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2017年4月5日(水)

子どもの“偏食” 実態明らかに

高瀬
「今週は発達障害啓発週間です。
発達障害への理解を深め、支援の輪を広げていこうと、各地で啓発イベントが行われています。


 

京都タワーもシンボルカラーの青に染まりました。」




 

和久田
「発達障害は、『ASD=自閉症スペクトラム障害』や『ADHD=注意欠如・多動性障害』などの総称で、他人とのコミュニケーションがとりにくいのが特徴です。
文部科学省によりますと、可能性のある子どもも含めると、小中学生の15人に1人に上るとする推計もあります。
これまで、コミュニケーションが苦手という点に注目が集まり、さまざまな支援が行われてきました。」

高瀬
「ところが最新の研究で、これとは別に、発達障害の子どもたちが直面する大きな問題に、今関心が高まっています。
それは、食べられるものが極端に少ない『偏食』の問題です。」

発達障害の子ども “偏食”の実態 明らかに

リポート:池端玲佳記者(科学文化部)

静岡市に住む、須田雅樹(すだ・まさき)くんです。
3歳の時に広汎性発達障害と診断されました。

母親
「ごはんです、立ってください。」

会話が苦手なのに加えて、食べられるものが極端に少ないという悩みを抱えています。
この日の晩ご飯は、酢豚とスパゲッティ、ごはんでしたが…。

須田雅樹くん
「ごはんいらない。」

席に着くと、雅樹くん、ごはんをさけ、食事が進みません。
冷蔵庫にあったチーズを食べ始めました。

雅樹くんは4歳から偏食が始まり、小学校入学時には、チーズ、コロッケ、納豆、ポテトサラダ以外は何も食べられなくなっていました。
白いごはんなど、炭水化物が食べられない時期が続き、成長期に増えるはずの体重が逆に減少。
小学5年生の今も、21キロしかありません。

 

母 亜紀さん
「食べられるものがない。
見るからにがりがりで骨が見えていたり、足が細かったり、栄養が足りていない。」


 

長年、発達障害の子どもたちのカウンセリングを行ってきた、東京学芸大学の髙橋智(たかはし・さとる)教授です。

発達障害の子どもたちの半数以上に何らかの偏食があるという調査報告が出たことなどから、原因を探るための研究を進めてきました。
髙橋教授は、発達障害の当事者137人に、偏食について聞き取り調査を行いました。
すると、その背景に発達障害の人特有の「感覚過敏」などの感じ方があることがわかったのです。

例えば、赤くて丸い、おいしそうに見える、この「イチゴ」。
発達障害の人の中には、気持ち悪さや怖さを感じる人が多くいました。
イチゴの表面にあるいくつものつぶつぶが目に飛び込んで来るというのです。



一方、こちらのコロッケ。
サクサクした食感の衣ですが、発達障害の人の中には、口の中を針で刺されているように感じられ、「痛くて食べられない」と訴える人が少なくありませんでした。
このほかにも「食べ物をかむ音が耳障りでがまんできない」など、音や臭いについても同様の感覚過敏の傾向が確認され、食事がとれない原因となっている実態が浮かび上がりました。
 

東京学芸大学 髙橋智教授
「従来は“好き嫌い”“わがまま”と言われがちな問題だったが、これは生理学的な問題。
そもそも食に対する見え方の問題や、口に入れた感じ、中にはうまくそしゃくができなかったり、飲み込みが困難な方がいて、そういった特性や身体的な問題が、食の困難・偏食を大きく規定していることがわかった。」

こうした発達障害の人特有の感じ方は、なかなか周囲の人からは理解されず、長い間、見過ごされてきました。

高校2年生のあっくんです。
小学2年生の時、ADHD=注意欠如・多動性障害と診断されました。

あっくん
「食べられないんだけど。」

 

あっくんは、キノコや豆など表面が滑らかな食感に敏感に反応してしまい、体が一切受け付けません。
ゴムやプラスチックを口に入れられたように感じ、強い吐き気に襲われるのです。
保育園や小学校の給食の時間、食事がほとんど食べられず、昼休みも1人だけ教室に残され、泣いていたといいます。
「食べられない」と主張しても、「わがまま」だと聞いてもらえず、人前で食べることが次第に怖くなりました。

あっくん
「先生が(偏食は)おかしいと決めつけて、無理やり食べさせてくるのがつらかった。
怖かった、また同じことをさせられるんじゃないかと、トラウマがよみがえってくる。」

高校生になった今もトラウマは消えず、極端な偏食が続いています。
医師からは、糖尿病の予備軍と言われ、定期的に血液検査を受けています。
母親は、周りがもっと理解してあげていれば、こうした状況にはなっていなかったのではないかと考えています。

母親
「(子どもが)小さい間は気が付いてあげられるのは周りしかいない。
ごめんねと思った。」

発達障害の子ども “偏食”の実態 明らかに

高瀬
「取材した、科学文化部の池端記者です。
好き嫌いやわがままではない、この偏食の問題となると、深刻ですね。」

池端玲佳記者(科学文化部)
「こちらをご覧ください。

発達障害の当事者でその研究を続けている、東京大学の綾屋紗月研究員によりますと、例えば日常生活でも、落ち葉を見た時に葉っぱの細部がクローズアップされて、このように見えるということなんです。
発達障害というと、これまでコミュニケーションがうまくとれないという問題に焦点があてられてきましたが、当事者が抱える問題を、当事者の目線で解決していこうという研究がここ数年で進んだことで、偏食は好き嫌いの問題ではないということ、また、周囲の無理解に苦しむ子どもたちの実態もわかってきたんです。」

和久田
「そうした発達障害の子どもたちの偏食に、どう向き合っていけばいいでしょうか?」

池端記者
「発達障害の子どもの中には、強いこだわりがあったり、経験したことがないものに極度の不安を感じる子も多くいます。
まずはこうした不安を取り除くことが大切です。
そうした中、早い段階から子どもが食べやすいように調理して偏食を改善していこうという取り組みがはじまっています。」

“感覚の特性”に応じた調理 発達障害の子 偏食改善へ

発達障害などの子どもたちが通う、広島市の療育センターです。

ここではまず、子どもの食事の傾向を細かく親から聞き取ります。
それをもとに、一人一人の子どもの感覚の特性に応じて、給食の調理方法を変えています。




この日の献立はすき焼き。
たとえば、固いものが食べられない子どもには、食材をミキサーにかけたり、ふやかしたりして食感を軟らかく仕上げます。
反対に、軟らかい舌触りが苦手な子どもには、具材を素揚げして、サクサクの食感で提供します。


さらに、イラストなどを使って食べられる食材だということを示し、子どもに安心感を与える工夫もしています。





こうした工夫を重ねることで、偏食の子どもの9割以上が特別な調理を施さない通常の給食が食べられるようになっているということです。

母親
「本当にこんなにいろんな食材を食べられるようになるとは思っていなかった。」

母親
「食べることが好きになってきてくれた。
そこからどんどん『給食は楽しいからおいしい』とか(感想が)出てくる。」

“感覚の特性”に応じた調理 発達障害の子 偏食改善へ

高瀬
「こうして早い段階から子ども一人一人の特性を生かして対応していけば、偏食を改善することもできるんですね。」

池端記者
「入園時は偏食の傾向が強く、1品しか食べられない子も少なくありません。
例えばこの子にはカレーライス、この子にはオムライスというように、最初はそれしか食べられないものを作ってあげるところからスタートして、徐々に食べられる食品を増やす、地道な取り組みが行われているんです。
その結果、9割以上の子どもが2年ほどで普通に給食が食べられるようになっているということです。」

和久田
「9割というのは、こうしたきめ細かな対応の大きな成果ですよね。
ただ、学校現場などでここまで対応しようというのは大変ですよね。」

池端記者
「確かに、ここまできめ細かい対応はどこでもできるものではありませんが、例えば事前に献立を見せて、どんな食材が使われているのか子どもに説明してあげるだけでも、不安が取り除かれて食べやすくなるケースも少なくないということなんです。
このセンターの栄養士さんたちは取り組みをぜひ全国にもすすめたいと思っていて、今月(4月)中にも培ってきた具体的なノウハウをまとめてインターネット上で公開する予定だということです。
発達障害の偏食の問題への取り組みは、まだまだこれからです。
今後広げていくためには、国などの支援が必要です。」