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2021年4月 4日

コラム メディアアートのあゆみ

4/4放送「ライゾマティクス まだ見ぬ世界へ」いかがでしたか? 日美ブログでは、メディアアートの歴史をひも解きます。こちらもあわせてどうぞ。

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岩井俊雄 「メディア・テクノロジー 〜7つの記憶」No.6 コンピュータ 1997年
ICCコレクション 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

テクノロジーを思いがけないやり方で使う

メディアアートとは新しいテクノロジー、とりわけコンピュータによる新しいタイプのアートと考えられがちですが、それに限らず新旧のテクノロジーを思いがけないやり方で使う表現を指します。あるテクノロジーについて、それまでの使い方を超えて何ができるか? ということを追求する実験ということもできます。

黎明期のメディアアーティストの一人、八谷和彦さんが初期に発表した作品に「視聴覚交換マシン」があります。これは題名にある通り、自分の視覚・聴覚が他人のそれと入れ替わってしまうという作品。

岩井俊雄さんもメディアアートの草分け的存在として知られていますが、代表作のひとつ「映像装置としてのピアノ」では、ピアノの鍵盤を叩いて奏でた「音」が「映像」としてオーロラのように浮かび上がるという作品です。

「ライゾマティクス」主宰のひとり、石橋素さんは、大学生だったときに岩井俊雄さんと坂本龍一さんが「映像装置としてのピアノ」でコラボレーションしたライブを見て感動したことが、メディアアートの道に進むきっかけだったと語っています。エンジニア畑でそれまでアート系ではなかった石橋さんが、自分でも人を驚かせるようなものが作れるかもと思った瞬間だったそうです。

メディアアートを取り巻く環境の変遷

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八谷和彦「視聴覚交換マシン」1993年 撮影:黒川未来夫 豊田市美術館蔵 Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

メディアアートが始まったのはいつか。1960年代にTVを使った作品を発表したナム・ジュン・パイクは戦後における先駆者の一人と考えられています。ナム・ジュン・パイクはもともと音楽を学んでいた人ですが、1961年ごろからTVモニターを使った芸術表現に興味を持ち始め、1965年にニューヨークの画廊で個展を開き、このときから「ビデオアート」が誕生したと語られるようになりました。以来、2006年に亡くなるまでTVモニターを使った作品を発表し「ビデオアートの父」と言われました。

アートとテクノロジーと社会をテーマにしたフェスティバル「アルスエレクトロニカ」がオーストリアの都市リンツで1979年にスタートしたことはメディアアートの歴史を語る上で欠かせない出来事です。アルスエレクトロニカは現在まで毎年開催されています(2020はオンライン開催)。ライゾマティクスも受賞歴があり、また真鍋大度さんは審査員も務めたことがあります。

1990年代にはメディアアートの歴史において重要な出来事がいくつもありました。ドイツのカールスルーエという都市にZKMというメディアアートの研究所兼美術館ができました。日本国内では東京都写真美術館の映像展示室(文化庁メディア芸術祭はじめ多数のメディアアート展を開催)や、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]といったメディアアートの展示を中心とする文化施設もできました。

2001年には岐阜の大垣市でメディア文化の探求者の養成を目的とした大学院大学「IAMAS(イアマス)」が開校しました。ライゾマティクスの中心メンバー、真鍋大度さんと石橋素さんの二人も共にIAMASの卒業生です(出会ったのは卒業後)。

感覚や認識を拡張する

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Dumb Type 「LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE」2018年(奥)、「pH」2018年(手前)
(「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景より 2019年 東京都現代美術館) 撮影: 表恒匡

現在、東京都現代美術館で個展を開催中のライゾマティクスですが、そのおよそ1年前に同美術館では結成35周年を迎えた、日本を代表するアーティストグループ「ダムタイプ」の展覧会が開催されていました。ダムタイプは映像、音、装置、身体表現を融合した芸術表現で知られています。登場したのは1980年代。この時代、「マルチメディア」がひとつのキーワードでした。

 岩井俊雄さんなどと共に日本におけるメディアアートの分野で国際的に活躍した藤幡正樹さんがかつてこう語りました。
「アートは感覚や認識を拡張するものでなくてはならない」。

アート&テクノロジーを通じて、それまで体験したことのないような美や感覚と出会わせてくれることこそ、メディアアートの醍醐味なのではないでしょうか?

展覧会情報

◎東京都現代美術館(東京)「ライゾマティクス_マルティプレックス」展は6/20まで開催しています。

◎新潟県立近代美術館(新潟)では、メディアアートの第一人者で故ナム・ジュン・パイクのパートナーでもあった久保田成子の大規模な個展も開催されています。「Viva Video! 久保田成子展」6/6まで。

◎NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 映像アーカイブ「HIVE(ハイヴ)」では、展示・イヴェントの記録映像や、藤幡正樹をはじめとするアーティストや研究者のインタビューをオンライン公開しています。

◎横須賀美術館(神奈川)で開催中の「ヒコーキと美術」展では八谷和彦の作品「秋水AR」が体験できます。4/11まで。