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2016年8月25日(木)

夏点描 人文字「ありがとう」に込めた思い

望月
「シリーズでお伝えしている『夏点描』です。
今朝は、リオデジャネイロ・オリンピックの閉会式に、ある形で参加した福島の子どもたちの夏です。」

 

今週、閉幕したリオデジャネイロ・オリンピック。
閉会式では、次の開催地・東京への引き継ぎ式が行われました。
東京大会をアピールするため、世界に発信されたパフォーマンス。


 

冒頭、フィールドに映し出されたのは、さまざまな国のことばの「ありがとう」の文字。
英語のサンキュー、フランス語のメルシーなど、すべて人文字でできています。

撮影には、被災地・福島を始め、全国1万人以上の小中学生や高校生などが参加。
オリンピックを歓迎する気持ちや、東日本大震災に対する支援などへの感謝が込められています。

 

望月
「震災から5年余り。
福島の子どもたちはどんな思いで、『ありがとう』の人文字に参加したのでしょうか。」

福島の子どもたち 人文字に込めた思い

リポート:中村誠(映像取材部)

人文字の参加校に選ばれた、福島県立ふたば未来学園高校です。
東京電力福島第一原発の事故の後、もう一度ふるさとで学びたいという生徒のために、去年(2015年)新たに開校しました。
この日、人文字の制作担当者が生徒への事前説明のため、学校を訪ねてきました。

人文字の制作担当
「東北、それから日本の皆さんが、世界の皆さんにサポートしてもらったお礼。
気持ちを込めて『ありがとう』を伝えてもらえればと思っています。」


しかし、生徒たちの反応は複雑でした。

生徒
「実感がわかないかもしれないです。
頭では分かっていても。」

生徒
「世界の人に伝える意義も、ありがとうの言葉の意味もわかるけど。」
 

担当者に、気持ちを直接打ち明けた生徒がいました。
いわき市で避難生活を続けている、高校2年生の青木壱成(あおき・いっせい)さんです。


 

青木壱成さん
「何を、何にありがとうと言っていいのか、よく分からない。 よく分からない。」


 

青木さんの元の自宅がある楢葉町は、福島第一原発から20キロ圏内にあります。

去年9月、避難指示区域は解除されましたが、今も至る所に除染廃棄物の仮置き場があります。
自宅の前にも大量の除染廃棄物が置かれています。
そのため、今はまだ帰れないと青木さんの家族は考えています。

避難生活が続く中、それまで打ち込んでいた水泳をやめ、学校も一時休みがちになりました。

青木壱成さん
「全部が面倒くさくなった。
学校とか、それこそ水泳とか、全部。」

震災から5年が過ぎても、誰かに感謝できる気持ちの余裕は、青木さんにはありませんでした。

「ありがとう」の人文字をきっかけに、身近な人へ感謝の気持ちを伝えたいという生徒がいました。
福島県いわき市に住む、中学2年生の大田結唯(おおた・ゆい)さんです。
父親と妹の3人で暮らしている大田さん。
 

感謝の気持ちを伝えたいのは、母親の薫(かおる)さんです。
去年3月、がんのため、40歳で亡くなりました。
被災後、日常生活を取り戻しつつあった矢先のことでした。


 

大田結唯さん
「結局まともに顔を合わせて、『ありがとう』と言う機会もなくて、本当に突然だったんですよ。
どうしても悔やまれる。」

 

感謝の気持ちを伝えたい人が、もう1人いました。

母親の死後、男手一つで家族を守ってきた父親の康二(こうじ)さんです。
しかし大田さん、父親の前では素直になれません。


 

父 大田康二さん
「演奏会になるとカメラ構えて、『ほら結唯撮るよ』ってやるから嫌なんでしょ。」

大田結唯さん
「あっちでは、なれなれしくしないでほしい。」
 

「お父さんに『ありがとう』と言ったことある?」

大田結唯さん
「ないです。
やっぱり、てれくさい。」

 

撮影当日。

大田結唯さん
「生前、母親に言えなかったことを思い浮かべながらやっていました。
天国にもちゃんと届くようにできたと思います。」

「お父さんには何か言えた?」

大田結唯さん
「きょう家に帰って直接言います。
言えると思います。」

その日の夜。
いつものように、父・康二さんの運転で音楽教室に向かう大田さん。
到着間際のことでした。


 

大田結唯さん
「パパさ、今までありがとうね。
健康にも気をつけて、これからもよろしく。」

なかなか言えずにいた感謝の言葉。
人文字が、大田さんの背中を押してくれました。

父 大田康二さん
「突然言われるとあんな反応になってしまいますよ。
びっくりです、本当に。
帰ったら一緒に線香をあげながら、(娘と)話したいと思います。」

 

「ありがとう」の人文字に、どう気持ちを込めればいいのか分からないと話していた青木壱成さんです。
1週間以上にわたって考えた末、いつも近くで支えてくれる友人たちに感謝を伝えたいと思うようになりました。

 

母 青木幸恵さん
「震災後はいろいろあって、未来(高校)に入れて、だいぶ変わったよね。」

青木壱成さん
「(高校の友人は)一緒にいて楽しくて、気を遣わないし、おかしくない感じだから、『ありがとう』と思いました。」

母 青木幸恵さん
「よかったね、そういう人と出会えて。
大事にしないと。」

そして迎えた、人文字撮影の当日。




 

青木壱成さん
「転校、避難とかいろいろあって、改めて考えると、今は気の合う友達と一緒にいるだけで、すごく『ありがとう』と思える。
すっきりしました。
答えが出せてよかったと思います。」

この夏、改めて、『ありがとう』の意味と真剣に向き合った子どもたち。
世界に発信された人文字には、1人1人の精一杯の思いが込められていました。
 

望月
「どんな時でも、感謝すべき相手がいる、改めて気付かされました。」

和久田
「それぞれの思いを噛みしめながら、このイベントをきっかけにして、2人とも一歩前に進めたようでしたよね。」

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