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2020年6月14日

アートコラム ウィズコロナの今、美術館の取り組み

5/31放送の日曜美術館「#アートシェア」では、美術関係者にアンケート。新型コロナウィルスに揺れる日々の中で “今こそ見て欲しい作品”を分かち合ってもらいました。しかしアンケートにはもうひとつの質問がありました。「今の状況に際してみなさんが取り組んでいらっしゃることがあれば教えてください」。番組では紹介できませんでしたがこのブログを通じてレポートします。

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2020年5月17日、開館延期中の京都市京セラ美術館から展示の様子が生中継された。 出演:橋本麻里 画像提供:株式会社ドワンゴ

新しいコミュニケーションの発見

三菱一号館美術館は今年が開館10周年。その記念展が2月15日から始まりました。しかし2月28日から3か月以上も臨時休館。その間、リモートを通じて、閉館中の展覧会の内容にアクセスしてもらう方法を模索してきました。

休館中の展覧会場から生中継を実施し、展示の様子がリモートでも見られるようにしました。また、民間のオンラインゲームに参加するかたちで所蔵作品をデータ化し仮想の家に飾れるようにもしました。準備を進めてきた開館10周年記念イベントは中止となってしまいましたが、一方でオンラインの取り組みを通じ、今までにはないかたちで一般の人々からのダイレクトな反応を得られたことは新たな発見でした。SNSのフォロワーも直近2か月で1000人近く増えました。

6月9日に美術館は再開しましたが、休館中にスタートさせたオンラインの取り組みは今後も続けるとのこと。展覧会に足を運んで実物を観てもらいたいという思いは不変ですが、今回の出来事で花開いた新しいコミュニケーションも追求しがいがあると現場では考えています。 

体験を“並走”させていく

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森美術館「未来と芸術展」3D ウォークスルーより

森美術館では臨時休館中に、オンラインプログラム「Mori Art Museum DIGITAL」を開設。その中には、会期途中で終了せざるを得なくなった「未来と芸術展」をVR 映像を使ってホームページから擬似鑑賞できる実験的な仕掛け「3Dウォークスルー」もあります。

「実際に展覧会を観た人でも見落としている部分に新たに気づけたり、あるいは美術館が再開した後も、こうした仕組みがあればさまざまな事情で来館できない方たちにも鑑賞の機会を提供できるようになる。今後の美術館体験を考える上でもヒントになるのではないかと思います」(森美術館広報)

また同館ではラーニング・プログラムにも力を注いできましたが、人を集めて行うことが今後も難しいため、オンラインを駆使した代替案を継続的に探っていくとのことです。「予想だにしなかった事態によって十分な準備もなく今できることから始めたという面もありますが、実物を見る体験とオンラインの体験を並走させていく美術館体験の“ニュー・ノーマル”に真剣に取り組む契機になったという点ではプラスでした」

美術に親しんでもらう「入り口」の広がり

浮世絵を専門とする太田記念美術館も開催中の展覧会が途中閉幕を余儀なくされる中で、展示していた作品を少しでも観て欲しい/知って欲しいと、SNSを通じて「おうちで浮世絵」という投稿を始めました。以来、今日まで最低一日一回は投稿しています。最初は疫病退治に関わる浮世絵を選んで発信していましたが、今では季節感や時事などテーマは広がっています。

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太田記念美術館ほかによる「おうちで浮世絵」の取り組み

「いいね」の数が1万を超えることもあります。これまでもSNSで情報を発信し続けてきた当館ですが、この数か月だけでフォロワー数が10%増えました。「浮世絵はもともと現在の漫画・アニメなどと同様に庶民に向けてつくられた美術なので、SNS上に展開されたことでより広く楽しんでもらえているのでは」(太田記念美術館学芸員 日野原健司さん)。

また事前に示し合わせたわけではないのに、同じく浮世絵を専門に取り扱う他の美術館からも同じ「おうちで浮世絵」のタグで投稿がされるようになり、間接的に連動する結果となっています。「私立美術館ですし来館していただかないと成り立っていかないのは言うまでもありません。ただ、絵の面白さを知ってもらう入り口を広げるという意味で今回の手応えは大きかったですし、館が再開してもSNSの投稿は続けるつもりです」

無観客展示となった美術展の会場から生放送

美術ライターの橋本麻里さんは、民間の動画配信会社が無観客展示となった美術展の会場からの生放送で司会を務めています。同企業はこれまでも美術展の生放送を行ってきましたが、新型コロナで多数の美術館が休館せざるを得ない状況を前にして、できることはないかと、制作・配信の費用を自社負担としました。

生放送は無償で提供されているので、一般の視聴者はオンラインで誰でも“美術館を体験”できます。生放送にしたことで、美術館に行きたいけど行けない一般の人々と、思いを込めて準備した展示を見せられない学芸員との間でダイレクトなコミュニケーションが可能になり、オンラインでありながら共有感覚や臨場感が生まれました。

「もともと弊社ではアートをそれまであまり観なかった方たちにも関心を持っていただける入り口をつくりたいと、この事業を行ってきました。美術の新しい視聴体験のひとつとなってもらえたら」(株式会社ドワンゴniconico事業本部 高橋 薫さん)。中継をしてほしいという相談は、5月半ばまでに各地の美術館から数十件に上ったといいます。
「その全部をフォローすることはできないのですが、緊急事態宣言が解かれたといっても入場制限は続くわけですし、この取り組みは当面続けていきます」

それぞれの模索

その他、茶道家の千宗屋さんは茶を点てて独服したり身近な家族に振る舞う様子の写真をたくさんの人と投稿し合う試み「一服チャレンジお茶碗バトン」をSNSを通じて始め、これは海外にも輪が広がっています。写真評論家の飯沢耕太郎さんは動画投稿サイトで写真解説番組「飯沢耕太郎の写真集千夜一夜」を独自に生配信。作家で原田マハさんは、香港在住のキュレーターとネットの同時中継でトークライブを行いました。現代アーティストグループの「目」は、自宅待機中の子どもが親と一緒に取り組めるアートワークショップのプログラムをオンラインから配布しました。それぞれがこの時間と状況を「次につなげる」模索に使いました。

美術館体験の拡張

アンケートに基づき、追加で取材させていただいた方々に共通していたのは、新型コロナがきっかけで始めた取り組みではあるものの、結果的に「新しい美術館体験」を探求するきっかけにもなったというコメントでした。時間が経って振り返ったときに、 “美術館体験を拡張させる”萌芽があのときに起きた、と語られるようになるのかもしれません。