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2016年9月26日(月)

象牙“取引禁止” 密猟の現場は

阿部
「日本にとって重要な議論が、今日(26日)から始まります。
アフリカゾウの象牙を巡る問題です。
毎年3万頭が、密猟の犠牲になっているとみられ、絶滅が危惧されています。」
 

和久田
「こちらをご覧ください。
アフリカゾウの象牙の国際取引は、ワシントン条約によって、1989年に原則禁止されました。
一方、国内取引については、国際取引禁止前に輸入された象牙であれば認められています。
日本や中国などでは、今も装飾品や印鑑などを作り、売り買いされています。
しかし、今回の会議では、密猟を無くすため、アフリカ諸国などから象牙の国内取引を全面的に禁止するよう求める決議案が出されているのです。
ゾウの密猟に強い危機感を抱く、ケニアの現状を取材しました。」

象牙の“取引禁止” 密猟の現場

リポート:味田村太郎(ヨハネスブルク支局長)

ケニア最大の国立公園です。
この日、公園を管理するレンジャー部隊が慌ただしく車を走らせていました。

向かった先にあったのは、ゾウの死骸。
象牙だけが抜き取られていました。
殺されてから10日ほど経っていました。


 

レンジャー部隊メンバー
「とても悲しいことです。
ゾウが殺される姿を、黙って見ているわけにはいきません。」


 

ケニア政府は隊員を350人と、これまでの倍に増やしました。
しかし、この国立公園だけで、密猟によって、過去3年で300頭以上のゾウが殺されました。


 

闇市場で、1本あたり100万円近くの値がつくといわれる象牙。
その後、どこに向かうのか。
最大の密輸先と言われるのが、中国です。

山積みにされたのは、押収された象牙。
中国では近年、大規模な密輸が度々摘発されてきました。
経済成長で富裕層が増える中、多くの象牙が中国に入り込んでいると見られています。

 

ケニア政府は今年(2016年)4月、押収した100トン以上の象牙を一斉に焼却処分。
密猟を根絶するという強い意志を示しました。
象牙を求める市場がある限り、密猟はなくならないと各国に国内取引の全面禁止を求めています。
 

ケニア 野生生物公社 パトリック・オモンディ課長
「このまま密猟が続けば、多くの地域で、ゾウが絶滅するでしょう。
象牙の需要が、ゾウの絶滅を招いているのです。」

密猟がテロ資金に “取引禁止を”

さらにケニア政府は今、新たな脅威に直面しています。
イスラム過激派組織などが、テロ活動の資金を得るために、象牙の取引に手を出していると見られているのです。


 

レンジャー部隊責任者
「我々の諜報活動で得た情報では、背後にテロ組織があることがわかっている。」


 

こうした状況を受けて、国内での象牙取引禁止に踏み切ったのがアメリカです。

アメリカ オバマ大統領
「アメリカは、新しいルールを提案する。
象牙の取引を禁止し、国内の違法市場を一掃する。」

アメリカは、さらに各国にも象牙の国内取引禁止を提案。
テロと戦う上でも、各国の協力が必要だと呼びかけています。

アメリカ 魚類野生生物局 ダン・アッシュ局長
「密猟グループの活動は、ゾウを絶滅させるだけでなく、国々の安定を揺るがせている。
私たちは各国に、何が起きているかを知らせ、国内取引禁止を検討してもらう。」

象牙“取引禁止” 日本の立場は

和久田
「『各国に象牙の市場が存在するかぎり、密猟はなくならない。国内取引も禁止すべきだ』。
そうしたケニアやアメリカなどの呼びかけに、中国も同調する姿勢です。」

阿部
「一方で日本は、密猟防止には賛同するものの、国内取引の禁止には反対の立場を取っています。」

象牙の“取引禁止” 日本の立場は

リポート:永田彩香(おはよう日本)

象牙の印鑑。
三味線のばち。
そして、彫刻作品。
象牙を使った工芸品は、江戸時代には広く親しまれるようになり、現在の市場規模は20億円と言われています。
 

日本でも10年ほど前までは、象牙の密輸が相次いで摘発されていました。
しかし、ここ最近は、大規模な密輸は見つかっていません。

今月(9月)、国と象牙加工業者の代表らが共同で会見し、象牙の管理は強化されており、国内取引は認められるべきだと主張しました。



 

環境省 野生生物課 植田明浩課長
「日本に象牙が大規模に密輸入されたり、日本での象牙の利用が、近年のアフリカゾウの密猟増加に直接的に影響しているとは考えられない。」

 

象牙の加工業者には、国が設けたルールに従って取引を行うことが義務づけられています。

加工業者の大熊俊夫(おおくま・としお)さんです。
父親の代から、印鑑などの材料を加工する仕事をしています。



 

象牙加工業者 大熊俊夫さん
「これは古いもの。
1987年の7月21日。」


 

1989年に国際取引が禁止され、今、新たな象牙は輸入できません。
材料には、過去に輸入された象牙の在庫を使っています。

また、象牙の取引を行う際には、1本ごとに国に登録することが必要です。
象牙を小さく切り出す場合、売り先を1つ1つ記録し、国に報告する義務もあります。

象牙加工業者 大熊俊夫さん
「何月何日に何本、全部書く。
それをやらないとだめ、法律だから。」

国際社会が求める「国内取引の禁止」。
大熊さんは、伝統ある日本の産業が消えかねない事態に、危機感を強めています。

象牙加工業者 大熊俊夫さん
「非常に残念で、悔しいです。
400年近く連綿と、江戸時代からやってきてるわけです。
それを私の時代で、“象牙入ってきません、やめます”と終われますか。」

 

今日から始まる、象牙を巡る本格的な議論。
国内取引の禁止を巡って、各国と日本の対立が鮮明になっています。

ケニア環境省 ギデオン・ガダラ審議官
「日本が、国内取引を続けることは大きなリスクをもたらします。
市場がある限り、密猟は続くのです。」


 

外務省 地球環境課 西浦博之課長
「一律に、各国の合法的な市場を閉鎖することが、密猟の防止に直ちに寄与するかは、議論の余地があると思っています。」

日本の主張 受け止めは?

阿部
「象牙の国内取引を巡る、日本と世界の主張には大きな隔たりがあります。」

和久田
「アフリカ諸国とアメリカは、象牙を取引する市場がある限りは密猟や密輸がなくならないとして、各国の国内市場も含めた、象牙取り引きの全面禁止を提案しています。」

阿部
「これに対し日本は、近年は水際で取り締まっているため、大規模な密輸は行われていない。
また、象牙が違法に流通しないよう、市場の適切な管理につとめているとして、国内の取引が認められるべきだと主張しています。」

和久田
「では、ワシントン条約の締約国会議が開かれているヨハネスブルクの味田村支局長に聞きます。
日本の主張は、どのように受け止められているんでしょうか?」

味田村太郎支局長(ヨハネスブルク支局)
「各国から厳しい視線が向けられています。
絶滅が懸念されるアフリカゾウの保護は、待ったなしの状況なんです。
密猟がテロ組織の資金源になるなど、世界の安全保障に関わる問題にもなり、各国の『象牙市場をなくすべきだ』という主張が賛同を得やすい、そういう状況になっているんです。
さらに、日本が国内取引制度の存続の論拠としている、管理制度についても、海外のNGOからは自己申告制で成り立っているとして、『密猟対策として不十分だ』という指摘がでているんです。
日本の立場は、なかなか理解が得られていないのが実態なんです。」

象牙“取引禁止” 議論の行方は?

阿部
「議論の行方はどうなりそうでしょうか?」

味田村支局長
「象牙の密輸が横行していると批判を浴びてきた中国なんですけれども、去年(2015年)アメリカの働きかけで、国内市場を閉鎖する方向に舵を切りました。
このため、国内市場がある日本に対しても、取引禁止を求める声が強まっているんです。
一方で、日本以外でもアフリカの国の中には、環境保護の資金にあてたいと、象牙の取引の一部再開を主張する国もあるんです。
この決議案なんですけれども、参加国の3分の2の賛成で可決されることになっていますが、ヨーロッパ諸国など、まだ立場を鮮明にしていない国も少なくなく、国内取引禁止を巡り、活発な議論が今日から行われることになっています。
そうした議論を通じて、日本と世界各国がアフリカゾウを絶滅から救うために共通の目標に向けて、妥協点を見い出すことができるか、今日の会議で問われることになります。」