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2017年4月18日(火)

どう減らす? 犯罪繰り返す高齢者

高瀬
「刑務所暮らしから抜け出せない高齢者が増えています。」

今、全国の刑務所が、ある課題に直面しています。
出所後、再び罪を犯して戻ってくる高齢の受刑者が増え続けているのです。
 

受刑者(75)
「窃盗。
(服役は)9回。」

受刑者(78)
「(服役は)13回目。
日常食べるもの、万引き。」

繰り返される高齢者の犯罪。
その背景と対策を探ります。

高瀬
「こちらは、65歳以上の高齢受刑者の推移です。
受刑者全体の数は年々減っているにも関わらず、高齢の受刑者はこのように、この20年で5倍近くに増加しています。
その7割が複数回、罪を犯した『再犯者』なんです。
高齢受刑者の5人に1人が2年以内に刑務所に戻ってきているというデータもあります。
なぜ、犯罪を繰り返してしまうのか。
何度も刑務所で服役した、ある男性を取材しました。」

なぜ犯罪を繰り返す? 服役11回 高齢男性の人生

身寄りのない高齢者などを受け入れている、北九州市の施設です。

佐藤久(さとう・ひさし)さん、85歳。
去年(2016年)から、この施設で暮らしています。
佐藤さんは、これまでに放火などで11回服役。
50年以上を刑務所で過ごしてきました。
背景には、“社会的な孤立”があります。

佐藤久さん(仮名・85)
「(出所のとき)いままで誰も迎えにこなかった。
心さみしい。」

子どもの頃、父親から虐待を受けていたという佐藤さん。
体には、火の付いた「まき」を押しつけられてできた火傷のあとが残っています。
虐待がきっかけとなり、むしゃくしゃするとゴミなどに火をつけるようになったといいます。
22歳の時、はじめて刑務所に。
家族と疎遠になり、出所するたびに短期間で放火を繰り返すようになりました。
次第に刑務所が唯一の「居場所」となっていったのです。
そして11年前の冬、佐藤さんは社会に衝撃を与える事件を起こします。

JR下関駅が焼失した放火事件。
けが人はいませんでしたが、市民に親しまれてきた駅舎が全焼。
被害額は5億円以上に上りました。
事件の8日前、佐藤さんは別の事件の服役を終えて、福岡の刑務所を出所したばかりでした。
当時74歳。
仕事は見つからず、帰る家もありません。
サウナなどを転々とし、所持金はあっという間に底をつきました。
そして、事件の前日。
自ら、万引きしたことを申し出て、警察に連れて行かれます。
しかし、事情を聞かれただけで、すぐに区の窓口に行くよう勧められました。
区の福祉事務所で支援を受けられないか相談しましたが、住所がないことなどを理由にとりあってもらえませんでした。
渡されたのは、隣町の下関駅までの切符。
所持金がない人へのマニュアルに従った措置でした。
真冬の下関駅に降り立った佐藤さん。
駅構内に身を寄せましたが、夜になるとそこからも追い出されました。
深夜、佐藤さんは再びゴミに火をつけ、駅舎に燃え広がりました。

佐藤久さん(仮名・85)
「行く所もないし、にっちもさっちもいかなくなった。」



 

「火をつけてどうしたかった?」

佐藤久さん(仮名・85)
「刑務所に戻りたい(と思った)。
悪いことしたと思っている。」

判決は懲役10年。
去年6月に出所しました。

服役中の佐藤さんと手紙のやりとりを続けてきた、NPO代表の奥田知志(おくだ・ともし)さんです。
佐藤さんが暮らす施設を運営しています。
佐藤さんの手紙につづられていたのは、「支えてくれた人は誰1人いない」という深い孤独感でした。

NPO法人 理事長 奥田知志さん
「いくらつらい状況だとしても、火をつけて刑務所に戻りたいというのは、いけない、それは通らない、やってはいけないこと。
一方であの日、あの夜、この社会には、“本来あなたは、こうすべきだった”という選択肢は、あったのか。
誰かつながっていたら、こうなっていなかったんじゃないか。」

佐藤さんが、この施設で暮らすようになってから、まもなく1年。
出所後、これだけ長く社会の中で生活したことはありません。
日々の暮らしの中で、自分の役割も見つけました。
NPOに届く米の精米作業を、自ら買って出ています。

佐藤久さん(仮名・85)
「いいことですよね、役に立つことは。
うれしいね。」


 

「もう刑務所には戻りたくない」。
佐藤さんの今の思いです。

佐藤久さん(仮名・85)
「絵を描いたり、体操したり、ここは自由になるけど、刑務所は自由にならん。
同じことを繰り返したら、もうあかん。
やっぱり(刑務所の)外がいいですね。」

“居場所は刑務所” 犯罪を繰り返す高齢者

高瀬
「取材した、社会部の本多記者です。
放火によって失われた駅舎は戻ってきませんけれども、その放火に至る経緯というもの、それから今の佐藤さんの様子を見ると、なぜ、もっと早く支援とつながれなかったのだろうという気もしますね。」

本多ひろみ記者(社会部)
「もちろん犯罪は決して許されるものではありません。
ただ、高齢の受刑者の中には、誰かの支援を受けなければ、社会で生きていけない人がいることも事実です。
佐藤さんは、駅への放火事件を起こすまでの1週間に、警察や病院、行政など、8つの公的機関と接触してきました。
誰か1人でも親身になって手を差し伸べていれば、重大な事件は起きずに済んだのではないかと強く感じました。」

和久田
「こうした再犯を防ぐために、国としてはどんな取り組みを行っているんですか?」

本多記者
「佐藤さんの事件などがきっかけとなって、国は出所した高齢者を福祉施設につなぐ取り組みなどを強化してきています。
しかし、こうした支援を受けられる人は限られている上、受刑者自身が自立する意志がなかったり、公的な福祉サービスを受けるのを嫌がったりするケースも多くあるということなんです。
そこで今月(4月)、全国の刑務所では、身寄りがなく、仕事も見つからない高齢者の社会復帰を後押しする初めてのプログラムを導入しました。」

どう防ぐ?高齢者の再犯 刑務所で新たな取り組み

北海道帯広市にある刑務所です。
高齢の受刑者は、およそ40人。
ほぼ全員が再犯者です。

ここでは、全国に先駆けて、高齢者の再犯防止を目指す新たな教育プログラムを導入しました。
その1つ、福祉サービスの知識を身につけてもらう指導です。


 

教育専門官
「生活保護、今までもらったことある人?」

受刑者
「名前は知っているけれど、受け取り方を聞いたのは初めて。」

 

専用のテキストを作り、生活保護や年金制度の仕組み、それに手続きの仕方を分かりやすく教えます。
刑務所では、自由な会話が禁じられているため、人と話すのが苦手になる人も少なくありません。
このため、出所後に自ら社会とつながるための練習もしています。

教育専門官
「生活能力のスキル、覚えてますか?」

受刑者
「人とのコミュニケーション。」

教育専門官
「自分のことをきちんと正確に伝える、相手に分かってもらえるように伝える。」

こうした訓練を重ねることで、社会的な孤立を防ぎ、再犯のリスクを減らすのが狙いです。

服役13回 受刑者
「社会に出ても、生活するのが不安だった。
生活保護をもらって生活できると教えてもらい良かった。」

服役5回 受刑者
「犯罪を最後にして、残りの人生はやっていけるのかなという気持ちになった。」

どう防ぐ? 高齢者の再犯

高瀬
「この刑務所での取り組みですけれど、効果というのは出ているんですか?」

本多記者
「そもそも罪を償わせるための場所だった刑務所が、受刑者の出所後の生活にも目を向けるようになったことは大きな意味があると思います。
何度も犯罪を繰り返す受刑者の中には、生活保護の存在すら知らなかった人もいたんです。
出所後、仮に仕事が見つからなくても、最低限の暮らしができる仕組みを知っただけで、刑務所しか戻る場所がないという投げやりな意識が徐々に変わってきているということなんです。
刑を終えた受刑者は、いずれ社会に戻ってきます。
刑罰と教育のバランスを取っていくことが再犯を防ぎ、結局、社会の安全にもつながると感じました。」

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