信藤記者
「1つは、罪を犯した加害者は、きちんとつぐなってほしいということです。
現在の刑法では、強姦罪などは、被害者の告訴がなければ罪に問われない『親告罪』であり、暴行や脅迫がなければ罪には問えません。
今、刑法の性犯罪の分野の改正案が国会に提出されていますが、そこでは先ほどの『親告罪』の規定をなくすことや、親など生活を支える立場の人が、その影響力を使って18歳未満の子どもに対し性行為などをした場合、暴行や脅迫がなくても新たに処罰することなどが盛り込まれています。

山本さんは、この改正案について被害者の立場から意見を述べたり、先週も早期の成立を国会議員の前で訴えたりするなど活動を続けています。」

和久田
「こうした法律もそうですが、被害者への支援のあり方も考えていかなければならないですよね。」

信藤記者
「まだまだ性暴力の被害者の心理状況などに詳しい専門家は、十分にいない実態があるといわれています。
山本さんは、被害者の視点に立った支援がもっと日本でも広まってほしいと訴えていますが、こうした思いは家庭内の性暴力に限らず、性暴力被害者全体のもので、取り組みを急いで行く必要があると思います。」

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