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2021年8月15日

コラム 東京ビエンナーレ 東京を再発見する芸術祭

今回は8/ 15 に放送した「アートシーン特別編 東京ビエンナーレ」に関連して、番組で紹介しきれなかった情報をご案内します。こちらもあわせてどうぞ。

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東京ビエンナーレ、有楽町・数寄屋橋公園で行われている太湯雅晴の展示より。岡本太郎が手がけた「若い時計台」と組み合わせたアート作品。「明るい未来」というキーワードは、福島県にあった看板標語「原子力 明るい未来の エネルギー」から取られた。

都市の中の異空間

千代田区・中央区・文京区・台東区、4つの区をまたいで多くの施設や公共空間で展示が行われる、まちなかを舞台にした国際芸術祭「東京ビエンナーレ2020/2021」。会場の数は60カ所以上にも上ります。

会場を回るにあたって出発点にすると良いのは、千代田区外神田の「アーツ千代田 3331」。廃校になった中学校の校舎を再活用したアートセンターで、2010年に開設されて以来、文化の交流拠点となってきました。東京ビエンナーレの総合インフォメーションセンターも建物の向かいに設置されているので、ここから街へと繰り出すのが良いでしょう。

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湯島聖堂の前庭。ガラスの球を用いた宮永愛子作品(※展示は7/29で既に終了) 

御茶ノ水の湯島聖堂では宮永愛子の展示が行われていました。すぐ近くにJRの線路があり車の往来も少なくない場所なのに、湯島聖堂の境内に入ると急にしんとした静寂になります。都市の中に唐突に異空間が存在しているかのように、ここだけ違うたたずまいです。

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水槽の上に置かれたサヌカイトの石。これも作品。

黒塗りの本殿の前庭に置かれたガラスの球たちは、天から降り注ぐ光をその中に封じるかのよう。また本殿前の門の脇に置かれた天水桶の上にはサヌカイトの石が置かれ、雨の日には天から雨粒が落ちるとカーンと高く気持ちの良い音を響かせるとのこと。猛暑のこの日、結局その音を聞くことはできませんでしたが、しんとした聖堂を取り囲む都市の音を意識的に聴くことができました。 

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現在の湯島聖堂は関東大震災後の1935年に建築家・伊東忠太の設計で再建されたもの。聖獣の姿をした彫像があしらわれているのは伊東忠太建築ならでは。

東京の看板建築に光をあてる

神田駅から神保町駅に向かう靖国通りでは、再開発の波の中で姿を消そうとしている「看板建築※」に光をあて、その保存活動ともつながっているプロジェクトがありました。

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閉業した神田の老舗額縁店「優美堂」ももとは看板建築。建物は残っており、アートスペースとして再生が進む。

※ 看板建築……主には関東大震災以降に建てられた木造2〜3階建ての商店建築。銅板やタイルなどで正面部分が独特に装飾されているのが特徴。

神田小川町・優美堂の再生プロジェクトです。優美堂は戦後まもなく創業した額縁店。この辺りを歩いたことのある方なら富士山の形をした看板が記憶に残っている人もいるのではないでしょうか。しかし6-7年前に閉店。今、東京ビエンナーレ総合ディレクターを務める中村政人さんらが中心となって優美堂を市民主体のアートスペースとして再生させる試みが始まっています。

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優美堂の建物に残る防空壕の跡。中に入ることができる。

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現在はこの場所で木版画のワークショップなどが行われている。カフェも8月オープン予定。

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すぐ近くの展示会場で行われている「東京Z学研究所」の展示。無名の、しかしこの街に確かに息づく表現に光をあてて再評価につなげていく活動。

東京大空襲とビエンナーレ

台東区では蔵前の古い寺院で内藤礼の展示が行われていました。浄土宗寺院「長応院」はこの地で江戸初期から400年以上続くお寺ですが、空蓮房(くうれんぼう)という、現代アートを展示するギャラリーが境内に2006年に建立されました。

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蔵前にある浄土宗寺院・長応院にある「空蓮房」。完全予約制で内藤礼の展示が行われている。撮影:畠山直哉
※会期中の内藤礼作品の体験予約は受付が終了しています。

特徴的なのは1名ずつ入って見る鑑賞方式になっていることです。茶室のにじり口のような入り口から腰をかがめて入り、待合室のようなところに進み、そこで気持ちを整えてから奥の間に入ります。

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数センチサイズの人形が静かにたたずむ。 撮影:畠山直哉

ともすれば見落としてしまいそうな、一寸法師のような人形。
それは雪原にたたずむお地蔵さんのようでもあり、わずかに天井から開いたスリットから差し込む日の光に照らされています。その小人と一緒の時をしばらく過ごします。   

またお寺の墓地に東京大空襲で亡くなられた方々を悼む慰霊碑があります。碑自体は以前からお寺にあるものですが、そこに溢れそうな程の水が注がれた瓶が供えられており、それも内藤礼の作品です。  

1945年3月10日の東京大空襲では10万人以上の死者が出たと言います。亡くなった方たちへの願いが詰まった水に見えました。

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慰霊碑に添えられた、水をいっぱいまでひたした瓶。内藤礼の作品。

東京大空襲で焼失した家屋の数は7万棟以上と言われていますが、実は神田の中で焼失を免れ奇跡的に残った建築群を目にすることができる一帯があります。現在の神田須田町1丁目周辺です。会場を見て回る際、良ければ立ち寄ってみてください。

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東京大空襲の被害を免れて生き残った神田須田町の建物。甘味店「竹むら」。昭和5年築。

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「神田まつや」。同じく空襲で焼失しなかった大正時代の建物。 

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「まつや」にて。季節のそばを食すのもお江戸・神田の醍醐味。

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建築史家・藤森照信さんの著書『看板建築』にも登場する海老原商店。

今回東京ビエンナーレの展示会場のひとつ、西尾美也の企画「着がえる家」が催されている海老原商店も戦災を免れた建築です(昭和3年築)。紳士服のテーラーとして最近まで使われていました。

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時代の記憶を残す建物で現代美術家・西尾美也の服にまつわる展示が行われている。

建物の内装が綺麗な状態で残されていて驚きです。また展示では、この場所の記憶とも結びつけながら、一般の人々が衣服を通して交流できる空間が演出されていました。ビエンナーレが終わってもプロジェクトが続き、建物が継続的に活性化されていくことに期待してしまいます。

「東京」をもう一度発見するきっかけに

有楽町では数寄屋橋公園では休み時間の会社員やひと休みをするカップルがくつろぐ、日常の風景が広がっていました。この場所のシンボルである岡本太郎の「若い時計台」には、「明るい未来」と書かれた看板が取り付けられていました。希望に満ちたフレーズとは裏腹に、実はアイロニーが込められたメッセージになっています。普段と違う変化を、そこでくつろぐ人たちは気づいたでしょうか。

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数寄屋橋公園にある岡本太郎作「若い時計台」を使った、太湯雅晴によるインスタレーション。

また、銀座のシンボル、「和光」時計塔の向かいにある三愛ビルの展望フロアでは、遠山正道によるタイムマシンをテーマにした作品を体験。慣れ親しんだ和光の時計塔の文字盤を借景にしながら、別の次元の空間にトリップするような非日常感を味わうことができます。

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銀座・三愛ドリームセンタービルにて遠山正道の作品。

アートを媒介にして、もう一度、東京という街について視点を投じるきっかけをくれる「東京ビエンナーレ」。ぜひあなたも歩いて回って、東京に深くダイブしてみてはいかがでしょうか? 

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銀座・和光の時計塔を視野に収めながら、別の次元に旅する錯覚におそわれる。

展覧会情報

「東京ビエンナーレ2020/2021」
2021年7月10日〜9月5日
各会場の場所及び展示期間・展示時間は公式サイトにてご確認ください。