真剣勝負の夜
2012年05月23日 (水)ぼくは政治記者出身ということもあり、インタビュー相手が政治家の場合、ほとんど臆することはない。これが、我ながら縁遠い芸術文化の方面の人だったりすると、突然あがってしまうのだが、政治家であれば、相手がどのような肩書きであれほとんど気にならない。普段の自分はゆるーい人間なのだが、取材となれば真剣である。
先週、野田総理大臣に番組でインタビューをした。野田さんを番組に呼ぶのは去年8月の就任以来3回目であり、相当な頻度である。放っておけば取材が殺到する総理への単独インタビューは、内閣記者会のルールによって決められている。各社に一定の順番で回ってきて、こちらの勝手な都合で決められない仕組みなのだが、総理周辺ができるだけ官邸の主をマスコミに露出させたいと熱心なこともあって、早くも3度目のご登場となったのである。
せっかくの日本のリーダーの登場だ。できるだけ本音を引き出したいし、そのためには段取りめいたことは極力排し、ガチンコ勝負でやりたい。聞き手であるこちらの力量もセンスも、問題意識の深さ浅さもそのまま表れるが、そこは覚悟の上で臨むほかない。
インタビュー項目は多岐に及んだ。最初は原発の再稼動問題から入った。賛否が分かれる難しい問題である。こちらも総理も、言葉を慎重に選びながらインタビューが進む。
消費税率引き上げを含む社会保障と税の改革に話題は移った。時あたかも、衆議院の特別委員会で法案が実質審議に入ったばかり。今後の国会の乗り切り方。自民党への秋波の送り方。党内で頑なに反対している小沢一郎氏への向き合い方。さらには、衆議院の解散・総選挙の見通しなどなど。
野田総理が考える消費税率引き上げの政策的意義については、反対論を含めて前回のインタビューでたっぷり聞いた。だから今度は、混乱必至の政局の荒波をどう乗り切るかについて、総理が描く「絵図面」に迫りたかった。政局取材は政治記者の真骨頂である。全国の人が見ている生中継であるという意識がだんだん薄くなり、サシで取材をしている気持ちになってくる。相手は簡単に手の内を明かすはずはないし、そこをわかった上で押したり引いたりしながら、言葉の微妙なニュアンスから相手の思惑を読み取っていく。没入するうちに時間は過ぎ、気がつくと予定時間を大幅にオーバーしてしまっていた。
番組後の同僚たちの評価はなかなか良かった。総理相手に物おじせずにずけずけと聞いていたこと。国民がなんとなくモヤモヤしていたことをうまく質問に織り交ぜていたこと。そして、いつもは手厳しい同業他社の友人からも「よく切り込んでいたなあ」と電話で合格点をもらった。
それなりにいい汗をかいた気分でいたのだが、インタビューから2、3日経つと、手厳しい声も届くようになった。消費税増税反対の人からは特に辛らつな意見をいただく。ぼくが、どうやって法案をあげるかという総理の「絵図面」にこだわったことは、すなわち、消費税引き上げを是認した上で、総理の背中を押していることに他ならないというご意見である。増税の是非そのものは賛否の分かれる問題であり、発言が偏らないように気を配ったつもりだ。だが、法案の「成立への道筋」にこだわった質問をした結果、反対論者にとってのぼくの態度は、総理の主張に一方的に乗っかった、許せないものと映ったようだ。
ところが、野田総理を支持する人たちからも苦情が来た。ものの言い方がストレートすぎる。オマエの態度は不遜そのものだというものである。一国の総理相手に、記者ふぜいが何をエラそうにしていると、端的に言えばそういうことである。
番組を見ている人の立場や意見はそれこそ千差万別。すべての人を満足させるのは難しい。しかも、意見が対立する政策課題については、それは不可能に近い。ぼくとて人間だから、批判をされれば気になるし、時には落ち込み、傷つく。あれこれと煩悶し、反省もしながらその週末を過ごしたのだが、もともと能天気なぼくは、しばらくしてハタと気がついた。
消費税率引き上げに賛成の人も反対の人も、野田総理を支持する人もそうでない人も、等しく批判をしてくれたということは、ぼくのインタビューのバランスが悪くなかったことの証しじゃないか。野田総理だって、気概を持って答えていたではないか。至らぬ点は多々あるにしても、まあよし、と考えたほうがよさそうだ・・・。
真摯に批判をいただいた方、申し訳ありません。結局、そういう結論に達しました。ただ、皆さんのご意見は、私の心と脳みその奥深いところに刻まれています。それを肥やしにして、これからもがんばっていきたいと思います。かしこ。








