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記録的大雨2か月 農業の現状は 災害に強いコメ研究も

  • 2022年10月09日

2022年8月上旬の記録的な大雨から2か月がたちました。新潟県内では村上市や関川村などで多くの住宅が損壊・浸水し10月上旬時点でも40世帯近くが仮設住宅や避難所での生活を余儀なくされています。一方、被害は生活面だけでなく新潟の基幹産業である農業にも及びました。コメを収穫する直前の水田が冠水し収穫ができなくなったほか、残ったコメも品質の低下が深刻な課題となっています。こうしたなか新潟大学では災害に強いコメの研究を進めていて、「コメ王国」新潟の生産量や品質を守ることにつながるか注目されています。(新潟放送局 米田亘記者)

大雨被害の現状は

 2022年8月3日から降り続いた記録的な大雨から2か月。大雨による住宅の損壊や浸水の被害は県全体で2380棟に上りました。このうち村上市では、33世帯が仮設住宅で、家の修理を待つ5世帯が避難所での生活を余儀なくされています(2022年10月上旬時点)。
 被災した後の慣れない暮らしが長期化するなか、村上市や関川村は以下の生活相談窓口を10月1日から設けるなど、「心のケア」にも力を入れています。

▼村上市「むらかみ見守り支援センター」
 電話番号:090-7465-1402
 住  所:村上市山口444 村上市荒川支所2階 
▼関川村「関川村地域ささえあいセンター」
 電話番号:0254-64-0111
 住  所:関川村大字上関522-38

 ただ被害は生活面だけではありません。新潟県の基幹産業である農業にも及びました。まず挙げられるのは用水路や農地など生産の基盤となる「ハード」への被害です。用水路やため池に土砂が流れ込んだほか田んぼのあぜが崩れるなどして、被害の数は3000か所近くにも上りました。
 収穫する作物も大きな被害があり、収穫直前の田んぼ1000ヘクタール以上が水や土砂をかぶりました。2か月がたち水は引きましたが、復旧は今も十分進んでいません。
 

村上コメ農家「踏んだり蹴ったりの状況」

村上市の大規模コメ農家 佐藤正志さん

村上市の大規模コメ農家、佐藤正志さんです。作付け面積の3分の1にあたる10ヘクタールほどに土砂などが流れ込み、大きな被害を受けた農家の1人です。

村上市コメ農家 佐藤正志さん
「我々の管理するほ場(田んぼ)に流木や土砂が非常に多く入った。何ともいいようがなく、開いた口が塞がらないというのが本音です」

水田は大量の土砂が流れこみ、ここが田んぼだったとは思えないほど姿を変えてしまっていました。佐藤さんの許可を得て現場に足を踏み入れると、まるで河原を歩いているような錯覚に陥るほどでした。

枯れた稲から芽が出ていた

NHKカメラマン
「河原みたいですけど…」
コメ農家 佐藤さん
「これこそ田んぼの上です。土砂が流れてきてそう見えませんけど、これが稲の残骸です。すごい生命力ですよね、稲はもう芽を出しています」

収穫ができそうな4ヘクタールで少しずつ作業していますが、流れ込んだ木が機械に挟まるなどして
スムーズに進みません。取材した日も、作業にあたる農家が農機をつど止めて挟まった木を取り除いたり、田んぼに転がった流木を複数人で引きずるようにして外に出したりする姿が見られました。

残ったコメもやせ細るなどの被害が

このほか、稲の完全な流失を免れた一部の田んぼでもさらに深刻な課題が。

コメ農家 佐藤さん
「(稲の)株元からたどると、ここでもっとぎゅっともみの幅がないといけないんだけど、すぅっといってしまう。これはもみの張りや数が劣っているということ」

これまでは最高の「1等米」の評価を受けてきましたが、「3等米」の評価が相次いでいるのです。
稲が泥水につかって病気になったことなどが原因とみられますが、3等米の買い取り価格は1等米と比べ
60キロあたり1000円ほどの違いがあります。年間およそ200トンのコメを生産する佐藤さんにとっては大きな痛手です。

コメ農家 佐藤さん
「収量は減るわ等級は落ちるわで、いわゆる踏んだり蹴ったりですよね」。

こうしたなか佐藤さんは、災害の際に少しでも「商品」になるような災害に強いコメを開発してほしいと望んでいます。

コメ農家 佐藤さん
「こういう水害、災害が発生したときでも品質、収量が安定すること。
 これが我々生産者のいちばんの課題なんですよ。
 そういう品種が出たら我々はのどから手が出るほど欲しい。ぜひお願いしたい」。

大雨などで稲が完全に流されたり成長が止まったりすれば収穫は不可能ですが、残った稲の品質を少しでも維持することは農家の所得確保の面でも非常に重要です。近年は大雨や猛暑などの異常気象が頻発しているためコメ生産のリスクは高まっています。

コメは、穂が出るまでは浸水などの被害に比較的強いとされていますが、
異常な高温や乾燥、塩害や病気には弱いとされています。

佐藤さんが「のどから手が出るほど欲しい」と切望した「災害に強いコメ」の開発は簡単ではありませんが、先進的な研究が新潟大学で進められています。

「災害に強いコメ」研究の最前線

暑さに強いコシヒカリ「NU1号」

おととし新潟大学が開発に成功したコシヒカリの新品種「NU1号」。
従来のコシヒカリより「暑さ」に強いのが特徴です。
フェーン現象による夏の異常な高温で3年前には新潟産コシヒカリの「1等米」の比率が25%ほどと、
例年よりおよそ50ポイント落ち込む事態となりました。

これまでの実証実験では、猛暑が続いた地域でコシヒカリが2等米となった田んぼの隣でも
NU1号は1等米に育つなど暑さに強いことを証明しました。

新潟大学農学部 三ツ井敏明教授

NU1号を開発した農学部の三ツ井敏明教授です。
三ツ井教授は「暑さ」以外の耐性を備えた品種の開発にも取り組んでいます。
8月下旬には、大雨被害のあった村上市のNU1号の実験水田を訪ねました。
稲が受けるストレスに対するさまざまなデータを集めています。

穂の下と同じ高さまで雑草に泥がついていた

新潟大学 三ツ井教授
「あ、ここに泥がついてますねやっぱり。雑草の高さまでは泥が来ています。
 ただ、この上の部分で稲は呼吸をしていたというということで難を免れたかな」。

NU1号にさらに「塩害耐性」を加える実験

新潟大学ではNU1号のさらなる改良に取り組んでいます。

記者
「こちらは何の研究を?」
三ツ井教授
「こちらはNU1号に『耐塩性』を付与する実験をしているものです」。

沿岸部の田んぼが多い新潟県では海水が流れ込む塩害に備える必要があり、
いまは暑さ耐性から応用しやすい、塩害に対応するための研究も進めています。
さらにNU1号での実験はまだ始めていないものの、「乾燥耐性」を付けるための実験もすでに行っているほか、病気耐性についても少しずつ研究が進められているとのことです。

NU1号とコシヒカリの成分を比較したデータ

一方、新潟の農家に認められるためには味にもこだわる必要があるといいます。

三ツ井教授
「こちらがことし魚沼でとれたNU1号のデータなんですけど、左がNU1号、右がコシヒカリ。
 味を示す『味度値』を見ますと、NU1号の方が若干良かったかなと」

すべての耐性を付けることができれば、1品種で「暑さ」「塩害」「乾燥」「病気」の4つもの環境ストレスに強くすることができ、味も良いとなれば「万能種」になりますが、そう簡単にはいきません。

三ツ井教授
「ストレスに強くなるということも重要なんですけども、
 それが味に影響する可能性もありますので
 ストレス耐性と味とのバランスというのが非常に重要になってくる」

大学ではNU1号の銘柄登録を検討していて、市場に本格的に流通させるため
今後JAなどと連携していくほか、複数のストレスに強い品種「災害に強いコメ」の実証実験も
順次進めていくことにしています。

三ツ井教授
「気候変動によるいろんな環境ストレスによって、稲の栽培に大きな影響が及んでいる。
 地域の要望にこたえるような形で新品種開発ができればなと思ってます」

相次ぐ激甚災害 高まる新品種への期待

大雨や洪水、猛暑など、近年相次ぐ異常気象や激甚災害。
地球温暖化など長期的な気候変動の影響も指摘されているなか、天気に左右されやすい農家にとって、生産する際のリスクは日増しに高まっています。

それは「コメ王国」新潟でも決して例外ではなく、実際に猛暑による1等米比率の低下や今回の大雨による品質低下など、立て続けにピンチを迎えています。
これらは農家の経営に大きな打撃を与えることにもつながりかねません。コメをめぐっては米価の下落や農家の高齢化によるなり手不足など、ただでさえとりまく環境が厳しさを増しているだけに、災害に強い新品種の開発を含めた農業被害への対策がこれまで以上に急がれています。

  • 米田亘

    新潟放送局 記者

    米田亘

    平成28年入局。札幌放送局、釧路放送局を経て、新潟放送局3年目。災害や一次産業を中心とした経済取材を担当。

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