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2016年12月10日(土)

“日本の科学は空洞化する” 研究現場で何が…

近田
「今回のノーベル賞の受賞が決まってから、大隅さんは、基礎科学の研究環境が厳しい状況にあると繰り返し訴えてきました。」

 

小郷
「『日本の科学は空洞化する』。
国内の研究現場で何が起きているのでしょうか。」

“日本の科学は空洞化する” 研究現場で何が…

東京大学の工学系の研究室です。
取り組んでいるのは、液体の分析技術の研究です。



 

電子回路のように複雑な溝を切った、このガラスの板。
ごく微量でも分析が可能なため、血液検査などに応用できると世界から注目を集めています。

この研究室を率いる、北森武彦(きたもり・たけひこ)教授です。
その下で、実際の研究を担うのは、大学院生や博士課程を修了した若い研究者たち。
しかし、研究者の道を選ぼうという学生は減っていると言います。

 

東京大学 北森武彦教授
「これは本当に危機的な状況ですね。
(研究を)支える数がいないので、支えられなければ進められない。」


 

その原因は、研究者を取り巻く環境にあります。

先月(11月)から、この研究室で働く、樽井寛(たるい・ひろし)さんです。
日本を代表する研究機関で成果をあげてきましたが、今の立場は「アルバイト」、つまり非正規雇用です。
安定したポストを探し続けていますが、なかなか見つからないのが実情です。
 

樽井寛さん
「終身雇用としてずっと同じところ、身分が保障されている状態で研究する、そういう環境がいちばん、私たちにはうれしい。
なかなか、そういうわけにはいかないのが世の中の現状ですね。」

 

背景にあるのは、研究ポストの減少です。
研究者を志す学生は、大学院の修士課程を経て、博士課程へと進みます。
その後、大学で助教などの正式なポストにつきます。
ところが、全国の国立大学の運営費は、平成21年からの7年間で750億円も削減。
その影響で、およそ2,000人の研究ポストが失われ、不安定な立場の研究者が相次いでいるのです。
樽井さんが今の研究室にいられるのは、来月(1月)まで。
次の仕事場を探す日々です。
短期間で研究室を転々とする立場では、1つのテーマをじっくり研究することなど考えられないといいます。

樽井寛さん
「綱渡りな人生ですね。
いい研究をしていても雇用がなくなった時、研究者人生が途絶えてしまう。
研究を続けられない境遇は悲しい状況。」

研究者の置かれた厳しい現実。
その影響は、さらに若い世代にも及んでいます。

「修士課程の方、手を挙げてください。
博士過程に行く方は?」



 

全員が「研究者にはならない」と答えました。

「博士課程か就職か迷ってはいたが、博士課程は修行のイメージが強くて。」

「社会の歯車じゃないですけど、社会人として働くほうが安心感がある。」

 

この研究室に限らず、博士課程に進む学生の割合は全国的に下がり続けています。
北森教授は、このままでは日本の研究は衰退するばかりだと危惧しています。

東京大学 北森武彦教授
「研究開発をして新しい価値を生む人たちが、大学に縛られるのを、むしろいやがる時代。
もう科学技術を支える人が日本からいなくなる。
20年後に科学技術立国(存続が)本当にできているのか。
そのくらい差し迫ってる。
この先どうなっちゃうんだろう、そのくらいの危機感ですね。」
 

近田
「取材にあたった科学文化部の田辺記者とお伝えします。
基礎研究の現場に若い人が来ないのは、今後が心配ですよね。」

田辺幹夫記者(科学文化部)
「実はすでに、日本の研究力に影響は出ていると考えられるんです。



 

こちらのグラフは、世界で発表された論文に占める国ごとの割合を示したものなんです。
日本を見てみますと、1990年代、アメリカに次いで世界2位を誇っていましたけれども、2000年を過ぎたころから下がり続けて、やがて中国にも抜かれて、現在は5位まで下がっているんです。」

小郷
「大隅さんが『日本の科学が空洞化する』というふうに心配していらっしゃいましたけれども、まさに現実になってきているということなんでしょうか?」

田辺記者
「特に、成果がいつ出るかわからない基礎科学の分野では、非常に深刻です。
リポートで紹介しました、ポストの減少以外にも、予算の仕組みの変化も影響しているんです。
今、研究の世界では、短期間で成果をあげなければ、研究費がなかなか獲得しずらい状況となっています。
すぐに結果が出るテーマを選びがちで、じっくり腰を据えた研究がしづらいという現場の声も聞こえてきます。」

近田
「今後、日本の科学技術の力を保ち続けるためには、何が必要になっていきますか?」

田辺記者
「まずは、とりわけ若い研究者が、安心して研究できる環境が重要だと思います。
また、成果を競って、予算を獲得するのがなかなか難しい基礎科学の分野にも、積極的に予算をつけることが必要だと思います。
基礎科学は、結果が出るまでに20年、30年と長い時間がかかるテーマもあります。
そのことを社会として理解して、日本の『英知』を担う人たちを支えられなければ、科学技術立国・日本の先行きは厳しいと感じています。」

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