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2016年5月24日(火)

いま なぜ人気? アドラーのことば

阿部
「今、ある心理学が話題になっています。」

書店の一角を埋め尽くすのは…。
なぜか、難しそうな心理学の本。
仕事から子育て、そして人生の悩みまで、今「アドラー心理学」が人気を呼んでいます。

アドラーとは、この人。
1870年生まれの精神科医、アルフレッド・アドラーです。
なぜ今、時代を超えて注目を集めているのか。
その背景は…。

 

阿部
「アドラーが注目されるきっかけとなったのがこちら、130万部を超える本『嫌われる勇気』です。
『自分らしい人生を送るためには、八方美人にならず、嫌われる勇気も必要だ』として、大きな話題を呼びました。」

和久田
「この本が伝えているのが、アルフレッド・アドラーの思想です。
19世紀のオーストリアに生まれ、心理学の分野で功績を残したアドラーですが、日本では、詳しい思想はあまり知られてきませんでした。

その基本的な考えがこちらです。
『人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである』というものです。」

阿部
「私たちの感じるさまざまな悩みは、人との関わりの中で生じるものであり、周りに振り回されずに生きることが大切だとしています。
その考えが今、若い世代の共感を得ています。」

共感を呼ぶ アドラーのことば

リポート:伊藤加奈子(おはよう日本)

東京・渋谷区にある進学塾。
高校生たちを前に、この日講演を行うのは…。



 

長年、アドラーを研究してきた、岸見一郎さん。
「嫌われる勇気」の著者の1人として、全国から講演依頼が相次いでいます。
受験を控え、将来を真剣に考えている高校生たちにアドラーの言葉を贈りました。

 

岸見一郎さん
「人の顔色をうかがい、人の期待にそうような生き方をしている限り、自分がしたいことはできない。
人からどう思われるかを気にしないで、自分が正しいと信じることをやってほしい。」
 

多くの人が抱える、「人からもっと認められたい」「周りの目が気になる」といった悩み。
これに対して、アドラーはこう言います。

「他の人にどう思われても、自分の価値は変わらない」。
人からの評価にとらわれないことこそ、よりよい人生を生きる第一歩だと考えたのです。
孤立を恐れるあまり、人に合わせ、空気を読んでしまう。
SNSでは「いいね」の数が気になる。
岸見さんは、そうした今どきの風潮が、アドラーが注目されている背景にあると分析しています。

岸見一郎さん
「人に合わせるような生き方をする人が増えてきて、その人たちは、すごく窮屈な生き方をしているに違いない。
自分の人生を生きるためには、こういう考え方があるのではないかと、腑(ふ)に落ちた思いをした人が出始めたのかなと思う。」

アドラーのことばに支えられて…

アドラーの言葉をきっかけに「仕事との向き合い方が変わった」という人がいます。

通信会社で働く、長島史知さん。
顧客からの電話に対応するリーダーをつとめています。
かつては、「周りから認められたい」という気持ちに縛られていたという長島さん。
仕事から充実感を得られず、転職もしました。
 

長島史知さん
「(周りからの)承認を求める気持ちはキリがないので、繰り返すうちにしんどくなった。」


 

どうしたら仕事で満足感が得られるのか、150冊ものビジネス書や自己啓発本を読みましたが、答えは見つかりませんでした。
そんな時に出会ったのが、アドラー。

「承認を得るのではなく、貢献する」という考えです。
人から認められたいという気持ちは、自分にしか関心が向いていない「自己中心的」な考えだとしたアドラー。
周りに承認を求めるのではなく、他の人を信頼し「貢献」することこそ大切だと説きました。
「誰かの役に立っている」という思いを持てた時、より確かな幸せを感じられるというのです。
長島さんは「認められたい」という欲求が、「自己中心的」だという考えに、はっとさせられたといいます。
どう評価されるかではなく、顧客や同僚のために何ができるのか。
「周りへの貢献」を意識することで、仕事に手応えを感じられるようになってきました。

長島史知さん
「(顧客対応も)昔のだったら『クレームが来たかな』と、嫌なネガティブな感情が先に立つところがあった。
アドラー心理学を学んだ後は、一つ一つの応対が周りに対して、貢献できているのが喜びとして感じられるようになった。」

アドラーを知ったことで、「子育て」が変わったという人もいます。

2人の小学生を育てている、今榮悠美子さんです。
子どもを強く叱るものの、言うことを聞いてもらえず、さらに叱りつけるという悪循環に陥り、思い悩んできました。


 

今榮悠美子さん
「あなたのためを思って、こんだけ言ってあげてるのに、こんだけ怒られても、なんで言うこと聞かないの!と思っていて。」

 

以前のお母さんについて聞くと…。

長男 煌太朗くん
「頭に血が上っていた。」

次男 翔太朗くん
「なんかな、悪夢、地獄。」

 

そこまで子どもたちを叱っていたのは、将来が見えにくい時代だからこそ、いい大学やいい会社に入ってほしいという思いからでした。
そんな時に出会ったのが、この言葉。

「他者は、あなたの期待を満たすために生きているのではない」。
人に自分の考えを押しつけず、相手を尊重すれば、よりよい人間関係が築けるという考えです。
今榮さんは、この言葉と出会ったことで、自分の価値観を押しつける子育てをしていたと気が付いたといいます。

今榮悠美子さん
「道を決めて、そこを進ませることが子育てだと思っていたので、やりなさい、やりなさいと言って、言うこと聞くわけない。」

今榮悠美子さん
「勉強がわからなくなって困るのは誰やろう?」

次男 翔太朗くん
「はい、自分!」

 

自分は自分。
子どもは子ども。
そう考えることで、これまで思い通りにならず、自分や子どもを責めていた気持ちから解放されたといいます。
相手の声にじっくり耳を傾け、気持ちを尊重することで、子どもたちにも変化が出てきました。

夫 知克さん
「宿題とか習い事とかも、あんまりこっちからやれやれと言わなくても、自分で進んでちゃんとやってくれるし、親からの押しつけがなくなってきたからなのかなと思う。」

 

今榮悠美子さん
「『自分がなんとかするしかないねん』とか、子どもたちも頑張っている。
それを応援していこうと思う。」

なぜ今 人気? アドラー心理学

和久田
「取材にあたった伊藤ディレクターです。
アドラーの言葉は、さまざまな立場の人の心の支えになっているのですね。」

伊藤加奈子ディレクター
「取材の中で、『周りの評価を気にする必要はない』という言葉に共感したという声が多く聞かれました。
今は、フェイスブックやツイッターなどのSNSによって、自分がどう思われているのか、人からの評判がどうしても気になってしまう時代です。
思うように評価されず、自信が持てない、自己肯定感がないと悩む人も少なくありません。
そんな中で、肩の力を抜いて、自分らしく生きればいいのだというアドラーの言葉が響いているのだと思います。」

鍵は“対人関係” シンプルなわかりやすさ

阿部
「ただ、『人の目を気にするな』とか『貢献することの大切さ』などは、よく言われていることではありますよね?」

伊藤ディレクター
「そうですね。
アドラーは、これまでにない斬新な考えを言っているわけではないんです。
ただ、『対人関係』という枠組みの中で悩みを解決するシンプルさがうけて、ブームとも言える状況を生んでいるのだと思います。
アドラーが生きたのは、第一次世界大戦もあった閉塞感の強い時代でした。
先が見えず、混沌とした状況の中でも、アドラーは周りに流されず、人を信頼することの大切さを訴えました。
そういうメッセージだからこそ、100年という時を超えて、現代の人にも受け入れられていると感じました。」