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料理も、歴史も味わえる店。

アシスタント・ディレクターとして『世界入りにくい居酒屋』のディレクター陣をサポートしていた佐藤義幸がディレクターデビューした。人当たりがよく、気が弱そうな印象を与えるが、じつはかなりの強者(つわもの)だ。先日もフルマラソンを2時間30分台で完走した。その足腰の強さを生かし、今回はベルリンの街を走り回った。彼が見つけたのは、1892年にできた歴史のある居酒屋だ。第二次世界大戦では、ベルリン市内でも激戦が繰り広げられたが、店のある建物は奇跡的に残った。

 「ベルリンには歴史のある店が多くあって、その中でも今回のお店に決めたのは、何と言っても料理がおいしかったからです。店主のマルコさんがこの店を買い取ったとき、まず声をかけたのはシェフのクリスチャンさんです。彼はほかの店でシェフをやっていて、マルコさんはその店の常連客で彼の作る料理にほれ込んでいました。そこで、居酒屋をやるからぜひクリスチャンさんに料理を担当してほしいとヘッドハンティングしたそうです。
また、ベルリンでは本格的なベルリン料理を食べられる店が少なく、この店も前までは南ドイツの料理を出していたのですが、マルコさんはクリスチャンさんと相談して伝統的なベルリン料理が食べられる居酒屋にしました。
じつは店の候補はほかにもあったのですが、この店の料理がダントツにおいしかった。番組で紹介した以外にも、おいしい料理がたくさんあったので、シェフのクリスチャンさんはかなりの腕前だと思います。
また、この店はベルリンの歴史も味わえます。戦時中に防空ごうとして使っていた地下室や、弾丸の跡が残っているビールサーバー。ベルリンの壁が崩壊したときは、東ドイツから多くのお客さんが押し寄せて大騒ぎになったそうです。この店に40年間も通っている常連客の1人が『あの日、西も東もなくなった。俺は、東からやって来た若者と乾杯したんだ。最高の気分だったよ』と当時のことを話してくれました」。

『このメンバーで、
ずっとやっていきたいわ』

この建物は最初、ワインの醸造所だったが、そのあとに居酒屋となり、現在の店主であるマルコは5代目だ。30年も、40年もこの店に通っている常連客たちは、前の店主がやっていた時代から通っているのだ。そしてもう1人、従業員のミルカは歴代の店主たちのもとでずっと働いてきた。店主のマルコより常連客たちとの付き合いは長いので、いたずら好きのおじいちゃんの扱いも慣れたものだ。

 「店の上階はアパートメントになっていて、ミルカさんはずっとそこに住んでいます。大学に通っていたころから店でアルバイトをしていて、もう35年も働いているそうです。ですから、歴代の店主のことも知っています。そんな彼女は『店は色々変わってきたけど、今の店が一番いいと思う。だからこのメンバーでずっとやっていきたいわ』と言っていました。
料理やお酒がおいしいだけでなく、本当に居心地のいい店だと思います。そんな店の雰囲気をつくり出しているのは、マルコさんの人柄です。誰に対してもやさしいし、お客さん一人ひとりに気軽に話しかけていました。彼には、みんなを包み込むようなおおらかさがあります。本当にあたたかなパパのような存在でした」。

夢は、恩返しすること

マルコは、この居酒屋以外にもバーを経営している。日々忙しくしているが、その一方で難民キャンプに出かけボランティア活動もしている。そのときに知り合ったのが、東ヨーロッパ・モルドバからやって来た難民のイヴァンだ。

 

 「マルコさんは、難民キャンプで清掃の仕事をしていたイヴァンくんを見て、いつも頑張っているなと感心していたそうです。しかも、どんなに大変な仕事も笑顔を忘れずにやっている姿に好感を持ったと言っていました。
そんなある日、店で従業員の募集をしていたらイヴァンくんからカタコトのドイツ語で「働きたい!」と電話がかかってきたそうです。「店で働きたいなら、まずドイツ語を覚えるんだ」とマルコさんは、彼のために店の近くに住む場所を用意し、ドイツ語学校へも通わせました。今もイヴァンくんは、昼間は学校に通って、そのあと店の手伝いをしています。
まだまだ見習いですが、いつかはシェフになってマルコさんに恩返しする。それが、イヴァンくんの夢だそうです。
そして、店主のマルコさんにも夢があります。それは、日本でベルリン料理が楽しめる店を出店することです」。
もしかすると、日本にいながらマルコの店の常連客になれる日が来るかもしれない。そうなれば、きっと佐藤ディレクターが常連客第一号になるはずだ。