これまでの放送

2016年11月24日(木)

原発事故と向き合う高校生

先週金曜日、福島県内の高校生たちが、ある場所を訪れました。
東京電力福島第1原子力発電所です。
原発の事故後、18歳未満の立ち入りが認められたのは初めてのことです。



事故から5年8か月。 
農業や観光業などで続く「風評被害」。
福島から自主避難してきた中学生に対する「いじめ」。



 

「重装備なんだな。」




 

廃炉まで40年かかるとも言われる中、高校生たちは現場で何を感じたのでしょうか。

和久田
「今回、東京電力福島第一原発を訪れたのは、県立福島高校で化学や物理に取り組む『スーパーサイエンス部』という部活の生徒たちです。
震災直後から身近な場所の放射線量を測ったり、風評被害に苦しむ農家から直接話を聞いたりして、原発事故の実態を福島県外や海外の人たちに伝える活動をしてきました。」

阿部
「震災から5年がたち、東京電力は関係者以外の原発の視察を受け入れつつありますが、18歳未満の高校生が立ち入るのは今回が初めてです。
高校生たちは、なぜ原発を視察しようと思ったのか、現場で感じたことは何か、取材しました。」

高校生が原発視察へ その思いは

リポート:夜久恭裕(おはよう日本)

先月(10月)開かれた、原発の視察に向けた勉強会。
視察の許可が下りた9月から、生徒たちは専門家を招いて準備を進めてきました。


 

東京大学大学院 理学系研究科 早野龍五教授
「廃炉の最終的なところを見届ける世代、特に福島で生まれ育った世代は、それをきちんと見ていく、一番最初のチャンスとして、現場はどうなっているか、君たちの目できちんと見てほしい。」

 

参加する生徒は本人が希望し、保護者の同意も得た13人です。

その1人、2年生の法井美空(のりい・みく)さんです。
廃炉に40年かかるとも言われる中で、現場が今どうなっているか知りたいと参加を決めました。


 

法井美空さん
「働いている人がどういう思いでいるのか気になるし、(廃炉が)どれくらい進んでいるのか、問題点は何か。
メディアで聞いただけでは分からないこともあるので、自分の目で見て確認するのがいちばんかなと思って参加した。」
 

小学5年生の時に震災に遭った法井さん。
その後、もとの生活を取り戻すうちに、原発への関心は薄れていました。
それが変わったのは、「スーパーサイエンス部」の活動がきっかけでした。

今年(2016年)5月、法井さんたちは街の中心部にあり、市民に親しまれてきた信夫山を訪れました。
震災直後に、基準を超える放射線量が観測され、山の中にある公園は一時、利用が制限されていました。
法井さんたちは、線量がその後どうなったのか調べました。

「0.254マイクロシーベルト/h。」




 

集めたデータは、地元の幼稚園で報告しました。
震災以来、中止されていた信夫山への遠足を再開すべきか、保護者たちが迷っていると聞いたからです。
法井さんたちは、自分たちで測った線量を示しながら、専門家の意見も交え、遠足を再開しても大丈夫だと説明しました。
しかし、保護者から飛び出したのは思いがけない質問でした。
 

保護者
「自分に子どもができたとして、行かせたいと思いますか?」



 

法井さんにとって、信夫山は特別な場所でした。
毎年春になると、家族や友だちと一緒に登っていました。
それが今も「危ない」という声が根強く残り、遠足が実現しないことに悔しさがこみ上げてきたのです。

法井美空さん
「これ(遠足)がないと春が始まらないくらい、自分にとっては大きな機会で。
今しか子どもと親が一緒に山に登ることは、自分は今、高校生になってから親と信夫山に登ろうという気にならないので、今しかできない大事な経験だと思う。
だから復活してほしい。」

そんな法井さんが今、心を痛めているのが、横浜で福島から避難してきた中学生がいじめを受けていた問題です。

法井美空さん
「そのニュースを、朝バタバタしている時間に見たが、そのときに思わずテレビの前で立ち止まってしまって、なんか、つらいなと思った。」

福島に向けられた偏見の目。
人の心にいったん染みついた先入観はなかなか変わらないことに戸惑いを感じていました。

いよいよ視察の日。
生徒たちは、さまざまな問題の引き金となった原発の事故現場を直接、その目で確かめて自分たちに何ができるのか考えようとしていました。
発電所の構内は、大半のエリアで放射線量が下がったとして、普段着での視察が認められています。
 

最低限の対策として、靴に袋をかぶせ、手袋をします。
常に線量計を携帯し、被ばく量も管理します。
バスの中であれば放射線を遮へいするため、視察中はバスから降りることはありません。

出発して、まず目に飛び込んできたのは、たくさんのタンク。
今も大量の汚染水が出続けているとの説明に、思わず東京電力の社員に対策は万全なのか、たずねました。

法井美空さん
「タンクが並んでいる領域の周りに壁があるんですか?」

東京電力の担当者
「周りも壁もあって、そこには屋根がつけてあって、雨が入るのを少しでも防ぐようになっている。」
 

そして、水素爆発で無残な姿をさらした原子炉建屋。

そこは線量も高く、防護服がないと活動できないエリア。
核燃料の取り出しもまだ終わっていないため、毎日少しずつしか作業は進められません。

法井美空さん
「重装備なんだな。
これだけ近いので。」

生徒たちがここに滞在したのは、ほんの数分。
40年かかるという廃炉の厳しい現実を目の当たりにしました。
およそ2時間の視察が終わりました。

最後に、被ばく線量は問題がなかったことを確認した法井さんたち。
ほっとすると同時に、福島の復興への長い道のりをかみしめていました。

法井美空さん
「廃炉という問題は大きいとすごく感じたし、これから長い間、福島の人として向き合っていかなければならない問題だと改めて実感した。
よい面も見たが、まだ残っている悪い面も見た。
両方の面をしっかり伝えていけたらいいと思う。」

 

阿部
「現実と向き合おうとする高校生たちの強い気持ちを感じましたが、一方で若い世代に放射線や廃炉の問題だけでなく、偏見という問題まで背負わせている現実は忘れてはなりません。
福島に対する偏見は海外でも根強く、福島高校の生徒たちが外国の高校生と交流した時に、福島に人が住んでるのかと聞かれ、傷ついたこともあったそうです。」

和久田
「今回、原発事故の現場を視察した法井さんたちは、来年(2017年)春、フランスに行き現地の高校生たちと再び交流することになっていて、その場で『福島で自分たちも頑張って生きていることを伝えたい』と話していました。」