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寄付金を元に 給付型奨学金でコロナ禍の困窮家庭支援へ 

  • 2022年10月21日

新型コロナウイルスの影響の長期化に加え、急速に進む物価高。経済的に厳しい家庭の困窮が深刻化し、子どもたちの進学にも大きな影響を及ぼしています。こうしたなか個人や企業から寄付を募り、高校生や大学生などを対象に返済不要の給付型の奨学金を支給しようという全国でも珍しい取り組みが始まっています。
(新潟放送局 記者 阿部智己)

子どもたちの未来を守るため

財団法人「未来応援奨学金にいがた」の理事会

新型コロナの影響が長期化して生活に困窮する家庭が増え、子どもたちの進学にも大きな影響が及んでいます。そうしたなか子どもたちの進学を支援することで未来を守ろうと、ことし5月、県内のフードバンクの代表や有識者らが財団法人「未来応援奨学金にいがた」を立ち上げ、返済の必要がない奨学金を創設しました。元になる資金はすべて個人や企業からの寄付でまかなうもので、全国的にも珍しい取り組みだといいます。高校生は月5000円、大学生や専門学校生などには月3万円を卒業まで給付する計画で、学校の成績など給付にあたっての条件はなく、ほかの奨学金との併用も可能です。

給付型の奨学金に応募が殺到

奨学金を求めて財団に届いた申請書

財団は当初20人をめどに支援する計画でしたが、その後、寄付金が集まり100人を支援できるめどが立つまでになりました。しかし、ことし8月から希望者の募集を開始すると予想を大幅に上回る応募が殺到。その数、411通にのぼったのです。新型コロナウイルスの影響で収入が減少した母子家庭や、アルバイトができなくなった学生などからの応募が多く、生活の困窮を訴える切実な思いがつづられていました。ボランティアで事務局を務める石井雄大さんは、書類から厳しい現実を痛いほどに感じたといいいます。

「未来応援奨学金にいがた」事務局 石井雄大さん

本当に切実な思いが書かれていて申請書を見るたびに胸が痛くなりました。そして、何としてもそういう家庭また学生に届けたいという気持ちがいっそう強くなりました。

石井さんは、新発田市の職員として生活保護世帯の支援などに取り組むなかで子どもたちが将来の夢や希望を語ることすらできない貧困問題の深刻さを感じてきました。

大学に行きたいと夢を語っていた子どもが高校の3年生とか学年が上がるにつれて、進学校に進学しているのに大学への道を諦めるようになったり、夢とか将来やりたいこととかを口に出さなくなったりしてしまう。子どもだって成長していけば、いろいろと分かってくるので家庭の事情を察して自分が夢を語ったりすることが家族に迷惑をかけてしまうんじゃないかと考えてしまうのだと思います。

4人の娘を1人で抱え 生活はぎりぎりの状態

4人の娘を育てるシングルマザー

奨学金に応募した30代の女性です。高校1年生から小学1年生までの4人の娘を1人で育てています。4人の子どもを抱えて働きに出ることは難しく自宅でできる仕事で生計を立てていますが、年収は平均で200万円ほど。コロナ禍でその収入も大幅に減少し、月収が10万円に満たないこともあり、生活はまさにぎりぎりの状態に追い込まれています。

正直とても厳しい状態です。1人親で子育てと仕事の両立自体が難しいところに、さらに新型コロナに対応しなければならない。子どもにちょっとでもかぜなどの症状があれば学校に行けなかったり、途中で帰されたりしてしまうので、その対応に追われることになってしまう。普通の子育ても大変ですけど、なんかもうほんとに仕事どころじゃないっていうか。

子どもの夢を応援したいのに 

いま女性が頭を悩ませているのが高校1年生の長女の進学費用です。長女には将来、幼児教育に携わりたいという夢があり、児童福祉など幅広く学びために大学進学を希望しています。

中学生までは義務教育でそんなにお金はかからなかったのが、高校生ぐらいになると必要な費用のゼロが1個増えて桁が変わってしまう。学費は高校生から跳ね上がり、高校、大学からが本当に大変になる。負担とは言いたくないけれど、正直そこはかなり経済負担になってしまう。

将来に夢を持ってやりたいことがある子どもを憂いなく応援してあげたい。でも、希望をかなえてあげられないかもしれない。女性は苦しい胸の内を明かします。

やっぱり、高校1つ行かせてあげられるかなとか。それは本当に思いますよね。これからみんなが育っていくなかで1人行かせるのにものすごく大変なのに、さらにその次の子も行かせてあげられるかなって。子どもたちもやっぱり察して、自分たちのせいで家族が大変になってるって思ったりもしてしまっている。そういうことをなるべく感じさせないようにしてあげたいなと思うんですけれど。

「国の貧困対策は不十分」

新潟大学歯学部 中村健准教授

新潟市の職員として生活保護世帯の支援に長年携わった経験があり、貧困問題に詳しい新潟大学歯学部の中村健准教授は、国は貧困対策を進めてきてはいるものの、不十分だと指摘します。

何十年というスパンで見ると、教育にかかる費用が日本はとても高くなっていて先進国の中でも非常に高い。本来は家庭の経済状況に左右されずに等しく希望する人たちに希望する教育ができるようにするのが国の政策としてあるべきだが、対策が不十分になっている結果、経済格差が教育格差につながってしまっている。

そうした状況に新型コロナや物価高が追い打ちをかけ、経済的に厳しい家庭をさらに苦しい状況にしていると言います。

子どもがなりたいようになれるようにしてあげたいと多くの親は思っていると思うが、それが経済的な理由でできないとなったときに、親も自分を責めるし、恨んでしまう子もいるかもしれない。そういった不幸な状況を今の教育を取り巻く環境が生み出している。

あすへの希望をつなぎたい クラウドファンディングも

生活が困窮し、日々の食費を切り詰めなければならない家庭や学生は少なくありません。石井さんたちの元に寄せられた予想を上回る数の申請は、学びを諦めなければならないような状況に追い込まれる高校生や大学生がいかに多いかを物語っています。財団では、こうした人たちのあすへの希望をつなぐため企業などをまわって協力を求める一方、クラウドファンディングも始めています。

クラウドファンディングに寄付が集まれば集まっただけ支援できるということは間違いないが、それでも、奨学金を申請した全員を支援するためには足りていない状況だ。

石井さんは、クラウドファンディングを成功させたうえで、引き続きより多くの資金を集め、1人でも多く支援できるようにしていきたいと考えています。

ふるさと新潟で育ってくれている子どもたちのために、みなさんでなんとか応援できるような、応援したいという気持ちを私たちが集めて子どもたちに届けられるような財団にしていきたい。どのような家庭の子どもたちでも将来の夢を堂々と語ることができ、それに向かって負い目なくしっかり就学できる、そういうふうな世の中を目指していきたい。

 

奨学金に期待も「国が取り組みを」

新潟大学の中村准教授は、寄付金を集めて給付型の奨学金として支給する取り組みは全国でも珍しく支援の輪が広がってほしいとしつつ、本来は国が本腰を入れて取り組むべきだと指摘します。

非常に珍しい取り組みだと思っていますので、この新潟の「寄付を集めて給付型の奨学金を提供する」という仕組み、ぜひ新潟モデルとして全国に広がってほしいと思います。ただし、どうしてこういった取り組みがあるのかというと、既存の公的な仕組みが不十分だからこそ行われているわけです。寄付などの善意の取り組みというのは非常に不安定なものであり、いつまでも続けられるかどうかわからない。いつまでもこの不安定な仕組みに頼るのではなく、公的な制度として困窮している世帯への教育投資を増やし、生まれた家に影響されずに希望する教育をすべて子どもが受けられるような世の中にしていくということが必要だと思います。

「生活保護制度にも課題」「制度の改善を」 

また中村准教授は貧困問題が深刻化する背景には生活保護などの制度が機能していない問題があり、早急に改善するべきだと指摘しています。母子家庭など1人親世帯の貧困率は5割を超えているものの、生活保護を利用している世帯は非常に少ないというのです。その一因として指摘するのが、生活保護を利用すると原則として車の保有ができなくなる点で、このため利用をためらう人が多いことがあるといいます。

生活保護制度が使いにくいというところが非常に大きな問題だと思います。結局、生活保護の対象になるにもかかわらず利用していない方というのは、その分、生活費を切り詰めるので子どもの将来に対するお金をかけられない。生活保護を利用することで経済的に安定し、子どもに必要な教育を与えられるようになる。しかし実際には生活保護の利用をためらう人たちがいる。これは決して自己責任ではなくて、やはり生活保護が利用しにくい制度になっていると捉えて、どうすれば利用しやすい制度になるかというのを考えていく必要がある。車の保有がネックになっているということがあるので車の保有の要件をもっと緩和し、運用する自治体側も車の保有を柔軟に認めていくことが重要だ。生活保護を必要な家庭に届けることができれば、子どもたちの教育にもしっかりお金をかけられるようになる。

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