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2020年6月 7日

2020年6月7日放送 アートシーン/#アートシェア

5月31日放送「日曜美術館」では#アートシェアと銘打ち、各界を代表するみなさんに行ったアンケートをもとに、こんな今だからこそ見てほしい一作をご紹介しました。この取り組みを引き継ぎ、アートシーンでも美術を愛するさまざまな方からとっておきの一枚を挙げてもらいました。日美ブログでは番組で紹介した作品に加え、選出者によるコメントも全文掲載してお届けします。
※コメントはアンケートの文章で、その後独自にインタビュー取材した内容は含まれていません。

●中野京子(ドイツ文学者)

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選んだ作品:ウジェーヌ・ドラクロワ 「怒れるメディア 」

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画像:ウジェーヌ・ドラクロワ 「怒れるメディア(Médée furieuse)」1836-38年 リール市立美術館蔵

コメント:「王女メディア」を選んだ理由は、自分が見ていると思っているものが正しいかどうか、ということを突きつける作品だからです。神話を知っている人は別として、初めてこの絵を見た人は「誰かに追われて逃げる母親。子供を守ろうとしている」と感じてしまう。でも実は違うのです、と。コロナ禍でフェイクニュースが流れる中、真実を知るためには知識が必要であるということを、「今だから」絵で知っておきたい、という感じです。

 

●北川フラム(アートディレクター)

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撮影:山本マオ

選んだ作品:磯辺行久 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」のためのプランドローイング・シリーズ

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画像:磯辺行久 ≪天空に浮かぶ信濃川の航跡≫のためのプランドローイング(越後妻有アートトリエンナーレ2003)

コメント:磯辺行久さんは、1950年代、当時のアヴァンギャルド美術の時代の寵児として活躍した後、1960年代のニューヨークでエコロジカル・プランナーに転身し、帰国後、表現活動を再開したアーティストです。今年4月22日、世界はCovid-19パンデミックの下、アースデイ50周年を迎えましたが、磯辺さんは50年前の1970年、ニューヨークでの第1回アースデイにも深く関わっています。その日を境に環境への危機意識が世界的に発信されることになったわけですが、磯辺さんのアーティストとしての歩みを見ることが、この50年の地球環境問題の取り組みとシンクロしていることは非常に興味深いと思います。 私は、磯辺さんと、2000年に始まる越後妻有の大地の芸術祭を構想するにあたってお会いし、以来、多くの教えを受け、そこから「人間は自然に内包される」という理念も生まれました。磯辺さんは、第1回から大地の芸術祭に長期間、継続的に参加していただき、他の芸術祭でも作品を発表していただいています。
私が選ぶのは、磯辺さんがこれまでの大地の芸術祭のために描いたプランドローイング・シリーズです。画家としての磯辺さんのヴィジョンが、設計図のように落とし込まれ、そこには風向きや地形等の情報が記されています。1枚の絵がプロジェクトを実現するためのメディアともなっているのです。 磯辺さんは、自然と人間と文明との関係を、21世紀という現代の手法で表現している作家です。今、世界に蔓延するコロナ禍は、自然の一部であることをやめてしまった人間の文明に対する自然の叛乱です。私たちは磯辺さんの作品を通して、自然と人間の関係をあらためて考えることができるのです。

 

●千宗屋(武者小路千家家元後嗣)

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選んだ作品:杉本博司 「仏の海」 京都市京セラ美術館 展示バージョン

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画像:杉本博司 「仏の海」展示風景 ©Hiroshi Sugimoto

コメント:この3月21日に満を持して新装開館予定だった京セラ美術館のこけら落とし展である杉本「瑠璃の浄土」のメイン作品。静謐な参道を思わせる光学硝子五輪塔の林立を抜け、現世の色を思わせる鮮やかなニュートンの光学論にもとづく「Optics」の色彩写真を経て行き着く漆黒の浄土。暗闇に浮かぶ三十三間堂の千体千手観音の「仏の海」は、まさに苦悩の現世を抜けて行き着く、静かな理想世界であり、それは自身の心のありようのあるべき姿を思わせる。いまこのコロナ禍にあって、人知れずこの世界が誰に見られることなく閉じ込められていることそのものが、すでに示唆的である。

展覧会情報

「杉本博司 瑠璃の浄土」
5/26-10/4
京都市京セラ美術館(京都)
事前予約・定員制(5/26- 京都府在住者のみ予約制。6/19- 全国予約制)

 

●萩原敦子(学芸員)

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選んだ作品:ジョルジュ・ルオー「夜の風景 または よきサマリヤ人」

コメント:この物語は困った人には手を差し伸べようという教えを説いておりますので、苦しい社会の中にも手を差し伸べる希望のようなものをわずかでも描き込んでいるところが、私たちも現実の社会というものに目を向けつつ、かつそこにも光があるということが改めて感じとられる作品ではないかと思って紹介させていただきました。

展覧会情報

「ルオーと日本展 響き合う芸術と魂 交流の百年」
6/5-6/23
パナソニック汐留美術館(東京)