2009年8月2日放送

アイデンティティーを求めて
メキシコ20世紀美術

出演

今福龍太さん(東京外国語大学大学院教授)

スペインの植民地を経て、独立後も、ヨーロッパ礼賛の支配階級が国を動かしていたメキシコは、1910年の革命で、「アメリカ大陸の先住民インディオの文明とヨーロッパの文明の混血であるメキシコ」という考えを打ち立てた。メキシコ人のアイデンティティー確立をめざした革命だった。
その気運を広く民衆に伝えようと立ち上がったのが芸術家たちだった。「壁画運動」で知られるディエゴ・リベラ(1886-1957)や、ホセ・クレメンティ・オロスコ(1883-1949)。特に、リベラは、南部のオアハカ州テワンテペック地方に通い、先住民の暮らしをつぶさに観察しながら、その生き生きとした姿を「フチタン川」などの作品に表し、民族のルーツに誇りを求めた。リベラの妻だったフリーダ・カーロ(1907-1953)も「メダリオンをつけた自画像」で、レースの民族衣装をまといながら涙を流すみずからの姿を描き、悲しみと、それでもたくましく生きる希望を重ね合わせた。
さらに、革命以前に活躍し、リベラに影響を与えた版画家グアダルーペ・ポサダ(1852-1913)は、「どんな階級の人も死んでがい骨になってしまえば同じ」という考えから、がい骨の版画を数多く残した。それは、メキシコの伝統的な「死者の日」のモチーフとも相まって、アイデンティティー表現のルーツとも考えられている。
こうした潮流を、いまのアーティストたちはどのように受け継いでいるのか。最新のメキシコ美術も取材しながら、アイデンティティーと格闘し続けたその大きなうねりと、そこに込められた思いを探る。

関連展覧会

「メキシコ20世紀絵画展」

会場 会期
世田谷美術館(東京) 8月30日まで


フリーダ・カーロ
『メダリオンをつけた自画像』1948年 個人蔵
©Banco de México, "Fiduciario" en el Fideicomiso 
relativo a los Museos Diego Rivera y Frida Kahlo. 
Photo©Francisco Kochen


ディエゴ・リベラ『夜の風景』1947年 
INBA/メキシコ国立近代美術館蔵
©Banco de México, "Fiduciario" en el Fideicomiso 
relativo a los Museos Diego Rivera y Frida Kahlo. 
Photo©Francisco Kochen


ホセ・クレメンテ・オロスコ
『十字架を自らの手で壊すキリスト』1943年 
INBA/カリーリョ・ヒル美術館蔵
©Fundación José Clemente Orozco.
 José Clemente Orozco/SOMAAP/MEXICO/2009  
Photo©Javier Hinojosa