2019年7月9日(火)

国は“控訴せず” 家族の思い

桑子
「国が、異例の控訴断念です。
差別に苦しんできたハンセン病患者の家族に対しても、国の責任を認め賠償を命じた先月(6月)の判決に対し、きょう(9日)国は、控訴しないことを表明しました。」

有馬
「元患者の家族への差別の実態とは。
そして、残された課題は?」

“控訴断念”に驚きと涙

控訴しないという方針。
国が明らかにしたのは、けさ、突然のことでした。

安倍首相
「筆舌に尽くしがたい経験をされた家族の苦労を、これ以上長引かせるわけにはいかない。
その思いのもと、異例のことだが控訴をしないことにした。」

午後に開かれた原告団の会見では驚きの声が。

両親と姉2人が療養所に収容 黄光男さん
「控訴しないと決まった。
まだ本当かな、ほんまにそうなんか。
そんな気持ち。」

両親が療養所に入所 奥晴海さん
「控訴断念させるために、これからの闘いと思っていたのが一瞬、力が抜けて本当に涙が出てきて。
私たちに、心からの謝罪もしてほしい。」

家族への差別も… 国の“隔離政策”

ハンセン病の元患者の家族、500人余りが訴えた今回の裁判。
その理由は、ハンセン病患者に対する国の誤った強制隔離政策が、その家族への差別を助長してきたという思いがあったからです。
ハンセン病の感染力が極めて弱いことがわかり、治療法が確立したあとも、国は平成8年まで隔離政策を続けました。

原告のひとり、原田信子さんです。
父親がハンセン病になり、小学2年生のときに療養所に強制収容されました。
その日を境に、学校で執ようないじめが始まりました。

原告 原田信子さん
「掃除をして帰る。
雑巾も洗わせてもらえなかった。
洗いに行くと『お前、手入れるとみんなにうつるから』と、雑巾投げてぶつけられたり。
そういうのはしょっちゅうだった。」

さらに、父親の病気が知られたことで、母親は勤め先を解雇。
日々の食べ物にも困る暮らしが続きました。

原告 原田信子さん
「『死のう死のう』と結構言った、母は。
社会全部で嫌ってる病気だから、国があんなに大きい強制隔離をしてるから、本当に楽しいなって思って人生暮らしたことなかった。」

きょう、会見に臨んだ原田さんが語ったのは、無念の思いを抱いたまま亡くなった両親への思いでした。

原告 原田信子さん
「私と母は、父が(施設に)行ってから苦労したので、母にはやっと国は認めてくれたので、離れている時間が長かったので、父と仲よくお墓の中にいてください。
そのうちに、娘の私がその墓に入るだろうから、そのときには親子3人で仲よく暮らしたいと思っています。」

ハンセン病 家族訴訟 悲しみに寄り添って

これまで、ほとんど顧みられることのなかった、元患者の家族の苦しみ。
そこに光を当て、今回の裁判につなげたのはひとりの大学教員でした。
東北学院大学の黒坂愛衣准教授です。

東北学院大学 黒坂愛衣准教授
「この裁判をきっかけにして、私たちにはこういう思いがあると。
家族も被害者だったと、声をあげていただいたこと、本当に私は感謝。
原告の方々に感謝したい。」

大学院生のときに、ハンセン病の元患者の家族が受けてきた差別のことを知り、10年にわたって、60人以上の家族に聞き取りを続けてきました。

東北学院大学 黒坂愛衣准教授
「家族に対しても、こんなにすさまじい差別があったんだと。
ハンセン病の肉親がいる事をとても言えないという現実がありながら、私たちの思いをわかってほしいと、一方で思っている。
これを、なかったことにしてはいけない。」

4年前、聞き取った内容をまとめて本を出版。
大きな反響を呼び、家族が訴訟に踏み出すきっかけになりました。

東北学院大学 黒坂愛衣准教授
「本当に長く苦しんでこられた。
誰にも言えないし誰にも言わない。
自分の胸に閉じ込めて、墓場までもっていくと思っていた方々がある時点で、私たちの声をやっぱり知ってもらいたい。
社会の人々に伝えたい、国に認めてほしいと、家族の方々が変わっていった。」

きょう、記者会見場を訪れた黒坂さん。
原田さんを見つけて、声をかけました。

東北学院大学 黒坂愛衣准教授
「よかった、本当におめでとう」

原告 原田信子さん
「ありがとう。
先生のおかげ、本当に救われたと思う。」

東北学院大学 黒坂愛衣准教授
「決してゴールじゃなくて、これはスタートだと思っている。
そもそもこの裁判にも声をあげられなかった人、原告になることができなかった人がたくさんいる。
その方々含めて、回復していく。
そういう手だて、制度をつくっていけるといいと思う。」

差別なき社会を

そして、原告団の団長がきょうの会見で強く訴えたのは、差別や偏見そのものをなくすことでした。

父親が療養所に入所 原告団 団長 林力さん
「お金をどれだけ積まれても、私たちが受けてきた差別とか偏見というものには、かえがたいと思う。
この問題に対する国民の誤った認識、無知こそ差別の始まり。
そういう問題の解決に、国は全力を注いでいただきたい。」

残された課題

桑子
「きょうの記者会見で原告団が国に求めたのは、安倍総理大臣が原告と面談した上で謝罪を行うことや、原告以外も含めた被害者全員に補償金を支払う制度を作ることなどです。」

有馬
「国は対応を検討しているということですが、元患者やその家族を長い間苦しめてきたその責任は、あまりに大きいと言わざるをえません。
原告の皆さんの高齢化は進んでいます。
救済制度の具体化と運用を急いでほしいと思います。」

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