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2016年11月20日(日)

“マミートラック” 働くママの落とし穴

小郷
「通常、企業内でのキャリアップは、このように年次や能力に合わせて階段を上るように昇進していきます。
それに対して、育児をしながら働く女性たちの中には、昇進の階段を上がれずに、陸上のトラックを走るように同じ場所をぐるぐると回っている人たちがいると言われています。
育休から復職すると昇進に縁がないキャリアコースに固定されたり、仕事の内容も限定されてしまう場合があるんです。
こういった状況が『マミートラック』と呼ばれています。」

近田
「NHKが出産後、復職した1,000人以上の女性を対象に調査しましたところ、『マミートラック』から抜け出せず、仕事にやりがいを持てなくなっていくという女性が多いことがわかってきました。」

“マミートラック” 働くママの落とし穴

リポート:戸田有紀(報道局)

復職後、マミートラックに陥ったという女性が取材に応じてくれました。
都内のIT企業で働く、鈴木友子(すずき・ともこ)さんです。
システムエンジニアとして働き、開発を手がけたシステムが大手企業にも採用されました。
順調に昇進し、仕事にもやりがいを感じていたといいます。
 

鈴木友子さん
「おもしろかったですよね、仕事がやっぱり。
他の人からも『期待されているんだね』みたいな感じでも言われていたし、それに応えたいみたいな気持ちもあったかなと思いますね。」
 

39歳で長女を出産。 今、4歳と2歳の子どもがいます。
復職後は短時間勤務で働くことにした鈴木さん。
すると任されたのは、以前のキャリアとは全く異なる、資料やデータの整理といった仕事でした。

鈴木友子さん
「『お母さんになったからね』みたいな感じで。
軽作業みたいな業務ばかりしかなくて。」

さらに上司からは「フルタイムで働けないと昇進も難しい」と告げられたと言います。
共働きで、ふだんは1人で育児をしているため、フルタイムは厳しいのが現実です。
仕事のやりがいも、働き続ける意欲もなくなってきたと言います。

鈴木友子さん
「全然、自分が必要ない感じに思えてきて、モチベーションもない感じですよね。」


 

どのくらいの女性が「マミートラック」に陥っているのか。
NHKでは、子育て中の女性を支援する複数の団体の協力を得て、インターネットでアンケートを実施。
出産後に復職した1,300人から回答を得ました。

その結果、「マミートラックを経験した」という人は、およそ28%。
4人に1人に上りました。

「短時間勤務にしたら、評価が下がった」「時間制約がある社員は2軍扱いだったり、昇格しにくい」「たいした仕事を任されず、自分の気持ちが空回りしている」。
短時間勤務など、働く時間に制約があることで、仕事の内容も、評価も変わってしまったという声が次々と寄せられました。
なぜ、「マミートラック」に陥るのか。
専門家は、子育て中の女性には責任のある仕事を任せにくいと考える企業の見方があると指摘します。
 

法政大学 キャリアデザイン学部 武石恵美子教授
「お母さんになる前の女性が能力を発揮して優秀に働いていたのに、お母さんになったとたんに、戦力外通告されてしまう。
働き方が変わっただけで、仕事の中身まで変わってしまうのは、せっかくの優秀な人材を“むだづかい”していることになる。」

“マミートラック” 企業の対策は?

子育て中の女性にも、やりがいを持って働いてもらうにはどうしたらいいか。
「マミートラック」の対策を進めている企業があります。

カルビー 代表取締役会長 松本晃さん
「みなさん、定時になったら帰りましょうね。
早く帰りましょう。」


 

外資系企業から招かれた、大手菓子メーカー会長の松本晃(まつもと・あきら)さん。
6年前、短時間勤務の女性にも公平にチャンスを与え、成果を出せば、キャリアアップにつながる制度を導入しました。
 

就任当初、社内には子育てしながら、短時間で働く女性が第一線で活躍するという雰囲気はなく、管理職も男性ばかりだったといいます。

カルビー 代表取締役会長 松本晃さん
「長時間とか、短時間ではなくて、成果で評価される時代に変わった。
成果を求めているから、長時間労働は全くなんの意味もない。」


 

改革のもと、新たに管理職になった北村恵美子(きたむら・えみこ)さん。
子育てしながら、短時間勤務をしています。


 

北村さんの部下は女性3人、男性1人の4人。
主力商品のポテトチップスを担当し、新商品の開発を週に1度のペースで手がけています。


 

北村恵美子さん
「きょう電車の中で考えてきたんだよね。」



 

限られた時間で成果を出すため、職場でのデスクワークはできるだけ少なくし、部下のアイデアを引き出すミーティングに重点を置いています。

北村恵美子さん
「カタカナ…。
かわいくない?」

部下
「ひらがな路線に。」

部下
「デザインが厳しそうですね。」

部下
「すごく忙しいと思うんですけど、忙しさをあまり出さずに時間を割いてくれる。」

部下
「ちゃんとこちらの意見も聞いてくれる。
すごく尊敬していますね。」
 

この日の夕方、急きょ、営業との打ち合わせが入りました。

北村恵美子さん
「シンプルにわかるようにしないとわからないよ。」

午後5時半、北村さんが退社する時間です。

 

北村恵美子さん
「もう一回、自分ひとりで冷静になってみて。」



 

必要な指示を伝えれば、残業をせずに職場を出ることにしています。

北村恵美子さん
「会議は、まだ終わらないけど、大丈夫かなっていうところだったので。」

午後6時半、子どもを保育園に迎えに行き、帰宅。
母親の顔に戻って、手際よく、夕食の準備を進めます。



 

「いつもより遅い。」

北村恵美子さん
「いつもより遅いって言われちゃった。
いい子で食べてるね。」

 

食後、取り出したのはパソコンとスマートフォン。
部下からの報告や相談があれば、メールで送ってもらい、自宅から指示を出すようにしています。

北村恵美子さん
「今日中にレス(返信)が必要なものはしておく、そういういった形でメールチェックしています。
私の場合は、限られた時間の中で仕事しているので、逆にその(家での)時間も有効活用できるのはありがたくて。」
 

今月(11月)中旬。
1年かけて開発した新商品の発表会です。
ケーキ味の甘いポテトチップス。


 

プロレスのリングを設置し、スイーツ好きで知られる人気プロレスラーを招きました。
発表会は、70社のマスコミが集まる大盛況。
ユニークな商品も、斬新なイベントも、北村さんのチームの柔軟な発想から生まれたアイデアです。
こうした、子育て中の女性が手がけた新商品のヒットもあり、会社の売り上げは、ここ6年で70%もアップしました。

北村恵美子さん
「お店で商品を見て、すごく売れているとか、手に取っている人を見た時に、『やった』という感じの思いがあって。」

改革を始めて6年。
女性管理職の数は4倍近くに増え、全体の22%に達しています。
すべての社員に公平にチャンスを与える。
それが、今後の企業の発展に欠かせない要素だと言います。

カルビー 代表取締役会長 松本晃さん
「私はフェミニストでもなんでもないですよ。
何でやっているかというと、女性活用だけでなく、働き方改革。
すべての改革はですね、成果を求めてやっている。
会社が生き残るため、成長するためになくてはならないもの。
人を大事にしない限り、会社は絶対うまくいくはずがない。」

働くママをどう活用する?

近田
「取材にあたった飯田記者とともに、お伝えします。」

小郷
「北村さん、仕事に家事・育児、すべてをきちんとこなすのは本当に大変だと思うんですけれども、北村さんのこれまでの経験ですとか、能力がむだにならずに、本当に生き生きと働いていらっしゃいましたよね。」

飯田暁子記者(報道局)
「やはり成果を出さなければならないというプレッシャーはあるんですけれども、それを上回るやりがいがあると話していらっしゃいました。
ただ、ほかの多くの会社では子育てに配慮して、負担の少ない仕事にしているという面があります。
そして、そうした働き方を希望している場合はよいのですが、北村さんのように短時間勤務でも力を発揮したいという場合は、そういった声に応えられずに、『マミートラック』に陥ってしまっているのではないかと感じました。」

近田
「お伝えした企業では、売り上げ増にもつながったということですけれども、一方で課題はないんでしょうか?」

飯田記者
「多様な働き方を認めてきた、この企業でも、やはり工場などではそれが難しく、今後の課題になっているということでした。
ただ、子育て中の女性にも公平にチャンスを与えたことが女性ならではの発想ですとか、持っている能力を引き出して、新商品の開発や業績アップにつながったんです。
一方、アンケートでは、多くの企業では長時間労働が前提となっていて、短時間で働いても成果が認められないという声が本当に多くあがっていました。
企業は、まずこうした前提を見直すところから始めて欲しいと思います。」