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2016年7月6日(水)

性暴力 “声なき声”を映画で伝える

阿部
「『性暴力の被害』についてお伝えします。」

和久田
「こちらをご覧下さい。
内閣府が行った調査によると、『性暴力を受けたことがある』と答えた女性のうち、警察に連絡や相談をした人はわずか4%にすぎません。
また、『誰にも相談しなかった』という人は70%にも上りました。

背景には、加害者の75%が、かつての交際相手や同僚・親族など顔見知りのため、被害を公にしづらい状況があると見られています。
今、その被害者の知られざる苦しみを、緻密な取材をもとに描いた映画が東京で公開され、反響を呼んでいます。」

性暴力を描いた映画 “声なき声”を伝えて

リポート:信藤敦子(科学文化部)

映画「月光」。





主人公の「カオリ」は、ピアノ教室の先生として日々を送っていました。





ある日、教え子の父親から、「自宅に送る」と誘われたカオリ。
断り切れず、車に乗ってしまいます。




この映画が克明に描いているのは、性暴力を受けた後、女性が直面する耐えがたい苦しみです。
性暴力を受けたことの羞恥心や嫌悪感。
さらに、心配をかけたくないという気持ちから母親にも言えず、カオリは精神的に追い詰められていきます。


ささいな音にも過敏に反応し、自分の足音にさえ恐怖を感じます。





被害の後も苦しみが続き、日常生活が壊れていく理不尽な実態が、つぶさに描かれています。

この映画を撮った小澤雅人監督です。
「ギャンブル依存症など、社会的なテーマを多く取り上げてきました。
性暴力をテーマにすえたきっかけは、以前行った児童虐待の取材。
身近な人から性暴力を受けたものの、誰にも言えず苦しむ多くの子どもたちを目の当たりにしたことでした。


小澤雅人監督
「実際の認知件数よりも、ものすごい数の人が被害に苦しんでいる。
普通の人が分からない世界、知らない世界に光を当てたいと、この題材を選んだ。」



被害に苦しむ女性の姿をどう描くのか。
監督は脚本を書くにあたり、50冊以上の本を取り寄せ、実際の被害者などにも取材を重ねました。
監督が取材した女性の1人です。
かつて知人から性暴力を受けました。
脚本についてやり取りを交わす中で、監督の熱心な姿勢に触れ、協力することを決めたと言います。

にのみやさをりさん
「描くならちゃんと描いてほしい。
この人(小澤監督)は、変にぼかしたり、おもしろくしたりしないで、まっすぐに描いてくれると感じられた。
被害に遭った人が、直後から背負っていかなければならないものの重さ、そういうものが伝わるんじゃないかと。」

この女性から、被害直後につづった手記を託された小澤監督。
女性の追い詰められていく心理状態を、そのまま映画で再現しました。




“私の眼の中に突き刺さってきた、眼・眼・眼!
今も忘れられない。”




男性と目が合うだけでパニックになる主人公。
つらい記憶がよみがえる、「フラッシュバック」です。
見るのがつらくなるようなシーンでも、リアルに表現しました。



小澤雅人監督
「責任感はすごく感じた。
センシティブ(繊細)な問題で、簡単に扱えない。
徹底的に自分が納得するところまでやって、見てくれた人に『(実態は)こうだよね』と分かってくれるものにしたかった。」


公開から1か月。
映画を一緒に見て、語り合う会も開かれるようになりました。

呼びかけたのは、かつて被害に遭ったト沢彩子(うらさわ・あやこ)さん。
みずからの被害の体験を語り、苦しみへの理解を広げようと活動をしてきました。



今回の映画なら、より現実味を持って被害者の置かれた状況を感じてもらえると考え、インターネットを通じて参加を呼びかけました。





ト沢彩子さん
「被害の話をしても全部しゃべれるわけではない。
その後のことは、あまり話さなかったりする。
映像で見ることで、すごく追体験できる。
実写だとさらにリアルになるのだと思う。」

この日、集まったのはおよそ20人。
映画を見たあと、監督を交えながら感想を語り合いました。




映画を見た人
「もちろん全部くみ取ることはできないが、その人たちに寄り添うことは大事。」




映画を見た人
「その人たちの痛みはどう感じればいいのか、すごく考えるきっかけになった。」




映画のラストシーン。
主人公はようやく母親に打ち明けます。
何も言わず、主人公を抱き寄せる母親。
“傷ついた心を受け止める人がいれば、被害者は一筋の希望を見いだすことができる”。
監督のメッセージです。

小澤雅人監督
「実は僕らの日常の延長線上に、そういう事件とか被害は多い。
僕らと全然違う世界のことではない。
もし身近にそういう方がいたら、どう対応すればいいのか、どう援助してあげるのかという、気づきにもつながればいいと思う。」



阿部
「まずは隠れた被害の実態を知ることが、性暴力の問題に対する理解や、被害者の気持ちに寄り添うことにつながりますよね。
この映画がきっかけの1つになりそうですね。」

和久田
「映画は現在、東京・新宿で公開中で、今後は名古屋・大阪など各地で上映される予定です。」