キャスター・アナウンサー BLOG

大越健介の現代をみる

45分一本勝負

2011年10月19日 (水)

インタビューは好きだ。キャスターという役得で、お会いする人は、まさに時の人であったり、超大物だったりする。ちょっと申し訳ないくらい相手には恵まれている。その人の来し方を調べたり、著作があればそれを読んだりと、事前の準備はひと仕事だが、そうした労力や、直前のえもいわれぬ緊張感もひっくるめて、やはり、真剣勝負の言葉のやりとりは醍醐味にあふれている。

その極めつけとも言うべき仕事が回って来た。野田総理がニュースウオッチ9に登場することになった。内閣記者会が、加盟各社の輪番で行う不定期の首相インタビューなのだか、今度はNHKの番であり、ではいつどのような場でという相談の結果、わが番組に出演することになったのである。
ぼくは政治記者の出身なので、大物政治家と相対するのは珍しい経験ではない。だが、生きたニュース番組に時の最高権力者を呼ぶという重み、かつ撮り直しのきかない生本番となれば、さすがに身が引き締まる。それだけではない。今度のインタビューで、いつも以上の緊張感を覚えるのは、ジャーナリストとしてのぼく自身もまた、視聴者に見られているということなのだ。

野田さんという人はなかなかのくせ者とお見受けした。「ドジョウのように泥臭く」、「ノーサイドにしましょうよ、もう」などと、その時の国民の気分をうまくすくい上げることばを発したかと思えば、政権運営は超がつくほどの安全運転。民主党の前の2人の総理が、ツッコミどころ満載だったのに比べて、ケチのつけ所が少ない。ファイティングポーズの取り方に悩むということは、つまり、インタビュー相手としての難易度が高いことを意味する。

まずは、視聴者の代表として話を聞くのだという原点に立ち返ろうと、ぼくたちは、視聴者からメールやファクスで意見を募ることにした。番組でその旨を伝えると、あっという間に数百という意見が集まった。これが実に興味深い。
まっ先に届いたメールは、福岡の10代の女性からだった。ひと言、「日本からお金が無くなったら、何が残ると思いますか」とある。のっけからほっぺたを叩かれた思いがした。若い人たちは本能的に察知しているのかもしれない。この国が置かれた状況の本質を。
ぼくたちの世代は、経済成長の幻影を追い、本当の人間の幸福について十分に思いを致すことなく、今までの人生を歩んできたような気がする。右肩下がりの日本しか知らない若い世代とは、求める国家像にかい離が生じているのかもしれない。この女性の疑問をもとに、そんな青臭い意見を、総理の座にある野田さんにぶつけてみたいと強く思う。

一方で、野田総理は、安全運転に終始するあまり、発信力の点で物足りないという意見も多かった。これも同感だ。発言が軽い総理などごめんだが、かといって寡黙を貫くあまり、何を考えているのかわからない総理など、これまた本末転倒だ。国民の見方はかなり厳しいと、総理には知ってもらう必要がある。

視聴者の声に接するうちに、だんだんインタビューのイメージができあがってきた。しかし、「視聴者がこう言っているから」と責任転嫁することだけはしたくない。視聴者の声はインタビューの背骨としてビルトインするものであり、最後はぼくの責任で、総理の本音に肉薄しなければならないのだ。

メタボが気になる50代、ともに田舎の庶民のせがれである。互いの共通項を考えればその場が醸し出す親近感もあるだろう。しかし、総理と視聴者代表という立場を考えれば、毅然として意見を戦わせなければならない。過剰なファイティングポーズは不要だし、おもねる姿勢は論外だ。
インタビューはあす20日、45分一本勝負である。ジャーナリストの端くれとして、ぼくもすべてをさらけ出してリングに上がるつもりである。

 

投稿者:大越健介 | 投稿時間:15:59
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