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2017年10月4日(水)

ゲノム編集の可能性とリスク

経済ニュースをサクサク 深く、「おはBiz」のコーナーです。「クリスパーキャス9」を開発した研究者が単独インタビューに応じました。

「Eyes on」は、ゲノム編集ですか。

ゲノム編集は、遺伝子の配列を自在に操作することができる技術です。病害虫に強い農作物を作ったり、遺伝性の病気を治療することに使うことができるとされる先端技術で、アメリカでは将来を支える重要なビジネスとも位置づけられています。その中心となるのが、「クリスパーキャス9(ナイン)」という技術。これを開発した一人が、カリフォルニア大学のダウドナ教授です。4日夜(日本時間)発表されるノーベル化学賞の有力候補ともされる教授が、NHKの単独インタビューに応じました。

注目の研究者が語る ゲノム編集の可能性とリスク

【報告 飯田香織 ロサンゼルス支局長】

カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授。分子生物学や細胞生物学の研究者です。これまで、気の遠くなるような作業時間がかかっていた遺伝子操作の技術。それを、まるでワープロで文章を編集するかのように簡単に、しかも、ねらいどおりの操作を可能にする「クリスパーキャス9」を開発しました。


カリフォルニア大学バークレー校 ジェニファー・ダウドナ教授
「ほとんどすべての生物に適用できる非常に画期的な技術だ。これまでの科学を根底から変えるものになるだろう」




ダウドナ教授がこれまでの研究生活をつづった手記です。この中で教授は、この発見に至った時のことを、「私たちはとうとうやり遂げた」、「生命の暗号を書き換える手段を構築したのである」と記しています。
ダウドナ教授は、技術の実用化のため、共同研究者らと合わせて3つの会社を設立。5億ドル以上の資金を調達し、さまざまな疾患の治療法の研究開発を進めているとしています。

ダウドナ教授
「大きな可能性を秘めている。ゲノム編集は医療だけでなく、農業・動植物・工業などに使える。多くの企業が従来のビジネスにゲノム編集を取り入れていくことになるだろう」

この技術は、教授が論文を発表した2012年以降、瞬く間に世界中に広がり、多くの研究者が活用しています。

例えば、DNAの異常も配列から直すことで治療する研究も進んでいます。自治医科大学と東京大学の研究グループは、出血が止まりにくくなる血友病について、クリスパーを使ったマウスの実験を行い、異常の修復と治療に成功。10年後を目標に人への臨床実験を行いたいとしています。

一方、ダウドナ教授は、この技術が乱用されることに懸念を抱いています。人の遺伝子を簡単に改変することが可能なことから、一定の遺伝子を手に入れられる層と、手に入れられない層が生まれ、所得格差ならぬ“遺伝子格差(ジーン・ギャップ)”が生まれてしまうのではないかというのです。
教授は手記の中で、不気味な夢を見たと告白しています。人種による優劣を主張したヒトラーが、「君が開発したすばらしい技術の利用法や意義をぜひとも知りたい」と協力を求める、という内容でした。

ダウドナ教授
「こうした技術を手にすることができて、使い方を決めるのは誰かということを真剣に考える必要がある。強力な技術にはプラスとマイナスの両面あるからだ」

教授は、最先端の技術をルールを決めて活用していくためには、専門家でない人たちも参加して議論を尽くす必要があるとしています。

ダウドナ教授
「科学の専門家ではない人たちに、この技術を知ってもらいたいと思って本を書いた。(最先端の技術には)大きな可能性があるが、(活用にあたっての)倫理的な課題は何なのか、真剣に考える時だということを伝えていきたい」

「クリスパーキャス9」。その技術が遺伝子操作を一変させたということで、難病治療などには期待が高まりますよね。

そうですね。今、テクノロジーやサイエンスは猛烈なスピードで進化しています。恩恵も大きいだけに、どうやって使っていくのか。ルールづくりが重要な時代になっていると感じました。