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2016年11月1日(火)

明らかになる“隠れブラック企業”の実態

阿部
「まん延する長時間労働を、今こそ改善することはできるのでしょうか。」

新入社員が過労の末、自殺した問題が起きた大手広告会社、電通。
先月(10月)抜き打ち調査に踏み込んだのは、東京労働局の「過重労働撲滅特別対策班」。
通称「かとく」です。
「かとく」は、長時間労働の問題を専門に扱う特別チームとして、去年(2015年)4月、東京と大阪に設置されました。
大企業に狙いを絞り、強力な権限を生かして徹底的に調査。
 

「帳尻合わせているのが、まるまるわかる。」




 

悪質なケースは、刑事事件として摘発します。

和久田
「深刻化する過重労働の問題。
企業の多くが、時短勤務や休暇制度の充実など制度や理念を打ち出し、労働環境の改善を進めています。
一方で、過労死や過労自殺で労災が認められた人の数は、この10年、毎年200人前後で推移し、減っていません。」

阿部
「そこで今、過重労働への対策の切り札として期待されているのが『かとく』です。
今回、ある企業の摘発の過程を10か月にわたって取材しました。
見えてきたのは、企業が労働環境の改善を掲げる中で新たに生まれていた問題、“隠れブラック企業”の実態でした。」

“隠れブラック企業” 明らかになる実態

去年12月、「かとく」がある企業への強制捜査に踏み切りました。
飲食大手の「サトレストランシステムズ」。
全国で約400店舗を展開、海外にも進出しています。
この会社は、平成20年4月から去年の11月までに「長時間労働」「残業代の未払い」などで、全国の労働基準監督署から18回に渡り、繰り返し指導を受けてきました。
 

会社は、全社上げての「時短勤務」「7連休の取得」「労使間の意思疎通」を打ち出し、働きやすい環境の整備を進めてきました。
会社のホームページでは、社長自ら、その大切さを訴えていました。


 

サトレストランシステムズ 重里欣孝社長
「業態もしっかりし、安全の問題もきちんとし、そして労務環境もきちんと整える。
3つがそろわないと、これからの会社は存続できないし成長できない。」

 

しかし、たび重なる指導にも関わらず、一向に改善が見られないとして、「かとく」は強制捜査に踏み切ったのです。

全国の従業員、およそ1万人分の勤務記録を押収。
監督官が専従で1枚1枚、調べ上げていきます。
丹念に洗い出すうちに、1人の従業員の勤務記録にたどり着きました。

勤務記録では、この従業員は毎日昼12時に出勤、きまって22時前後に退勤しています。
残業時間は、労使間の協定で決められた40時間以内でした。

「かとく」が目を付けたのは、レジ。
レジには、いつ誰が作業したのか、記録が残されています。
つきあわせてみると、矛盾が次々と現れました。



22時3分となっていた退勤時間。
ところが、この従業員は、その2時間近く後、23時43分にレジを打っていました。
勤務記録では休日だったはずの日。
ここでも、従業員がレジを打っていた記録が見つかりました。
このほか、従業員のICカード乗車券。
店舗の鍵を開けた時間。
「かとく」は、あらゆる記録で従業員の行動を徹底的に確認し、不自然な勤務を暴き出していきました。
その結果、過重労働が隠ぺいされている可能性が見えてきたのです。

過重労働撲滅特別対策班 塩尻公さん
「実態では長いんだけれども、それを短くしようということで、例えば(勤務を)改ざんするとか、終業時刻を早めてしまうとか、記録を直すということもありますので、そういう形で隠していくといいますか。」

 

浮かび上がってきた過重労働の隠ぺいの可能性。
関わっていたのは誰なのか。

店長が本社に報告した、ある従業員の残業時間の書類です。
店舗ごとに勤務の管理を任されている店長が、手を加えていた痕跡が見つかりました。


 

休憩時間を含め、60時間を超えていた残業時間を毎日2時間ずつ、月30時間として少なく申請していたのです。



 

さらに、店長の筆跡とみられる手書きのメモも残されていました。

過重労働撲滅特別対策班 堀幸男さん
「店長が改ざんしているであろうと思われるもの、もしくは店長の指示によって調整されているであろうと思われるもの、そういったものがやはり出てくると。」

 

会社が労働環境の改善を掲げる中で、現場はなぜ、勤務記録の改ざんを行ってしまったのか。

ある店舗で、正社員として働いていた男性です。
長時間の残業をした翌月、給料に反映されていないと感じた男性は、店長に理由を尋ねました。
すると、思いがけない答えが返ってきました。

 

元従業員
「“俺が(勤務を)いじってるって、でも会社の指示じゃないから、恨むならオレ個人を恨んでくれ”と言われて。
上から言われていることと店舗の実態で、そうするしかなかったのかなと。」
 

店舗では、人手不足が進んでいました。
自分以上に働く店長の言葉を聞いた男性は、残業も、勤務に手を加えられることも受け入れざるを得なくなっていきました。
会社が掲げる理念と減らない仕事量の狭間で、過重労働の実態が隠れてしまっていたのです。

元従業員
「通達とかで“勤務時間短縮しましょう”みたいなものは発行されいるんですけど、正直そんなのわかってるんですよ、社員も、結果として店が回ってなかったりするんで。
どれだけ良いこと言っていても、現場が見えていないのかな。
ひたすらにしんどかったです。」

9月末、「かとく」は会社と店長ら5人を書類送検しました。

過重労働撲滅特別対策班 前村充主査
「サトレストランシステムズ株式会社、同社店長4名、同社事業推進部部長1名を労働基準法違反の疑いで大阪地方検察庁に書類送検、致しました。」

「かとく」は、経営陣による労務管理が現場の店長や従業員まで行き届かなかったことが過重労働が隠れる事態を招いたと指摘しています。

過重労働撲滅特別対策班 前村充主査
「今回、なかを見させてもらったら、いろいろ問題があることが分かりました。
労働時間を正確に把握して、働きやすい会社になってもらえればいいなと思います。」

 

和久田
「今回の件に関して、会社は勤務の実態を適切に把握できていなかったことを認め、『このような事態が二度と起きないよう、再発防止策を徹底して参ります』とコメントしています。
この会社は強制捜査を受けて、未払い分の残業代の支払い、労務管理体制の変更や業務の削減などに取り組んでいるとしています。
『かとく』は今後も、改善策が浸透しているかどうか、報告書の提出を求めるなどして、調査を続けていくことにしています。」

阿部
「『かとく』は、今回を含めて5つの企業を摘発しています。
担当者は『こうした過重労働が隠れてしまっている企業が少なくない』と話しています。
働き方改革の機運が高まる今こそ、経営と現場が一体となって、具体策な対策を打ち出すことが求められます。」