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2020年8月30日

コラム ヨコハマトリエンナーレ2020 ラクス・メディア・コレクティヴからのメッセージ+会場レポート

新型コロナウイルスの影響で多くの国際アートイベントが中止もしくは来年度以降への延期を余儀なくされる中、2週間遅れながら開幕したヨコハマトリエンナーレ2020。主催者コメントには「今だからこそみなさんと考えたいテーマが詰まっています」とありました。今回トリエンナーレの監修を務めたインドのアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」から日曜美術館にメールでメッセージをもらいましたので紹介します。会場の展示の模様と合わせてどうぞ。 

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ヨコハマトリエンナーレ2020 アーティスティック・ディレクター「ラクス・メディア・コレクティヴ」
撮影:加藤甫 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

——あなたがたは今回のトリエンナーレを監修するにあたっていくつかのキーワードを挙げていますが、その中で「毒との共存」「ケア(いたわり)」という言葉を含めたのはなぜですか?

ラクス・メディア・コレクティヴ(以下「ラクス」と略す):
マーガレット・アトウッド『侍女の物語』をご存知でしょうか。ずっと隔離された共同体は、神のつくりし純潔のルールのもとで管理され、毒性との戦いから派生した軍国主義的かつ権威主義な警察秩序のもとで支配される。毒が完全に充満したあかつきには大半の人が不妊に襲われ、あるいは奇形の子どもを生む可能性が生じ、人口減少のおそれにつながっている。さらに重大なことには、この世界での裏切り者や逃亡者は“コロニー”と呼ばれる猛毒に侵された施設に送還されてしまう。人々の生活は追放の脅威と、不服従や抵抗をした場合の罰によって支配されている。

このシナリオは目新しいものでもなんでもありません。インドの文明において何世紀も実行してきたことです。現在においてはそれが最大の愚行であり、狡猾に覆い隠されてきた、この上なく残酷な行為であったことは明らかです。集落のなかにコロニーを切り出し、毒であるという考えのもとで、(そこの人たちに)不平等な負担を背負わせて冷酷に支配してきました。 

どうやって毒と共存し、それを取り扱うかということが今日的な課題であり、またおそらくこの社会の基本的な危機だと考えています。毒は基本的な存在であり、遠ざけることはできません。

この問いかけは、膨大に人類の集合的知識庫からどのような価値を引き出す必要があるのか? という問いをも私たちに投げかけます。私たちがここで言及するのは2つです。友情の輝きを通じて隣人へのいたわりの気持ちを持つこと。もうひとつは、同調的にならずさまざまなソースと対話をするという、独学の精神です。

——なぜ今回のトリンナーレのタイトルを「AFTERGLOW」としたのですか?

ラクス: 私たちが展覧会タイトルを「AFTERGLOW」としたとき、(COVID-19の)感染爆発はありませんでした。ですから目の前の緊急性からつけたわけではありません。その出どころはもっと別の場所から来ています。

14世紀、イランのシーラーズ生まれの詩人ハーフェズが詠んだ詩がその気分を言い表しています。

〜 膚(はだ)に触れる焼けた石炭
誰がこれを感じなかったであろうか

耳たぶに届いた消息から
あるいは惨憺たる事件を目撃した衝撃から

雪崩が来る
そのとき、私たちはお互いを掘り起こすよう努めるべきだ

日常の雑話もやがて戻るだろう
どうか永続し、尊いものとして実現しますように 〜

永遠でありながらはかない瞬間が、この数行に表されています。ストイックかつ穏やか、堅固で懲罰的、破壊的で頑丈。スペクトルのようにすべてが織り込まれて、私たちの生を物語っています。「Afterglow(残光)」は、時間、存在、ムード、情熱、剥奪の感覚を暗示するための手段です。

ニック・ケイヴは作品設置中のオンライン・ディスカッションで示唆に富むコメントをしてくれました。暴力と向き合うために生に対する高揚感を理解することがいかに重要であるかということ。そしてときに高揚感というものは武装してやってくる場合があることを忘れてはならない。今回の彼のトリエンナーレ出品作である「回転する森」は根源的な喜びにおいて人々を包み込みながらも、浮遊する涙の滴、弾、銃の形によってそっと警鐘を鳴らし、注意を促すような感覚を与えてくれます。

閾(しきい)の時間、すなわち黄昏時はあらゆる文化においても、不安や不吉な予感を呼び起こし、また同時にエロティックな出会いへの期待感をも想起させるでしょう。それは言語がぐらつき、新しいルールをつくり始める時間です。チェン・ズは鑑賞者に黄昏時を通じて、我々自身が内面を深く掘り下げ、その不確定性と不安定性を、慎重に、そして勇気と思いやりを持って受け止めるように誘います。それ(黄昏時)が、共に生きているという感覚の一部となるように。我々自身が、来るべき共同体への入り口に立っているのだと感じられるように。

                           2020年8月24日
ラクス・メディア・コレクティヴ

—「ヨコハマトリエンナーレ2020」展示の模様—

横浜美術館

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ニック・ケイヴ 「回転する森」 2016(2020年再制作)©Nick Cave

ニック・ケイヴの作品。カラフルさは人種多様性を想起させる一方で、「BLACK LIVES MATTER※」の報道に見るような人種間の暴力にも想いが及ぶ。

※BLACK LIVES MATTER……2012年に起きた白人の自警団による黒人射殺事件がきっかけで起きた抗議行動のもとで生まれたスローガンが「BLACK LIVES MATTER(黒人の命も大切)」。今年2020年にも同様の事件が起こった。

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ニック・ケイヴ 「回転する森」 2016(2020年再制作)©Nick Cave

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ローザ・バルバ 「地球に身を傾ける」 2015年

放射能廃棄物貯蔵施設をテーマにしたローザ・バルバの映像作品。「放射能廃棄物貯蔵管理施設は、わたしたちの無限の未来に捧げられた工学技術の讃歌だ。半減期を待つための隠し場所であり、土で作られた幽閉のための場所である」(執筆:シュヴェタ・サルダ、翻訳協力:中野 勉、翻訳監修:蔵屋美香・木村絵理子・林寿美・大坂直史)

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パク・チャンキョン 「遅れてきた菩薩」 2019年 ©Park Chan-kyong

韓国人アーティスト、パク・チャンキョンの映像作品「遅れてきた菩薩」。仏教説話に重ね合わせながら、放射能がすみずみまで浸透した時代という設定のもと、そこで達する境地を「涅槃(ねはん)」になぞらえている。

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キム・ユンチョル 「クロマ」 2020年 ©Kim Yunchul

キム・ユンチョルによるエイリアンのような立体作品。1時間に15分間点灯する。

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キム・ユンチョル 「クロマ」 2020年 ©Kim Yunchul

宇宙線を検知して光る仕組み。科学と芸術の融合。

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キム・ユンチョル 「アルゴス」 2018年 ©Kim Yunchul

同じくキム・ユンチョル。宇宙線の成分のひとつであるミューオンという素粒子を検出して発光パターンをつくり出す。SF映画に出てくる人工知能生命体のよう。

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エリアス・シメ 「綱渡り 2.2」 2009-2014年 ©Elias SIME Courtesy of the artist and James Cohan, New York

エリアス・シメによる、リサイクル利用した電子基板でできた絵画。

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ズザ・ゴリンスカ 「助走」 2015年(2020年再制作) ©Zuza Golińska

ズザ・ゴリンスカによる、視覚だけに頼らず足の裏で感知する作品。見て想像する感触と実際に歩行してみるのとではかなり違う。

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エヴァ・ファブレガス 「からみあい」 2020年

エヴァ・ファブレガスは人間のからだにとって気持ちのいい形や触感に興味を持ち、ラクス・メディア・コレクティヴはこの作品を人間の腸のようだと語っている。腸は脳に次いでニューロン(神経細胞)が集まっている器官で脳の指令がなくても自分で動ける。腸から脳へも情報を送っており「第2の脳」とも呼ばれる。

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飯山由貴 ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景 ©Yuki IIYAMA

飯山由貴のビデオ作品では、統合失調症を患う1歳下の妹とのコミュニケーションが表現されている。幻覚や幻聴の症状がある妹が頭の中で描いている世界を家族が現実世界で再現し、その中に住んでみるというもの。

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岩間朝子 「貝塚」 2020年 ©Asako Iwama

岩間朝子はスリランカに渡り食料生産や農業について調査していた自分の亡き父親について調べる中で、関係性を取り戻そうとする作品を制作。岩間はアーティストであると同時に料理人でもあり(ベルリンのオラファー・エリアソン・スタジオの食堂立ち上げにシェフとして参加)、食や農という親子の接点が興味深い。

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ランティアン・シィエ 「私が動くと、あなたも動く」2020年 Courtesy of Grey Noise, Dubai

ランティアン・シィエは日本の介護機器メーカーが開発した動作支援ロボットを活用して、自分の身体が突如拡張したときの不思議な感覚について言及する体験型作品を出品。(事前予約が必要)

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インゲラ・イルマン「ジャイアント・ホグウィード」2016年(2020年再制作)©Ingela Ihrman

外来植物をテーマにしたインゲラ・イルマンの作品。入ってきた当初は珍重された鑑賞植物が、その毒性を知られて以来忌み嫌われるようになった。

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チェン・ズ 「パラドックスの窓」 2020年 ©Chen Zhe

チェン・ズによる、黄昏時の空を写した写真の作品。昼と夜の移り変わるはざまの時間は古い日本の表現では「逢魔時(おうまがとき)」とも言った。

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青野文昭 「イエのおもかげ・箪笥の中の住居ー東北の浜辺で収拾したドアの再生から」 2020年

廃品を使った青野文昭の彫刻。

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岩井 優 「彗星たち」 2020年 ©Masaru Iwai

岩井優は清掃という日常的な行為から見えてくる気づきをつづる。

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横浜美術館の入館時の様子。ソーシャルディスタンスを守って順番に入場。

プロット48

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イシャム・ベラダ 「質量と殉教者」 2020年 © ADAGP Hicham Berrada

イシャム・ベラダの、物質と生命を分かつものは何なのかを腐食行為を通して考える作品。

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エレナ・ノックス 「ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)」 2019, 2020年 ©Elena Knox 2020 Courtesy of the artist and Anomaly Tokyo

エレナ・ノックスは、NASAが開発した小さな球体の生態系の中にエビが繁殖しないという事実をもとに、どうしたらエビを欲情させられるのか探求する作品群を展示。

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ジェン・ボー 「シダ性愛1~4」 2016-19年

シダと人間の間の、規範を超えた性のかたちについて提示するジェン・ボーの作品。

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アントン・ヴィドクル 「これが宇宙である」 2014年 Courtesy of the artist

不死などに言及する「宇宙主義」をテーマにしたアントン・ヴィドクルの作品。

人種問題、外来生物、放射能、精神疾患、生態系、身体感覚、セクシュアリティ……、短い時間でさまざまな領域に触れた展示でした。困難に直面した現在、これからを照らす“光”を見つけてみてください。

◎ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
2020年7月17日-10月11日 会場:横浜美術館、プロット48
※事前予約制