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2016年4月12日(火)

『さくら5つの物語』 早咲きの桜 もう一つの魅力は…

阿部
「今週シリーズでお伝えしている『さくら5つの物語』です。」

和久田
「今日(12日)は、こちらです。
『春めき』という名前の桜についてお伝えします。
2000年に新しい品種として登録された『春めき』。
ソメイヨシノより早く、日増しに春めいてくる時期に咲き始めることから名付けられました。」

阿部
「この桜には、実は、もうひとつ大きな特徴があります。 その魅力に心を和ませる人の輪が広がっています。」

早咲きの桜“春めき” 魅力は独特な香り

リポート:三橋昂介(NHK福岡)

神奈川県西部の南足柄市。




 

3月中旬、「春めき」の桜並木が満開を迎えました。
「春めき」のもう一つの特徴。
それは、独特な香りがすることです。


 

「優しくて甘いにおい。
風に乗って“ぷーん”って。」



 

その香りに強くひかれた1人。
近くの街に住む、三嶽正雄(みたけ・まさお)さん、69歳です。
幼い時から弱視だった三嶽さん。
40代で光を失いました。
5年前、ここを通りかかったときに、「春めき」の香りを初めて嗅ぎました。

三嶽正雄さん
「感動しました。
桜というものが、こんなにいいにおいがすると思って、疲れも飛んでいくし、心が癒やされるし、そういう気持ちで過ごしました。
子ども時代を思い出しますよ。」
 

その時、心に浮かんだのは、子どもの頃に見た光景でした。

三嶽さんが通っていた小学校です。
満開の桜の花びらを間近に見ようと、校庭の木に登りました。
「春めき」の香りが、記憶の中にある、その桜の姿と重なったと言います。
三嶽さんは、苗木を譲ってもらおうと、生産者を訪ねました。

 

「春めき」を生み出した、古屋富雄さん(ふるや・とみお)です。
早咲きの「春めき」は、卒業式の時期に合うと、主に学校に出荷してきた古屋さん。
視覚障害がある人からの依頼は思いがけないことでした。

三嶽正雄さん
「心が癒やされて、心身共に和むという香りですね。」

古屋富雄さん
「それを私に教えてくれたのは、三嶽さんです。」



 

この2人の出会いをきっかけに、「春めき」は各地の盲学校や点字図書館などに贈られ、全国に広がっていきました。



 

そのひとつ、福岡県直方市にある花公園です。
去年(2015年)、「春めき」の苗木が6本植えられました。
3月上旬、枝先には小さなつぼみがつきました。
この日訪れたのは、地元の視覚障害者の団体です。

那須道子さん
「つぼみある?」

那須道子(なす・みちこ)さん、74歳です。
「春めき」の開花を心待ちにしていました。



 

夫 眞夫(まなぶ)さん
「安心する。」

那須道子さん
「私が来たら安心する?
私もここに来たら安心する。」
 

夫の眞夫さんです。
5年前、足を怪我して介護施設に入所。
ほとんど寝たきりの状態が続いています。

那須道子さん
「花公園に行ってにおいを嗅いでくるからな。
教えるわ今度な。」

夫 眞夫さん
「花の香りはいいもんね。」

夫婦にとって、桜は特別な存在でした。

視覚障害者の訓練施設で出会った2人は、昭和42年に結婚しました。
その後、夫婦で、しんきゅう院を開業。
ほとんど、休む間もなく働いてきました。
ほっとひと息つけるのが、春の花見の時でした。
徐々に視力を失っていく病気を患っていた那須さん。
50代で全く見えなくなりました。
夫の眞夫さんも右目の視力がありませんが、毎年春、桜の様子を一生懸命伝えてくれたといいます。

那須道子さん
「花びらが散ったり…、そのころは見えよったからね。
楽しかったですよ。
お酒を持って、おにぎり作って。
主人も元気だったし、よく桜を見に行きよったね。」
 

3月中旬。
苗木に、合わせて17輪の花が咲きました。
公園を訪れた那須さん。
はじめて嗅ぐ「春めき」の香りです。

 

那須道子さん
「初恋のにおいかな。
胸に来ますよ。」


 

那須道子さん
「去年植えた、においのする桜が咲いとったんよ。
去年、植えたのに。
においを嗅がせてもらったのよ。
なんとなくね、優しいにおいやったわ。
ものすごく優しいにおい。
桜は心がルンルンになる。」

夫 眞夫さん
「ずいぶんきれいなんやろうな。」

この日は、夫婦の49回目の結婚記念日。
2人で紡いできた、桜の思い出が蘇ります。

那須道子さん
「楽しい思い出がいっぱいあったな。」

夫 眞夫さん
「あったね。」

那須道子さん
「梅干し弁当やな。
たまご焼きとか、腸詰めとかばっかりやったな。」

夫 眞夫さん
「腸詰めが好きやったね。」

那須道子さん
「腸詰めが、酒のさかなとして好きやったな。」

那須道子さん
「来年は絶対、主人を連れて行きたい。
花のにおいを嗅がせてあげたい。
頑張りよ、リハビリ。」

 

夫 眞夫さん
「私も私なりに、努力して頑張っていく。」

香りの桜「春めき」。
人々の心の中に、優しい花を咲かせています。

 

阿部
「香りを通して、桜に触れていた皆さん、優しい表情をしていらっしゃいましたね。」

和久田
「そして那須さんも、来年は是非、ご夫婦で一緒に楽しめるといいですね。」

 

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