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未来に受け継げ!伝統の“仮山伏の棒遣い” 妙高市・関山神社

  • 2023年07月21日

「故郷の誇りである演武が死に絶えようとしている。悔しくて涙が止まらない」。

私が勤務する上越支局に6月上旬、こうした内容の手紙が届きました。

この演武とは、妙高市の関山地区で1300年の歴史があるとされる「火祭り」のなかで中心的な祭礼となっている「仮山伏の棒遣い」。上越支局にきてから1年以上たちますが、この演武の名前を聞いたことはあっても、まだ取材したことはありませんでした。

全国各地でも伝統芸能が担い手不足から継承が難しくなっているという話を聞きます。

果たして「仮山伏の棒遣い」はどういった状況なのか。
そして、地域でどんな役割を持っているのか。

それを知りたくて、この演武を残そうと奮闘している人たちへの取材を始めました。
(新潟放送局上越支局 阪本周悠)

放送した内容はこちら

「火祭り」盛り上げる伝統の演武

妙高市の関山神社で行われる「火祭り」。山岳信仰を伝える伝統行事で、およそ1300年の歴史があるとされます。地元では1年で最も大きな行事で、祭りを見物するために、お盆より多くの人が帰省するといいます。

この中で、ひときわ見物客の注目を集めるのが「仮山伏の棒遣い」。
新潟県の無形民俗文化財に指定されている演武です。

およそ400年前に神社を戦乱から守ろうと山伏が武術を習得したことが始まりとされていて、江戸時代の文書にもその存在が記されています。

演武にはあわせて22種類の型があり、仮山伏役が2人1組となり、なぎなたや太刀、六尺棒の3種の武具を模した木の棒を使って戦う様子を再現します。
仮山伏役は、金色や赤で彩られた衣装を身につけ、頭には「太陽」や「炎」といった、当時の信仰対象をモチーフにした飾りをつけます。

祭りで仮山伏たちは「ヤア」とか「トウ」という勇ましいかけ声に合わせ、演武を披露していきます。型が決まると見物客から大きな拍手が送られていました。

演武を行うのは地元に住む成人男性です。かつては関山神社の氏子の中から家の跡取りとなる独身の男性が選抜されたといいます。仮山伏役を務めることは名誉なことだったと伝えられています。

稽古の場がつくるきずな

この演武、祭りの中心行事としてだけではなく、地域のつながりを維持する上でも大切な役割を果たしてきました。

演武で仮山伏役を演じる若者たちは、7月にはいると関山神社に連日集まり、稽古に励みます。そして、その指導は伝統的に、かつて仮山伏役を担ってきた地元の先輩が行ってきました。

3年間、祭りで仮山伏役を務めたあと、5年以上にわたり後輩を指導するのが慣例です。
仮山伏役を引退したあとも、この伝統行事に長く関わる形になっているのです。

稽古では、演舞のポイントを徹底的に指導します。
そのポイントとは、2人のタイミングを合わせ、最後のポーズをきれいにできるか。
稽古を取材すると、先輩たちが武具を構える位置や、腰の角度などの姿勢について、細かく指導していました。

祭りの前の時期には、稽古は午後10時まで、1日3時間以上に及ぶこともあります。

そして、こうした稽古の場は、地元の若者どうしのつながりを深める場にもなってきました。長時間の稽古や練習後の飲食などを通じて、年代を超えたつながりを深める場になってきたといいます。

ことし仮山伏役を務める地元の男性
自分の友人が仮山伏をやっていて、自分の父も昔やっていたというので、興味を持って始めました。地域の伝統的な行事に参加することができて非常に光栄な気持ちです。

細かい部分に気をつけないといけないので、意識することも多いのですが、先輩方も優しく教えてくれるので楽しくやっています。

担い手減り存続の危機に

しかし、この「仮山伏の棒遣い」はいま、担い手不足に直面しています。

伝承の危機を訴える手紙を受けて、私が取材したのは、長年、演武の継承に携わっている
関山神社の氏子総代、今井茂さんです。

今井さんによると、担い手不足は、人口減少に加えて新型コロナウイルスの影響で拍車がかかり、例年は6人いる演者も、ことしは4人しかいないということでした。
10年近くに渡って伝統行事に関わる慣例から、担い手が地元に住み続ける人に限られることも、担い手不足の一因になっているといいます。

演武の数を減らしたり、練習を効率的に行ったりと、稽古の負担を減らす努力も続けていますが、このまま担い手が減ると、近い将来、演武の休止もありえるといいます。

今井さんは、地域を代表する伝統行事をなんとか未来に引き継ぎたいと思う一方、打開策がない状況に悩んでいました。

関山神社の氏子総代 今井茂さん
仮山伏を伝承していく若い人たちがいないという問題があり、ましてや、コロナ禍でこういうコミュニティーに参加する若い人たちが減っている現状があり、なかなか継承が難しい時代になっている。

仮山伏がなくなってしまうと火祭り自体が運営できなくなる。みんなのコミュニティーがなくなってしまうということで、非常にしんどい地域になってしまう感じがしている。

何百年と続いてきた伝統なので、何とかこれを10年後、20年後も残していきたいという思いでいて、途絶えさせることなく、未来につなぐことが私たちの仕事だと思っています。

演武に親しみを 子どもたちへの伝承

こうしたなか、今井さんたちがおととしから始めたのが、地元の小学生への伝承です。
指導にあたるのは地区の氏子たちが作る仮山伏伝承会。

伝承会が小学校で希望者を募ったところ、ことしは小学生6人が立候補。
春から週1回、学校で練習を続けています。

子どもたちもかけ声をあげて懸命に練習を行っていました。

子どもたち
「お父さんが昔やっていて、やってみたいと思って」
「先輩たちが学校で披露したのを見て、始めました」

すぐに仮山伏役になれなくても、子どものころから演武に親しむことで、「仮山伏の棒遣い」の記憶を受け継いでくれるかもしれない。そして、将来、担い手になってくれるかもしれない。そうした願いをもって地元の人たちは指導にあたっているといいます。

子どもたちも演武 思い新たに

そして、7月15日。この日、火祭りの取材に行くと、多くの見物客で神社の境内は混雑していました。

祭りでは、成人男性の前に、子どもたちも練習の成果を披露しました。

子どもたちは、たくさんの見物客やカメラを前にして緊張した表情を浮かべながらも、2種類ずつ演武を行いました。そして難しい演武が決まると観客から大きな拍手が送られていました。

この子どもたちの演武を見て、今井さんも祭りのあと、火祭りとともに地域のコミュニティーを守っていきたいという思いを新たにしたと話していました。

関山神社の氏子総代 今井茂さん
きょうはいつも以上に盛り上がったと思います。小学生たちは一生懸命練習してなかなか立派にできたと思います。

子供たちが未来に向かって、中学校、高校、大学というふうに育っていって仮山伏がこれからも未来永ごう続いてくれることを期待しています。

取材を終えて

祭りの当日は、地域の人たちが仲間たちと楽しそうに談笑する姿が印象的でした。
祭りと地域のコミュニティーが密接に関わっていることを実感しました。

それだけに、演武の存続の問題は、人口減少に直面する地域のあり方を象徴するようにも感じられました。

子どもたちへの継承は、すぐに担い手不足の問題の解決策になるわけではないので、今井さんをはじめ関係者は、演武の休止も現実的なものとして考えています。
仮山伏伝承会では、これまでにすべての演武の型をビデオで撮影するなどして、休止した場合にも演武が失われないよう取り組みを進めています。

万が一、いったん演武が休止されることがあっても、子どもたちが将来、復活させてくれるかもしれない。子どもたちへの伝承にはそんな切実な願いも込められているといいます。

今井さんは演武を前に、「ことしを関山神社の祭礼復活元年にしたい。新たな気持ちでまた祭りを盛り上げていきたい」とあいさつしていました。

人口減少は妙高市だけでなく、ほかの多くの地方都市も直面する問題です。
地元の伝統行事、ひいては地域のコミュニティーに与える影響という面からも、この問題をもっと見つめていかなければいけないと、今回の取材を通じて感じました。

  •  阪本周悠

    新潟放送局 記者

     阪本周悠

    2021年入局。
    主に上越地域を担当。 

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