これまでの放送

2016年4月3日(日)

高齢ドライバー 運転免許を手放せるか

上條
「今週から、春の全国交通安全運動が始まります。」

近田
「今、事故を減らしていく上で避けて通れないのが、『高齢ドライバー』の対策です。」

車載カメラの映像です。
一方通行の道の反対側から、車が入ってきました。

急な割り込み。
いずれも高齢者が運転していたケースだといいます。
全国で相次ぐ、高齢ドライバーによる事故。
建物に突っ込んだり、歩行者をはねたりする事故も起きています。
社会全体の高齢化が進む中、高齢ドライバーの対策は追いついていません。

近田
「こちらをご覧ください。
この10年の交通死亡事故の件数です。
全体では半分近くに減っているんですが、一方で、75歳以上の高齢者による死亡事故は減っていないんです。」
 

上條
「今の高齢者世代の多くは、日本人が一家に一台、車を持つようになって、急速にクルマ社会が進んだ時代を過ごしてきました。
そのため、運転免許を持っている高齢者は増え続けています。」

近田
「今、全国の警察では、運転に自信が持てなくなってきた高齢者に『運転免許』を自主的に返すよう呼びかけていますが、なかなか進んでいません。
車に頼る生活が当たり前の人たちが、免許を手放しても生活できる社会にしていくことは可能なのか。
全国各地の状況を通じて考えます。」

高齢ドライバー “免許は手放せない”

リポート:三浦佑一(NHK名古屋)

ハンドルを握って、56年。
愛知県三河地方の74歳の男性です。



 

74歳の男性
「18歳で(免許)取ってからずっと、毎日毎日、乗らん日はないぐらい乗っとるもんでね。」


 

ところが、5年ほど前から電柱などに接触する事故が数回続きました。
妻は、そろそろ夫に運転をやめてほしいと思っているものの、自分も買い物などで乗せてもらっているので、強くは言えません。

男性の妻
「事故のニュースって聞くと、“ああ困った、どうしようかしら”って。
(運転を)やめてもらえば、うんと楽になるんですけど。」


 

男性の免許証はゴールド。
地域の交通指導員の経験もあり、人一倍安全には気をつけていると自負しています。
この秋には、免許を更新するつもりです。

74歳の男性
「“車をあしたからやめなさい”と言われても、がくっとくるもんな。
ふんぎりというのは、つかんかなあ。」

高齢ドライバーへの 免許返納 呼びかけ

平山明秀(NHK和歌山)

増え続ける、高齢ドライバー。
今、全国の警察が力を入れているのが、運転免許の自主的な返納です。

警官
「いくつになられたん。」

「87歳。」

警官
「どうやろ、免許証の返納。」

「そうですね。
あるかもわかりませんな。」

今の制度では、認知症などの病気と診断されない限り、免許の取り消しや停止にはなりません。
75歳以上で、免許を持っている人は一昨年(2014年)、およそ450万人。
これに対し、自主的に免許を返したのは、のべ10万人近くです。
一方、車に頼ってきた人が、免許を返すと暮らしはどうなるのか。

和歌山県有田市に住む、西田嘉子さんです。
40年以上車を運転していましたが、去年(2015年)11月、免許を返納しました。
代わりに、本人を証明する「運転経歴証明書」の交付を受けました。
しかし、免許を返したことで生活に影響が出るようになりました。
その1つが、「代わりの交通手段を確保できないこと」です。
西田さんの自宅から、バス停までは200メートル。

しかし、その途中にある道路は交通量が多く、信号もありません。
足の弱った西田さんは、道路を渡れず、バスを利用することができません。
もう1つ、「新たな交通費」も大きな負担です。
病院に通うときなどは、タクシーを使わなければなりません。
タクシー代は、多い月で1万円以上に上ります。

西田嘉子さん
「今まで車ばっかり乗ってましたから、足が不精になるんですね。
タクシー代も、ばかになりませんしね。
みんなそれ言ってますよ。」

これまで車で行っていた買い物は、近所の人にお願いして何とかしのいでいます。
専門家は、免許の返納を進めるために、その後の暮らしを支える「新たな交通システム」を作る必要があると指摘します。

名古屋大学 環境学研究科 加藤博和准教授
「免許を返納しても暮らしていけると、お年寄りに確信していただけるようにする。
つまり代わりの手段になる公共交通をきちんと整備するということに尽きるということですね。」

免許返納後の生活 どう支える

住民主体で新たな交通システムを作り上げ、3年間で利用者を10倍に増やした地域があります。

宮崎市高岡町です。




 

その名も「高岡きずな号」。
地区の自治会長や元教師たちが、みずから協議会を立ち上げて運営しています。



 

高岡地区 乗合タクシー運行協議会 前田律雄会長
「いろんな方向から論議をして、使いやすいようにしていく。
事故を起こしてからでは間に合いませんので。」


 

「きずな号」が採用したのは、「乗合タクシー」と呼ばれる仕組みです。
車の提供と運転は地元のタクシー会社に頼み、行政から年間100万円前後の補助を受けて運営しています。


 

乗合タクシーは、同じ目的地に向かう人たちを途中で乗せながら、おおむね決まったルートを走ります。
バスのように、運行ダイヤも決められています。
大きなメリットは、バス停まで行かなくてもタクシーのように、自宅まで迎えに来てくれることです。
 

一昨年、免許を返納した、梅田文芳さん。
週に1度、自宅から10キロ離れた町の中心部に行く時に利用しています。



 

途中で乗ってきた80代の女性。
同じ時間に予約を入れていました。
2人の目的地は、町で唯一の大型スーパーです。
この日、梅田さんが支払ったのは650円。
相乗りすることでコストが下がり、タクシーの5分の1程度の運賃で済んでいます。 

梅田文芳さん
「私どもに年金は、ちょっとしか渡らんからですね。
ありがたい料金ですよね。」


 

それでも、自分の好きな時間に、行きたいところに行けるマイカーの便利さにはかないません。
そこで協議会は、徹底して住民の声を聞き、要望に応えることにしました。

運行を始める前に、1,000人の住民に対して行ったアンケート調査です。
行き先の希望を聞いたところ、スーパーや病院などが集まる町の中心部が、最も多い4割を占めました。


 

そこで、運行するルートを周辺部と町の中心を結ぶ2本に限定。
周辺部どうしの移動をできなくする代わりに、それぞれ1日に10便という運行本数を確保しました。


 

行き先の希望で次に多かったのが、デパートなどが集まる宮崎市の中心部です。
これについては、既存のバス路線を有効利用することで応えることにしました。
きずな号がバス停に到着する時間を細かく計算。
乗客が待ち時間なく、バスに乗り継げるようダイヤを工夫しました。

 

利用者が用事を終えた後のことも考えました。
アンケートで把握した、おもな行き先は25か所。
そのすべてに、待合所を設置しました。


 

店や病院に頼んで、利用者が雨や風がしのげる、建物の中で待てるようにしています。

高岡地区 乗合タクシー運行協議会 前田律雄会長
「外にいなきゃならないと、そこで嫌われてしまいますから。
どうしても待ち時間が出てきますから、快適な所でいていただくようにお願いしてる。」
 

さらに、携帯電話を持っていない高齢者が、気軽に「きずな号」を呼べるよう、無料の直通電話も設置しました。



 

利用者
「もう、楽。
便利よ。」


 

高岡町ではこれまで、「きずな号」があることで、9人が免許を返納しました。
協議会は、免許を返納した人の暮らしを支える足となるよう、今後も工夫を重ねていくことにしています。

高岡地区 乗合タクシー運行協議会 前田律雄会長
「乗合タクシーがあるから、免許を返納できるという、そういう雰囲気になってくれば、一番いいことだと思っています。」

地域ごとに 独自の仕組みを

上條
「ここからは、宮崎放送局の猿渡記者とお伝えしていきます。
今見てきた、乗合タクシーのシステム、これ、同じ問題で悩む他の地域でも解決策になり得るんでしょうか?」

猿渡連太郎記者(NHK宮崎)
「そのまま、まねするだけでは成功しないと思います。
人口や生活のスタイルは地域ごとに違い、必要な交通機関の形も異なります。
ほかの地域のやり方をまねたものの、肝心の住民に使われずに、すたれてしまう事例も多いのが現状です。
だからこそ重要になるのが、『住民の声を聞くこと』です。
他の地域にとって参考になるのは、高岡町のような1,000人に行ったアンケートのように、何が必要かを徹底的に把握するという、その姿勢だと思いました。」

さらに進む高齢化 “待ったなし”の課題

近田
「徹底的に把握する、手間もかかって、結構大変ですよね?」

猿渡記者
「地域にあった仕組みを作って、それを定着させるには、相当な時間がかかります。
運転免許を持つ、75歳以上の人は、年に20万人のペースで増えると予測されていて、どの地域にとっても、待ったなしの課題と言えます。
免許を手放したあとの交通手段を、当事者たちが自ら考えて作っていく。
一方で行政は、お金の面などでそれを十分にサポートする。
こうしたやり方は、免許を手放しても暮らしていける社会を作るための、ひとつの方法になると感じました。」

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