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2017年3月3日(金)

“死後離婚” なぜ増える?

阿部
「『死後離婚』についてです。」

和久田
「どういうものなのか、説明します。



そもそも、配偶者が亡くなると、“離婚すること”はできません。
『死後離婚』とは、造語です。
『姻族関係終了届』という書類を提出して手続きします。
配偶者が亡くなった後、結婚によってできた義理の両親やきょうだい、いわゆる『姻族』との関係を断つことを指しているものなのです。
ただ、こうした手続きをしなくても、法律上、基本的には配偶者に、義理の両親から相続を受ける権利はなく、扶養の義務もありません。

それにもかかわらず、この手続きで姻族関係を断った人が、この10年で1.5倍、昨年度は2,783件と大幅に増えています。」

阿部
「なぜ、増えているのでしょうか。
取材をすると、『家族や家に対する世代間の考え方のずれ』が見えてきました。」

“死後離婚” なぜ増える?

リポート:中川早織記者(報道局)

夫の死後、姻族関係終了届を出したという女性です。
結婚した後、夫は実家の家業を継ぎ、両親と同居。
女性は家族を支えてきました。
思いが一変したのは、夫ががんで亡くなったあとでした。
家事や2人の子育てをしながら、家業を継ぐことになった女性。
義理の母親から、仕事の進め方にたびたび指摘を受けたと言います。

姻族関係終了届を出した女性
「嫁だからやるのは当たり前と押しつけてくる。
長男の嫁だから。
頑張っているのに何も認められなかった、悲しい。」

次第に女性は追いつめられ、夫の死についても責められていると感じるようになったと言います。

2年間、悩んだ末、義理の親族と関係を解消しました。

姻族関係終了届を出した女性
「向こうも言いたいことはたくさんあると思うけど、生き方がすっきりした。」

渋谷区役所です。
姻族関係終了届を受けたのはこれまで年に数件でしたが、最近になって増えてきました。



 

担当者
「本年度は14件あったが、すべて女性の方が出している。」

“死後離婚” 世代間にギャップ

提出には、相手方の同意は必要ありません。
義理の親族との関係を絶つ「死後離婚」。
街の人たちからは、疑問に思う声も多く聞かれました。

「分からないこともないけど、失礼だよ。
相手に失礼じゃない、死んだから“はい、さよなら”じゃ。」

「ちょっと情がなさ過ぎる。」


 

「寂しいかな。」

「今までずっと一緒にきたのにね。」

「家族ですからね。」


 

疑問の声も多い中、なぜ「死後離婚」をしたいのか。
関心があるという女性たちに話を聞くと、親の世代と自分たちでは、考え方にギャップがあるといいます。
30年続けた仕事を、義理の両親の介護のために辞めたという女性です。
女性の社会進出が進む今も、親の世代が思い描く「嫁の役割」が変わらないことに不満があります。

「やればやるほど、“介護は嫁がやるのが当たり前”。
親戚一同も私がやるしかないと思っている。」

さらに…。

「舅(しゅうと)が“この家では俺が一番”というタイプの人。
ふた言目には“嫁のくせに”。」

「選んだのは夫。
この親御さんすてきだから結婚したいと思っているわけでは正直なかった。」

では、「もし自分が年老いたとき、逆に関係を断たれる立場になったら?」と聞いてみると、戸惑いの声もあがりました。

「“なぜ自分の子どもは伝えてくれなかったんだろう”という気持ちはたぶんする。」

「やっぱり(自分が)反省しなきゃいけない。
その前に、息子といい関係を、お嫁さんがそう(関係を断ちたく)なる前にクッションになってくれる息子を育てたい。」

立場や世代によって見方が変わる「死後離婚」。
夫婦問題のカウンセラーは、まずはこうした悩みを夫婦間で話し合うべきだと言います。

夫婦問題カウンセラー 高原彩規子さん
「夫婦が元気なときに、ちゃんと向かい合って話し合って、つらくてもしんどくても、やっぱり(問題を)クリアしていく。
クリアできなくても常に考えていく。
最後の最後の手段として考えればいい。
これ(姻族関係終了届)があるからじゃなくて、“いろんなことを努力してきたけど結果だめだった”というときのもの。」

“死後離婚” 向き合う夫婦

「死後離婚」を知ったことで、妻が抱える不安と向き合った男性がいます。
64歳のこの男性。
母親は介護が必要で、今は施設で暮らしています。
男性は長男で、自分が死んだとき、母親の世話はどうするのか。
妻の負担になるのではないかと感じていました。
夫は、妻に気持ちを聞くことにしたのです。


「私が死んだあと、無理に(母と)いっしょに過ごしてほしくない。
(母と)あまり密な関係だと、しんどいかもしれないね。」


「なんとも言えない。」


「親だとか死後のつきあいとか、そういうところは(話し合うのを)避けていた。」



 

妻は結論をすぐに出せませんでしたが、自分の人生を夫が真剣に考えてくれたことがうれしかったと言います。


「夫のそういう考えとか言葉を聞くと、分かってくれるじゃないが、楽になれた。
ありがたいなと思った。」

“死後離婚” なぜ増える?

阿部
「取材した中川記者です。
こうした嫁姑の問題は昔からありますが、実際、夫の死後に関係を断つというのは大きな決断ですね。」


 

中川早織記者(報道局)
「実際出している数は、増えたとはいえ年間で3,000件弱なんですが、取材すると、50~60代女性を中心に、どのような制度か知りたいという声はすごく多かった印象なんです。」

和久田
「ただ、義理の親の立場からすると、届けを出されると『裏切られた』と感じたり、とまどいを感じることもあると思いますよね。」

中川記者
「家族問題に詳しい早稲田大学の棚村教授は、VTRにも出てきた『世代間のギャップ』の背景について、『戦前は父を“家長”として、子どもやその配偶者がつながる縦の関係が家族とされてきた。しかし、戦後は“夫婦”という単位が家族という形になった。ただ、今も高齢の世代を中心に従来の家制度の考えが根強く残っていることがあるのではないか』と話しています。」

阿部
「それが、その下の世代では変わってきたということなんでしょうか?」

中川記者
「今、70~80代の人たちは、『嫁は相手の家に入る』という意識が強く、介護や家のことも当然のように担ってきた人が多いと思います。
それだけに、自分の子ども世代も同じようにやってくれるという期待もあるのではないでしょうか。
しかし一方で、その下の世代の人たちは、核家族化が進む中、家に入るという意識は薄れています。
また、共働き世帯が増えるなど、女性が担う役割も多様になる中で、かつての『嫁』としての役割は果たすことが難しくなっているという面もあります。
こうした世代間での考え方のギャップが背景にあるのだと思いました。」

和久田
「一方で、届けを出すことに関心がある世代の人たちの中にも、自分が年をとった時に、子どもたちの世代から届け出を出されることには、複雑な反応でしたね。」

中川記者
「そうですね。
取材した女性たちは、息子や嫁に負担はかけたくないのだけど、関係を断たれるようではさみしいと語っていました。
今後、少子高齢化が進めば、若い世代にはさらに負担が増えることも見込まれます。
この問題は、単に嫁・姑という問題ではなく、社会が変化する中で、親と子、夫婦、そして家族がどうあるべきかということを突きつけられているように感じました。」

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