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2017年4月9日(日)

伝統の木おけ仕込み ~小豆島 醤油蔵の挑戦~

二宮
「蔵にずらりと並んだ、高さ2メートルの巨大なおけ。
実はこれ、しょうゆを造るための『木おけ』なんです。
木おけは、しょうゆのほかにも酒やみそ、みりんといった和食の調味料などを作る際にも用いられてきました。
しかし、時代とともにステンレス製のタンクが主流となり、木おけしょうゆの生産量は、全体の1%ほどになっています。」

小郷
「木おけで仕込んだしょうゆの日本一の産地と言われる香川県小豆島では、伝統の味を守り、受け継いでいくために、今、新たな取り組みに乗り出しています。」

伝統の木おけ仕込み 小豆島 醤油蔵の挑戦

瀬戸内海に浮かぶ、香川県・小豆島。
江戸時代から、木おけを使ったしょうゆ作りが盛んに行われてきました。
150年以上続く、しょうゆ蔵の5代目・山本康夫さん。
山本さんの蔵では、100年以上も前の古い木おけを使って、しょうゆが作られています。

木おけをびっしりと覆うのは、酵母菌や乳酸菌など、100種類以上の菌。
この菌が4年間じっくり時間をかけ、もろみの発酵を促すことで、添加物を一切使わずに、芳じゅんで深い味わいのしょうゆができるのです。
菌は気温や湿度によって、そのつど変化します。
山本さんは、その具合を見極めながら空気を送り込むことで、発酵を調節していきます。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「暑いですよ。
でもこれをやらないと菌たちが十分活動できないので。
菌が作って、私はお手伝いさんですね。」

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「自分たちが最初に作った、1本目の木おけ。」

5年前、山本さんは新たな挑戦を始めました。
この巨大な木おけを、自らの手で作ることにしたのです。
きっかけは、これまで木おけを作ってきた職人が、ほとんどいなくなっていることを知ったからでした。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「これはまずいやろうと。
私の代でおけ屋がいなくなると、将来的には続かないなと。」

山本さんは、全国で唯一、木おけ作りを続けていた大阪の職人の元へ、作り方を学びに向かいました。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「やるかやらないかしかない、やらなかったら終わる。
自分でやればいいやんって。」
 

くぎを1本も使わず、40枚の板を組合わせ、下がすぼまった円筒形にする木おけ。
上と下では、微妙に板の幅や角度が違います。
すべてが職人の経験と勘で作られていました。
いかに職人の感覚を再現するのか。
山本さんは独自の採寸表を作り、木おけの長さや幅などをミリ単位で測って、データ化したのです。
試行錯誤すること1年半。
初めての木おけが完成しました。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「これは苦労した。
円形脱毛症が3か所できた。
正直、涙が出そうなくらいほっとした、できたんやって。」

そして、去年(2016年)の秋。
自分で作った木おけで、4年間熟成させたしょうゆを初めて絞ることができました。

巨大“木おけ”を作れ! 小豆島 醤油蔵の挑戦

今年(2017年)1月。
5回目の木おけ作りに挑む山本さんの元に、心強い仲間たちが集まりました。

愛知から参加
「実家がみそ蔵なので、出来ることは出来るようになりたいなと。」

和歌山から参加
「主にしょうゆの製造をしている。
自分のためにも勉強させてもらいたい。」

しょうゆのほか、同じ木おけを使う、みそなどを作る職人が木おけ作りを学びたいと駆けつけたのです。
参加者の1人、宮﨑光一さん、24歳。
宮﨑さんは寿司桶やおひつなどを作る、おけ職人です。
去年、長崎県内に自分の工房をかまえました。
山本さんは、この先、誰もいなくなる木おけ作りの後継者として、熱い期待を寄せています。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「私の本業は、しょうゆ屋。
過去に木おけを何度か作っただけ。
かんなの使い方とか、基本的な部分は宮﨑くんのほうが出来る。
いい(木おけ)職人になってほしい。」

今年、山本さんは、ある決断をしました。
5つ作る木おけの1つを、宮﨑さんにすべて任せてみることにしたのです。

おけ職人 宮﨑光一さん
「“やった。いいんですか、ありがとうございます”と思った。
すごい経験値をもらえる、それがうれしかった。」

ところが、しょうゆのおけ作りは、ふだん手がける寿司おけとは勝手が違います。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「今のだいぶガタ踏んだやろ。
ここ、段差が出来ている。」

力加減がうまくいかず、まっすぐ削ることができません。
慣れない作業に苦戦が続きます。
 

おけ作りの終盤。
宮﨑さんを中心に、組み立て作業が進められました。
山本さんはそばで、じっと見守ります。
板を締め上げて、おけの形にしていく作業中、トラブルが起きました。

おけ職人 宮﨑光一さん
「まだ締められます?」

「まだいけます。」

ふだん手がける小さいおけと同じ感覚で締めたところ、木おけが大きくひずみ、あちこちに隙間ができてしまいました。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「ほったらかしにしようと思ったが、さすがに間に合わない。」

見かねた山本さんが、手助けに入ります。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「ゆるめて、1回ぴったりとつけて、ぎゅっと全部締め直す。
そうすれば、もう少しシュッとする。」

全体をバランス良く締め直すことで、なんとか持ち直しました。
10日ほどかけて、ようやく出来上がった宮﨑さんのおけ。
しかし、わずかな隙間から、水が漏れてしまいました。
この木おけの出来では、しょうゆ造りには使えません。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「光一ちゃん、100点満点で何点?」

おけ職人 宮﨑光一さん
「…。」

山本さんは、宮﨑さんがこの経験を生かして、これから成長してくれることを期待しています。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「悩んでいましたよね、それでいいと思う。
悩んだものを内に秘めて、1年間、自分の仕事で苦労していけばいい。
そうすると、また来年、ちょっと成長して帰って来てくれる。」

先月(3月)下旬。
この冬、山本さんたちが作った新しい木おけを使って、しょうゆの仕込みが始まりました。
このおけにも菌が住み着き、この先100年以上にわたって小豆島伝統のしょうゆが作られていきます。

ヤマクロ醤油 蔵元 山本康夫さん
「今、しょうゆを作れているのは、ご先祖様が(木おけを)残してくれたおかげ。
次に自分たちの子どもや孫の世代に、いかに、たすきをつないでいくか。
次にたすきを渡すまでが、私の役目。」

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