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2016年6月13日(月)

自閉スペクトラム症 早期発見で支援を

阿部
「皆さんの周りに、こんなことで悩んでいる人はいませんでしょうか。
職場の上司から『とりあえずやっといて』と言われて、『とりあえず』の意味が分からない。
相手の気持ちや言葉の意図を理解しづらく、臨機応変なコミュニケーションが苦手。
さらに、こだわりが強く、興味や行動に偏りがある。
これらは、生まれながらの脳の働きの違いから起こる発達障害のひとつ、『ASD・自閉スペクトラム症』に見られる特徴です。」

和久田
「ASDは、『自閉症』や『アスペルガー症候群』などと呼ばれてきたものの総称で、100人に1人、国内に100万人以上いるとされていますが、診断を受けている人はほんの一部にすぎないとも言われています。
知的障害がない場合、ASDだと分からないまま成長し、大人になってから困難に直面するケースも少なくありません。」

阿部
「こうした中、早期に発見することで、適切な支援につなげていこうという取り組みが進んでいます。」

ASD・自閉スペクトラム症 見過ごされる実態

リポート:池端玲佳(NHK金沢)

佐藤隆さん(仮名)、29歳です。
5年前に、ASD・自閉スペクトラム症と診断されました。
知的障害はありませんが、子どもの頃から人間関係に悩み、大学を卒業してからも転職を繰り返してきました。
ASDの特徴である、コミュニケーションがうまく取れないことが原因でした。

スーパーで働いていた時のことです。
突然、客から「この商品はどこにありますか?」と聞かれ、素直に「分かりません」と応えてしまいました。
「商品を探してほしい」という客の意図がくみ取れなかったのです。

佐藤隆さん(仮名)
「“分からないということでは困る、気のきいた返答をすべき”と指摘された。」

しかしその後も、上司の指示を理解できず、トラブルをくり返したと言います。

佐藤隆さん(仮名)
「人間関係が悪くなっていく。
いづらくなって最終的には辞めることになる。」

その後、テレビで初めてASDを知り、診断を受けた佐藤さん。
今は、コミュニケーションをあまり必要としない職場や、ASDを理解してくれる会社を探しています。

佐藤隆さん(仮名)
「仕事に悩んだ時期とか、結局なんだったのかと思う。
(早く)知っておけば、対策の立てようがいくらでもあった。」

ASD・自閉スペクトラム症 早期発見で支援を

現在、ASDの診断は、専門の医師が子どもの行動を観察したり、親に日頃の様子を質問したりして判断します。
ただ、問診だけでは完全に見極めることが難しいケースもあるといいます。

そこで、ASDを科学的に診断していこうという研究が進んでいます。




 

金沢大学 子どものこころの発達研究センター 菊知充教授
「こちらは『小児用MEG』という機械。」



 

金沢大学が企業と共同で開発したこの機械。

151個の高感度センサーが、脳から発生するわずかな磁場の変化を捉え、脳の動きを細かく分析することができます。
金沢大学の研究チームは、ASDの子どもとそうでない子ども、合わせて100人に幼児番組の映像を見せて、脳の働きを調べました。


ASDではない子どもの場合、「左脳の前側」と「右脳の後ろ側」が活発に信号を送り合います。
これが、コミュニケーションにおいて、重要な役割を果たしているとみられています。

 

一方、ASDの子どもの場合は、送り合う信号の量が少ないことが分かりました。
この装置は、まだ実用化に向けた研究段階ですが、こうした脳の特徴を捉えることが、より早期の診断につながるのではないかと期待されています。
 

金沢大学 子どものこころの発達研究センター 菊知充教授
「問診がとても難しい場合に、客観的な指標で、より正確に早期診断の補助となることが期待されている。
より効果的な早期介入(支援)が可能になってくると考えられる。」



ASDであることが早期に分かったことで、納得のいく進路を選ぶことができたという人がいます。

6歳の源空(みなく)くんと、母親の直子(なおこ)さんです。




 

母親の呼びかけに応じることが少なく、言葉を発するのも遅かった源空くん。
知的障害はありませんでしたが、列に並ぶなどの集団行動がほとんどできませんでした。
直子さんは、源空くんが3歳になる前に、思い切って病院を受診。
そこで、ASDだと診断されました。
 

母親 直子さん
「『やっぱりそうか』という気持ちと、なんとかならないか、親の努力でなんとかならないかなと思った。」


 

診断は大きなショックでしたが、直子さんはASDの特徴の1つである「強いこだわり」を生かせないかと考えるようになりました。

母親 直子さん
「本当に数字が好きで、数字のところが気になるので。」

ページの番号を塗りつぶすなど、数字に強い興味を示していた源空くん。
直子さんが九九を教えると、小学校入学前に全て覚えました。
こうして、関心を持つ分野の力を伸ばしてきました。


 

源空くん
「1×5=5!」



 

さらに今年(2016年)の春、両親は医師や学校と相談し、大きな決断をしました。
障害のある子どもたちが通う、特別支援学校に入学させたのです。
源空くんには、少人数のクラスで少しずつ人との関わりに慣れてもらい、将来、社会で生きる力を身につけてほしいと考えたからです。
 

母親 直子さん
「こういう子は幼稚園選びから人生の岐路が始まっている。
就学も大きな岐路。
親がしっかりと受け止めて考えることができる、(早期発見の)大きなメリット。」

ASD・自閉スペクトラム症 困難を和らげるために

ASDの早期発見への取り組みが進む一方で、コミュニケーション能力を高めるための研究も始まっています。
ASDの子どもたちの中には、会話も困難なほど症状が重い場合もあります。

普段は、家族ともほとんど会話をしないという14歳の男の子。
こうした子どもに対して使われているのが、ロボットです。



 

ロボット
「こんにちは。
ぼくはコミューといいます。」


 

ASDの子どもの中には、人の表情の変化などに、不安感を覚える子どもいるといいます。
しかし、感情に左右されずにいつも同じ動きをするロボットなら、安心感を与え、会話のトレーニングに活用できるのではないかと、研究チームは考えたのです。
 

医師がロボットを通じて話しかけます。

ロボット
“屋上で何したいの?”

14歳 男の子
「ひなたぼっこかな。」

ロボット
“どんな大人になりたいかな?”

14歳 男の子
「ふだんはのんびりしているけど、いざというときは真面目。」

母親
「自分の意見を言うことがほとんどない子。
そんなこと思っていたんだというのが何個かあって、ちょっとびっくりした。
ロボットの目を見ていたのがびっくりで、目をほとんど見ない子だけど、自然と目があっていたというのが、人間関係で大事だと思う。」

研究チームは、こうしたトレーニングが将来的に人と対話する力に結びつくのではないかと考え、今後効果を検証することにしています。

国内に100万人以上 自閉スペクトラム症

阿部
「取材に当たった、池端記者です。
ASDをより早期に発見して、支援につなげていくことが大事だということですね。」

池端玲佳記者(NHK金沢)
「そうですね。
今日(13日)ご紹介した早期発見の研究は、無理に診断を強いるのではなくて、あくまで、自分や子どもがASDであるかどうか知りたい、あるいは、分からずに悩み続けている人のために役立てていこうとするものです。
ASDだと診断されずにいる人の中には、学校でいじめを受けて不登校になるような場合もあります。
早い段階で発見することで、その人に合った進路を選んだり、周囲に相談してアドバイスを受けることにもつながります。」

和久田
「私たちは、ASDの人たちにどんなふうに接すればいいのでしょうか?」

池端記者
「ASDの特性には個人差があるんですけれども、『とりあえずやっといて』といった、あいまいな表現で言われると理解出来ないような人もいます。
できる限り、具体的な言葉で説明するといった配慮だけでも、ASDの人たちが感じるコミュニケーションの困難さを和らげることができます。
まずは、そういったASDの特徴を知るということが何よりも大切だと思います。」