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「日曜美術館」ブログ|NHK日曜美術館

アートコラム

コラム 「アナザーエナジー展」女性たちから知る社会の現在地

2021年6月24日

6/27放送「三島喜美代 命がけで遊ぶ」いかがでしたか? 日曜美術館の公式ブログ「日美ブログ」では、三島喜美代も出展している東京・六本木の森美術館で開催中の展覧会、「アナザーエナジー展」(9/26まで)を取り上げます。こちらも合わせてどうぞ。

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フィリダ・バーロウ 「アンダーカバー2」 2020年 木材、合板、セメント、スクリム(布)、石膏、ポリウレタンフォーム、塗料、PVA(合成樹脂)、キャラコ、鋼鉄 
Courtesy: Hauser & Wirth

「挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」という副題がつけられた本展では、アーティストの強くしなやかな個性と共に、そうした作品が生み出される背景になっている、風土や民族性、文化、政治などの地域的な特色も肌で感じ取ることができる内容となっています。

世界を知る「扉」のような作品たち

エテル・アドナンは中東の国レバノンの首都、ベイルートの出身(現在はパリ在住)。レバノンというと1975年から1990年にかけ15年にわたって続いた内戦や、昨年ベイルートで起きた大規模な爆発事故などを思い起こす人が多いかもしれません。その一方で、中東で唯一砂漠のない国として知られ、緑に溢れ山々の自然が風光明媚なことから「中東のスイス」と賞された国でもあります。エテル・アドナンは母国レバノンの風景や、第二の故郷となったアメリカ・カリフォルニアの自宅から見える山など、自然との関係の中で描いた絵画が印象的ですが、それらはレバノンの激動の歴史とは対照的に、心を静かに落ち着かせてくれるかのような作品です。

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エテル・アドナン 展示風景

ニュージーランド出身のロビン・ホワイトは一時、ニュージーランド以北の島、キリバス共和国に家族で移り住んだ時期もありつつ、ポリネシア地域との関係が深い作家です。今回の展覧会でもポリネシアに伝わる樹皮から出来た不織布「タパ」を使った巨大な絨毯のような作品を展示していました。タパは地域の日常生活や宗教的な儀式で広く使われる伝統工芸品などとしてつくられてきた歴史を持っています。またその布づくりは昔から女性の仕事とされてきました。

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ロビン・ホワイト 展示風景

ミリアム・カーンはスイスの都市、バーゼルの出身。「カーン」という名字は彼女がユダヤ人の家系であることを示していますが、自身の作品でもそうしたバックグランドが深く関係していると言います。会場で流れている作家自身の肉声が聞けるムービーの中では「何人かの人物が手を上げている絵について以前『子どもたちが遊んでいるのね』と言われたことがありますが、びっくりしました。この絵は手を挙げるよう強制されているところを描いた絵なのですから」というコメントが聞き取れました。絵を見終わった後もまぶたを閉じると脳裏に焼き付いて思い出されるような、残像感を持った作品たち。絵に描かれている人物の目の位置と鑑賞者のそれが同じくらいになるように展示されていたことも関係しているかもしれません。

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ミリアム・カーン 展示風景

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宮本和子 展示風景

もうひとりの日本人作家

「アナザーエナジー展」に出展している日本人作家は番組で紹介した三島喜美代と、もうひとりが宮本和子です。宮本は1964年に東京からニューヨークに渡り、以来今日に至るまでずっと同地に暮らしていますが、長年ミニマル・アートの巨匠ソル・ルウィットのアシスタントを務めてきました。「日本人であることは、ミニマリストということ」という言葉で自身のアイデンティティに言及したことがあります。その作品は幾何学的に見えつつも、同時に日本の伝統的な手織りの機械を見たときのような美しさがあります。また、白を基本にしたモノトーンな表現は、神社で感じるような日本人的な神聖さ、清廉な緊張感が伝わってきます。宮本はニューヨーク、マンハッタンのローワー・イーストサイドにて「Onetwentyeight」というギャラリーの所有・運営もしており、その歴史は35年にも及びます。

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三島喜美代 「作品 21-A」 2021年 陶にシルクスクリーン印刷、鉄

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ヌヌンWS 展示風景

その他、ブラジル出身のアンナ・ベラ・ガイゲル、コロンビア生まれのベアトリス・ゴンザレス、インドネシア在住のヌヌンWS、キューバ出身のカルメン・ヘレラなど、作家のラインナップを見ると地域的な幅があり、会場を歩いているといろんなローカルを旅するかのような気分にもなることができます。作家が現在暮らす場所で撮られたインタビュー動画が作家ごとについているのですが、映像の背景に時折、土地の雰囲気が垣間見えるのも楽しさのひとつ。

フィリダ・バーロウの作品を印象づけるオレンジやピンク、ヌヌンWSに見るインドネシア織物由来の色、宮本和子の白など、それぞれの作家の作品がまとっている色もバラエティ豊かで気分にも影響してきます。世界の女性たちが披露してくれる豊かな表現の世界を、どうぞお楽しみください。

展覧会情報

「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」
9月26日(日)まで
森美術館(東京・六本木)


(記事中の写真すべて「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」展示風景より 2021年 画像提供:森美術館 撮影:古川裕也)


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