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2020年5月31日

#アートシェア 作品&選出者コメント全文

新型コロナウイルスの影響拡大により美術館やギャラリーに出かけ素晴らしい作品に出会うことがどれほど「かけがえのないもの」だったのかと気づかされる日々。日曜美術館は各界を代表するみなさんにアンケート形式で、今だからこそ、見てほしい作品を挙げてもらいました。
[日美ブログでは番組で紹介した作品に加え、選出者によるコメントも全文掲載してお届けします。]
※コメントはアンケートの文章で、その後独自にインタビュー取材した内容は含まれていません。

●辻惟雄(美術史家)

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選んだ作品:伊藤若冲「象と鯨図屏風」

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伊藤若冲「象と鯨図屏風」 MIHO MUSEUM蔵

コメント:新型コロナが人の心を脅かしているご時世に、何か慰めになるような作品を紹介したいと考えました。陸の王者である象と、海の王者である鯨が、和やかな雰囲気でお互いにエールを送り合っているようで、見ていてほっとする絵。非常事態下でも、この象や鯨のようなおおらかな気持ちになっていただきたい。

 

●飯沢耕太郎(写真評論家)

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選んだ作品:牛腸茂雄『SELF AND OTHERS』

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牛腸茂雄『SELF AND OTHERS』

コメント:牛腸茂雄(1946〜83)は、幼少期に患ったカリエスによるハンディキャップを抱えながら、写真家としての活動を続けました。常に「死への不安」を抱えつつ、「自己と他者」との関係のあり方を写真として定着することを目指し、60枚の写真から成る写真集『SELF AND OTHERS』を刊行します。そこには、彼が出会った人たちの生の輝きが写し出されています。「死の影」が世界中を覆っているこの時期だからこそ、ぜひ見てほしい一冊。

 

●いとうせいこう(作家/クリエーター)

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選んだ作品:バンクシー「Game Changer」

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バンクシー「Game Changer」 (バンクシー公式ウェブサイトより)

コメント:病院に贈られ、医療関係者へのチャリティとなるもの。ハリウッドのヒーローたちが捨てられているあたりにも、社会問題を鋭い皮肉とユーモアで表現するバンクシーらしい。

 

●原田マハ(作家/キュレーター)

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©森 榮喜

選んだ作品:フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」

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フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」

コメント:ゴッホは本作を自身の人生の中でもっとも困難な時期に描き上げた。1889年、ゴッホは前年末に起こした「耳切り事件」によってアルルの精神科病院に入院し、その後みずからサン・レミ・ド・プロヴァンスにある療養院に入った。孤独な中で己自身に向き合いながら、感性を研ぎすまし、数々の傑作を生み出した。本作は、いかなる逆境にあろうとも創作を続けることで自己肯定をし生きづらい世界に挑む芸術家の生の証しである。月と星々が巡る天体は逆巻く川の流れのようで、左側の糸杉は川辺にたたずむ孤高の画家自身であるように、私には見える。

 

●安藤忠雄(建築家)

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選んだ作品:クロード・モネ「睡蓮」

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クロード・モネ「睡蓮」 地中美術館蔵

コメント:モネは光を求めた作家。この難しい社会の中、モネの睡蓮を見ることで、光という希望の向こうに自分が生きていく姿を見いだせるのではないかと思いました。


実は安藤忠雄さんは、番組では紹介しきれませんでしたが、こちらの作品もシェアしてくれていました。

選んだ作品:ウォルター・デ・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」

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ウォルター・デ・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」 地中美術館蔵

コメント:この球体を自分だと思い、その奥行きの中に自分の世界があるのだと思えば、深いことをひたすら考えることができる。今までにしたことのない経験をしているわけですから、やっぱり人間が考えるしかないんです。もう考え続けるしかない。そんなことを気付かせてくれる作品です。

 

●横尾忠則(アーティスト)

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anan特別編集「Olive」©マガジンハウス(写真・中島慶子)

選んだ作品:パブロ・ピカソ「ゲルニカ」

コメント:この作品はMoMAにあった頃にも、マドリードに移ってからも見ています。「ゲルニカ」はピカソの思想、表現(主題、様式)の集大成です。部分的にもジックリ鑑賞したいんです。
現在、人類はコロナ禍の真っ只中にいます。このことを戦争に例える知識人は多いです。コロナは戦争そのものではないが、大量の死者がでるのは戦争的です。また、その得体の知れない恐怖も戦争の恐怖に近いというか、連想させられます。ゲルニカはその全てを描き、人間の命(生命)に真正面から取り組んでいます。
「ゲルニカ」ほど、コロナと現代の危機、生と死を語った作品は他にないです。

 

●橋本麻里(美術ライター/永青文庫副館長)

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選んだ作品:岩佐又兵衛「洛中洛外図屏風(舟木本)」

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岩佐又兵衛「洛中洛外図屏風(舟木本)」 東京国立博物館蔵

コメント:実のところ、個別具体的な作品を観たい、というより、美術館へ行きたい、という気持ちが大きいです。何日も前からチケットのデザインを矯(た)めつ眇(すが)めつして期待を高め、当日は遠くから見えてくるバナーにいよいよだ、と奮い立ち、自分以外の鑑賞者が夢中で見ている姿に共感したり、ショップを冷やかしたり、帰り道の図録の重さがそのまま充実の余韻となったり……という、全体としての体験を懐かしみ、貴重なものだったと振り返っています。
作品については見たとおり、京の猥雑な賑わいへの憧れ、でしょうか。死が身近だった戦国の「憂き世」から、泰平の「浮き世」へ抜け出した人々の、横溢する生命力が最大の魅力です。息を潜めて疫病に耐えている私たちにとって、容易に取り戻しがたい、「かつて当たり前だった世界」への渇仰(かつごう)・憧憬を慰撫(いぶ)し、再建に立ち向かう励ましを与えてくれる作品だと感じられます。

 

●高橋明也(三菱一号館美術館館長)

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選んだ作品:オディロン・ルドン「グラン・ブーケ」

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オディロン・ルドン「グラン・ブーケ」 三菱一号館美術館蔵

コメント:理由は、かつて東日本大震災の後に当館で公開された折、この作品の前で、幾人もの人たちが祈るようにしていた事実。
人をして、頭(こうべ)を垂れさしめるような神々しさが本作品にはあり、鑑賞者の魂を浄化する要素に溢れています。
苦渋に満ちたこのコロナウイルス禍の中で、ぜひ実際に作品の前に立っていただきたいと思います(ただし、現在は非公開中。今秋に展示公開予定)。

 

●会田誠(現代美術家)

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Courtesy of Mizuma Art Gallery

選んだ作品:島袋道浩「起こす」

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島袋道浩「起こす」

コメント:2017年夏にリボーンアートフェスティバルに行って実際に見た。芸術が持つ「お節介さ」「押し付けがましさ」を極力抑えたところが良かった。「もう芸術はこれくらいでいいんだよなあ…うむうむ…」と思った。一般人の暇つぶしに限りなく近い、ささやかな人為。対する巨大な力を持った自然。人間のわずかな抵抗。そんなことを思った。

 

●片岡真実(森美術館館長/国際美術館会議会長)

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撮影:伊藤彰紀

選んだ作品:ヴォルフガング・ライプ「ヘーゼルナッツの花粉」

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ヴォルフガング・ライプ「ヘーゼルナッツの花粉」

コメント:1970年代末から花粉を集め始めたライプ。元々医学の道を目指していたこともあり、生命の問題を問い続けています。最初の作品《ミルクストーン》は四角く平らな大理石の表面に表面張力ぎりぎりの牛乳を毎日施すものでした。その後始まった花粉のインスタレーションは、世界各地で展示されてきましたが、最近では2013年にニューヨーク近代美術館で大規模な展示が注目されました。
外出自粛のなか、多くの人が自宅や近所の植物に目を向けています。そこには自然に宿る生命のエネルギーがあるからではないかと思っています。花粉は「これから始まる植物の生命の潜在力」(ライプ)の象徴です。ワンシーズンでひと瓶しか集められないという貴重な黄色い粉に、人間も植物も地球も、生きるためのポジティブなエネルギーを感じられると思います。


片岡真実さんは、番組では紹介しきれませんでしたが、こちらの作品もシェアしてくれていました。

選んだ作品:オノ・ヨーコ『グレープフルーツ』

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オノ・ヨーコ『グレープフルーツ』

コメント:外出自粛などの行動規制が続くなかでは、見えない、体験できない世界を想像力で補うことしかできません。想像の世界は自分の力で果てしなく広げることができます。オノ・ヨーコさんは日本語版の序文で、第二次世界大戦時の疎開中に、食べ物がなくてお腹を空かせていた弟さんを、食べたいものを想像して勇気づけたというエピソードを書いています。このアーティスト・ブックは概念を重視するコンセプチュアル・アートの一環で、指示書のみが存在する「インストラクション・アート」と呼ばれるものです。短い文章が「Imagine」など、命令形で始まっていて、ジョン・レノンの「イマジン」がここからインスピレーションを得ているということも、良く知られている通りです。その中には、「現代美術館をあなたのやり方で/バラバラに解体しなさい/破片を集めて/糊でもういちど復元しなさい」というインストラクションもあります。アフターコロナの世界で、世界中の美術館が新しく、あるべき姿を再考しなければならないとき、この一文はとても心に響きます。