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2016年4月13日(水)

『さくら5つの物語』 ダムに沈む ふるさとの一本桜

阿部
「今週シリーズでお伝えしている、『さくら5つの物語』。
今日(13日)は、愛知県の山あいで咲く、『ウバヒガンザクラ』です。
花も見事ですが、このように枝ぶりがまたすばらしいですね。」
 

和久田
「四方7メートルに渡り枝を広げる一本桜。
しかし、周囲に人の気配はありません。
実は、この地区はダムに沈むことが決まり、住民はそれぞれ、移転を余儀なくされました。
失われゆく、ふるさとに残る一本桜と住民の物語です。」

ダムに沈むふるさと 思い出つなぐ一本桜

リポート:元木達也(NHK名古屋)

今年(2016年)2月。
70年以上、住み続けた家を去る男性です。



 

「この地区で、人の営みがこれで終わり。」




 

男性を最後に、すべての住民がこの地区を去りました。

愛知県設楽町八橋地区。
5年前、地区には49世帯が暮らしていました。
しかし、ダムの建設で、全世帯が地区を離れることを余儀なくされました。
今、人が住んでいた面影はほとんどありません。

 

この地区を高台から見守り続けた、「ウバヒガンザクラ」です。
樹齢100年以上の桜は、住民たちにとって、ふるさとの象徴でした。



 

毎年4月、満開の桜の下、住民総出でおこなわれてきた花見です。
毎回、最後は全員で記念の集合写真を撮っていました。



 

花見を毎年欠かさず記録し続けてきた、窪野欣也(くぼの・きんや)さん、75歳です。
住民が地区を離れていくにつれ、行われなくなった花見。
ふるさとを離れても、その思い出を大切にしたい。
窪野さんは、この春、花見を再開しようと考えました。
 

離れ離れになった住民に、開花の様子を伝えます。




 

窪野欣也さん
「今まで親戚兄弟みたいだった人が、もう一生会えないかもしれない。
生きていてもね。
それは非常に寂しい。
だからこの桜の木のもとへ、できれば来ていただきたいと思います。」
 

ふるさとの一本桜に特別な思いを寄せる人がいます。

正木寿子(まさき・としこ)さん、84歳です。
今は、桜から30キロ離れた街で暮らしています。
80年以上、八橋地区で暮らしてきた正木さん。
自宅の軒先から、いつも見えていた桜を残し、地区を離れたことが心にひっかかっていました。
 

正木寿子さん
「八橋のあれ(桜)は、みんなの心のよりどころだった。
桜だけ置いてきてしまったなと思う時もあります。」


 

花見が行われた、今月(4月)3日。
桜は満開の花を咲かせた。
花見を呼びかけた、窪野さんです。

窪野欣也さん
「いいね最高、ほぼ満開でね。
ちょうどいい。」

移り住んだ先から、かつての住民たち60人以上が集まりました。
中には、2時間かけて足を運んだ人もいました。



 

思い出の桜を気にかけていた正木さん。
娘と一緒に地区に戻ってきました。
3年ぶりの桜との再会です。


 

正木寿子さん
「こんなところに一人きりに置いて、みんな出て行ってしまって。
よくそれでも頑張って1人で咲いてくれて、何より良かったと思います。」


 

かつて、毎年必ず撮影していた集合写真。
桜の下、つかの間戻ったふるさとの時間です。



 

窪野欣也さん
「ここの場所というのは村を一望できる、いい場所なもんですから。
ここから見ても小学校が見えます、私には。
実際には何もないけど、見えているんです。
みんなそうです。
ですから、ここにしのびに来ます。
思い出は絶対沈まない。」

100年に渡り、地区を見守り続けてきた「ウバヒガンザクラ」。
失われゆくふるさとの思い出をつなぎます。
 

和久田
「この『ウバヒガンザクラ』は、高台にあるため、ダムが完成した後も残されることが決まっています。
周囲も整備され、公園となる計画です。」

 

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