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2016年5月31日(火)

家族の苦悩にどう向き合う

阿部
「年々増え続ける児童虐待。
それに伴い、明らかになってきた問題があります。
それが、こちら。
『愛着障害』です。」
 

和久田
「『愛着』とは、乳幼児期に子どもが親との間で結ぶ、深い信頼関係を指します。
泣いたら『すぐにだっこしてもらえる』『おむつを替えてもらえる』ことなどを通して、子どもの中に『愛着』が芽生え、人を信頼できるようになります。

ところが、虐待や育児放棄などで親を信頼することができないと、感情のコントロールができない、他人を傷つけるなどの『愛着障害』になります。」

阿部
「この愛着障害、虐待を受けた子どもたちを救う方法の1つである養子縁組にも影を落としています。
新しく家族になった親子の間で、関係がうまく築けないのです。
家族が抱える苦しみ、そして、アメリカで成果をあげている心理療法を取材しました。」

愛着障害に 苦悩する家族

リポート:八幡祐子(おはよう日本)

「愛着障害」と診断されているヒロキくんの映像です。
「保育園に行きたくない」と泣き叫びながら、母親をたたきます。
6歳の頃から、小学校入学後も毎日のように続きました。
ヒロキくんは、生まれて1週間後に「育てられない」という実の母親によって乳児院に預けられました。
1歳半の時、特別養子縁組で、山田サトシさん・カズミさん夫婦の元に引き取られました。
母親のカズミさんは、ヒロキくんを専門の医師の元へ連れて行き、さまざまな心理療法を試しましたが良くなりませんでした。

母親 カズミさん(仮名)
「『俺なんか死んだほうがいい』『俺なんか育てなければいい』って。
ものすごく自虐的なことばをわーって叫んだり、(どんな治療を受けても)なかなか改善されなかった。
不安と感情のコントロールがもう少し何とかなれば、生活が落ち着くのに。」

愛着障害に 家族で立ち向かう

今月(5月)来日した、愛着障害の専門家、アメリカのテリー・リヴィー博士です。



 

テリー・リヴィー博士
「アイコンタクト、真剣な声のトーンでも穏やかに。」



 

30年以上にわたり、アメリカで愛着障害に悩む家族の対応にあたってきました。
海外からも、リヴィー博士を頼る家族は絶えず、これまでに1,000を超える家族の問題を解決してきました。

リヴィー博士の心理療法を受けてみたいと申し出た山田さん一家。
この来日で実現することになりました。
本来、2週間のセラピーですが、今回は試験的に3日間でした。
家族の許可を得て、その様子を記録した映像を見せてもらいました。

 

セラピーを始めようとしたやさき、ヒロキくんが父親のサトシさんをクッションで叩きました。
それを見たリヴィー博士は、父親の対応が問題だと言いました。

テリー・リヴィー博士
「どんな子もそういうことはするけれど、その時に『クッションでたたかれると不愉快だ』ときちんと言いなさい。」

子どもが問題のある行動を取った時には、すぐに目を見て注意するよう指摘しました。

愛着障害に対する心理療法は、日本の場合、子どもだけを対象にしたものが主流です。



 

しかし、リヴィー博士は「家族全体」を対象とし、子どものみならず、両親にも面接します。
子どもへの接し方など、「親としてのスキル」を教えることが特徴です。


 

テリー・リヴィー博士
「養子縁組で親になった夫婦は、愛着障害のある子どもを育てるスキルがない。
(虐待や育児放棄された)子どもたちは非常に難しい子たちだ。
親には『親としてのスキル』を与えることがまず重要だ。」
 

リヴィー博士は、まず両親だけを相手にセラピーを始めました。
手をつないで向き合わせた上で、それぞれの育った環境を聞いてゆきます。

テリー・リヴィー博士
「あなた方の両親は、仲が良かった?
それとも悪かった?」

カズミさんの父親は仕事が忙しく、家庭を顧みない人だったと言います。

母親 カズミさん(仮名)
「けんかすると、父親が大きい声を出したり、母親が泣いたり、物が飛んだり、見たくなかった。」

リヴィー博士は、カズミさんが子どもの頃から“父親なんて不要だ”という意識がすり込まれ、夫のサトシさんを軽く見る傾向があるのではないかと指摘しました。
カズミさんは、サトシさんが子育てにきちんと向き合ってくれないときに、子どもの前で批判してしまったことがあると気付きました。

テリー・リヴィー博士
「(子どもの前で夫を批判すると)お父さんの言うことを聞かなくてもいい、とメッセージを送ることになる。
父親の『親としての権威』を失墜させている。」

母親 カズミさん(仮名)
「分かりました。」

リヴィー博士は、ヒロキくんの態度を変えるには、夫婦が尊重し合い、結束している姿を見せることが大切だと言いました。
両親の息があったところで、リヴィー博士は、ヒロキくんの心の傷に対するセラピーを始めました。

まず、ヒロキくんを赤ちゃんのようにカズミさんの膝の上に乗せます。
隣に座るサトシさんも、一緒に抱く姿勢を取ります。
目と目が自然と合い、深い信頼関係が生まれやすくなると言います。
使うのは、クマのぬいぐるみ。
ぬいぐるみを赤ちゃんの頃の自分に見立て、状況を語らせます。

テリー・リヴィー博士
「この子は乳児院に行くことになるんだけど、彼はどんな気持ちだと思う?」

ヒロキくん
「悲しい気持ち、さみしい気持ち。
怖い。
僕の産んでくれたお母さんが僕を欲しがらなくて、すごく悲しい。」

 

テリー・リヴィー博士
「この子は自分に悪い所があると思っていた?」

ヒロキくん
「(うん)。」

自分が悪い子だったから、乳児院に預けられたと感じていたヒロキくん。
その思いに、あえて直面させます。
その上で、認識を変えさせるため、両親からもヒロキくんの目を見つめながら声をかけてもらいます。

テリー・リヴィー博士
「お母さん、この子は悪い子だった?」

母親 カズミさん(仮名)
「悪くないよ。
悲しい気持ちがすごく分かって、かあちゃんもすごく悲しい気持ちになるよ。
悪い子なわけじゃない。
愛される資格がある子どもだよ。」

父親 サトシさん(仮名)
「とうちゃんも悲しい。
愛されてるんだから、大好きだから、大丈夫。」

つらい記憶を初めて聞いて、涙が止まらないサトシさんとカズミさん。
それを口にしたヒロキくんも感情が高ぶって、ほおや耳が赤くなっていました。
リヴィー博士は、ヒロキくんにさらに尋ねます。

 

テリー・リヴィー博士
「この子に何が必要だった?」

ヒロキくん
「君は悪いわけじゃない。
僕は君を愛してあげる。
新しいお母さんとお父さんが、ずっと君を守ってくれるよ。」

両親の前で、初めて自分の存在を肯定することができたヒロキくんです。

3人は見つめ合い、抱き合ったまま時間を過ごしました。
2週間後、再び山田さん一家を訪ねました。
カズミさんは、ヒロキくんの表情が以前よりも穏やかになったと感じています。

 

母親 カズミさん(仮名)
「僕はどうせ変われないと思っていた。
だけど変わったと言ったので。
変われることを知ったので。
夫婦でもっと足並みをそろえて、がっちりと夫婦でチームになって、彼(子ども)に向き合わないといけないことが、よく分かって。」

父親 サトシさん(仮名)
「不幸な子が不幸な大人になるんじゃなくて、不幸な生い立ちでも、すてきな家族が作れると見せてほしいというか。」

母親 カズミさん(仮名)
「絶対幸せになってほしいね、絶対に。」

 

和久田
「このセラピーは、これまで日本にはなかった手法として、専門家も注目しています。
ただ、有志の間で研究が始まった段階で、国内でセラピーを受けられる場所はまだありません。」

阿部
「『愛着障害』については、薬による治療も研究が始まっています。
子どもをめぐる医療・福祉・教育など、社会全体が『愛着障害』への認識を深め、対策が進むことが期待されます。」

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