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2016年12月20日(火)

“保育士が足りない” 過熱する争奪戦

阿部
「『待機児童の問題』が新たな局面を迎えています。」

待機児童の解消に向けて、各地で次々と誕生する保育園。
その一方で、教室に空きがあるのに受け入れる子どもの数を減らす保育園が増えています。
理由は、保育士不足です。
 

保育園の園長
「保育士が足りない。
応募者がいない。」

保育園の園長
「すがるような思いで、保育士探しをやっている。」
 

必要な保育士が確保できず、ゼロだった待機児童が再び出た自治体も。




 

日本総研 池本美香主任研究員
「建物をつくっても、待機児童の解消にならない。
新たな問題が、いま発生してきている。」


 

阿部
「待機児童対策として、進められてきた保育園の整備。
それだけでは、この問題が解決しない現実が浮かびあがっています。
課題となっているのは、保育園の運営に支障をきたすほどの深刻な保育士不足です。」

和久田
「取材を進めると、自治体による保育士の争奪戦が、これまでになく過熱している実態が見えてきました。」

“保育士が足りない” 自治体間で争奪戦

リポート:一柳和人(おはよう日本)

今月(12月)、千葉県船橋市で開かれた、保育士の就職相談会。
就職を希望する大勢の人が市外からも詰めかけました。
保育士をひきつけているのは、船橋市の手厚い手当です。

「千葉市から来た。
待遇面とかいろいろ学校で教えてもらったので。」

「船橋の手当が大きいので、できれば船橋市内で探せたらいいなと。」

 

昨年度、待機児童の数が全国ワースト2位だった船橋市。
今年度は、保育士の月給をおよそ3万上乗せする手当や家賃補助を設けるなど、優遇策で保育士の採用につなげようとしています。

船橋市 保育認定課 丹野誠課長
「何としてでも保育士を確保して、待機児童を減らしていく決意があった。」


 

一方、同じ時期に船橋市にほど近い、千葉市で開かれた保育士の就職説明会。
およそ30の保育園がブースを構えましたが、空いている席が目立ちます。
参加者は10人余りにとどまりました。
 

保育園の園長
「期待して来たけど、少ない。」



 

自治体の間で明暗が分かれる保育士の争奪戦。
千葉市は、深刻な事態に陥っています。

今年度に向けた保育士の採用試験で、合格者のなんと半数近くが採用を辞退。
その多くが船橋市など、周辺の自治体に流れたとみられています。

千葉市 こども未来部 佐々木敏春部長
「保育士の確保について、自治体の競争が激しくなっている。
非常に深刻だと考えている。」


 

影響は、千葉市の保育現場を直撃しています。

この保育園では、保育士の欠員を補充できず、最大36人まで可能な3歳未満の子どもの受け入れを28人に制限しています。
認可を受けた保育園では、保育士ひとりがみることができる子どもの数が決まっているため、保育士が減ると受け入れも減らさざるを得ないのです。
 

高浜第一保育所 伊東文栄所長
「申し訳ないと思うが、どうしても受け入れられない状況。」



 

今年度、千葉市ではこうした保育園が9か所にのぼり、3年ぶりに待機児童が出る大きな要因になりました。

保育士争奪戦 深刻な影響も

リポート:小林さやか(NHK福岡)

保育士の奪い合いによって、地方ではより深刻な事態も起きています。

人口が増え続ける福岡市では、この3年で、保育園を100カ所近く建設。
来年度も34カ所をオープンさせる予定です。

その福岡市に保育士が次々と流出しているのが、隣接する大野城市です。
今年(2016年)の待機児童は去年(2015年)の倍に増えました。
この保育園でも、今年すでに保育士3人が退職。
園児の受け入れを制限しています。
それでもなお、ぎりぎりの人数。
残業が増えるなど、残った保育士の負担は限界に達しているといいます。

平野保育園 齊藤千加子園長
「体を壊して退職する人が出てくる、1年に1人。
同じような内容(の保育)を、どこまで続けていけるか懸念材料。」


 

さらに、子どもの安全が脅かされる事態も起き始めています。

福岡県内の、ある保育園に子どもを通わせる保護者です。
この園では、退職者が相次ぎ、担任が何度も入れ替わりました。
先月(11月)には、子どもが頭に大けがをする事故もおきました。
保護者に対し、園は「目が行き届かなかった」と説明したといいます。

 

子どもを預けている親
「今のままだと、大きな事故につながるのでは。
(子どもを)預けていて大丈夫か、不安しかない。」

過熱する保育士争奪戦 保育現場への影響は?

和久田
「福岡放送局の小林記者とお伝えします。
保育士不足によって、子どもの安全面にも影響が出てきているんですね。」

小林さやか記者(NHK福岡)
「取材した園の中には、保育士の流出が相次ぎ、子どもに関する大事な情報がうまく引き継がれず、アレルギーがある子どもの給食を取り違えそうになったという話もありました。
保育士が減る中で、こうした事態が起きないように対応すればするほど、さらに過酷な働き方を強いられるという負の連鎖も起ききているんです。」

阿部
「こうした事態は、ほかの自治体でも起こりうることなんでしょうか。」

小林記者
「そう思います。
そもそも保育士が少ない中で、急激に保育園の数だけを増やして、限られた人材を奪い合うという動きは、千葉や福岡以外でもすでに起きています。
そもそも保育士は、他の職種に比べて給与が低いので、少しでもいい手当てをつける自治体があると、そちらへ流れてしまいがちなんです。」

和久田
「とはいえ、市町村の財源も限られていますよね。
そうした中で、人材を確保していくにはどうすればよいのでしょうか?」

小林記者
「給与ではなく、働き方を工夫することで、かつて保育士だった人を現場に呼び戻すことに成功した園が横浜市にあります。」

“元保育士を職場に” カギは「子連れ復帰」

横浜市の保育園で働く、保育士の山下さんと3歳の颯大(そうた)くん親子です。



 

山下さんは、この保育園で颯大くんを預けながら働いています。
出産を機に、一度は保育士を辞めた山下さん。
資格を持ちながら働いていない、いわゆる「潜在保育士」でした。
復職を希望しながらも、保育園に空きがなく、子どもを預ける場所がなかったのです。
この園では、山下さんのような人が再び働けるよう、子育てと両立できる環境を整備。
今では、11人いる保育士のうち、9人が元潜在保育士です。

保育士 山下理江さん
「働こうと思ったときに(子どもを)保育園にまず預けなくてはいけないが、保育園に入れなかった。
(子どもと)一緒じゃなかったら、たぶん働いていなかった。」

保育士不足 解決策は?

阿部
「子どもが通う保育園で、保育士が働けるわけですね。
こうした取り組みは、他でもすぐにできそうですよね。」

小林記者
「潜在保育士というのは、全国に約80万人いるといわれています。 そのうち7割が「ママさん保育士」といわれているんです。
なので、非常に効果はあると思います。
ところが、こうした取り組みはこれまで、他の子どもとの平等性の観点から、なかなか進んできませんでした。
ただ、今、保育士不足に拍車がかかっている中では、ママ保育士が復職することのメリットはとても大きいので、同じ園とまではいかなくても、保育士の子どもを優先的に入所させようという取り組みが全国で広がっています。」

和久田
「そうした取り組みがますます進めば、この問題は解決するのでしょうか?」

小林記者
「子どもの優先入所や自治体の手当て、こういったものも大切な施策ではあるんですけれども、そのばしのぎにすぎない面があります。
保育士の仕事というのは、専門性がある大切な仕事なんですが、賃金が見合わないばかりか、最低限の働き方さえ守られないような事態になっています。
目先の保育士を確保する、数を合わせるという施策だけではなくて、国の未来を担う子どもたちをどうやって育てていくか、そういった視点を持って、制度のあり方自体を抜本的に議論するという時期になっているのではないかと思います。」