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2020年3月 1日 / 旅の紹介 第110回 沖縄へ 芭蕉布を知り、学ぶ旅

沖縄県北部の大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)。沖縄では芭蕉布(ばしょうふ)唯一の産地であるこの地区を訪ね、職人の仕事を見学。さらに那覇市内の博物館で一級品の芭蕉布を鑑賞しました。

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大宜味村喜如嘉地区が近づく。海岸の国道沿いには糸芭蕉の畑が続いている。

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明治以前までは琉球文化圏において広くつくられていた芭蕉布。地元の人々にとっての日常着であると同時に、王族士族の礼服などでも用いられ、さらには高級な献上品としても使われてきました。

しかし近代に入り綿糸や絹が入ってきたこと、また戦後に生活様式が一変したことなどから消滅の危機にひんしました。芭蕉布の原材料である糸芭蕉も、マラリアの発生源になるとのことで戦時中、米軍によってのきなみ切り倒されました。

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芭蕉布の原料となる糸芭蕉。

現在、沖縄では主に大宜味村喜如嘉で芭蕉布の生産が続けられていますが、それは平良敏子さんが再生させたおかげです。喜如嘉出身の敏子さんは戦時中、岡山県に出て挺身隊員として工場で働いていましたが、倉敷紡績の社長であった大原総一郎、また倉敷民藝館の外村吉之介と知り合い、沖縄の染織工芸の価値を再認識することになります。「沖縄の織物を守り育ててほしい」との言葉に背中を押されるようにして敏子さんは戦後喜如嘉に戻り、芭蕉布の再興を目指しました。 

その道は決して平たんなものではありませんでした。しかし、今では喜如嘉に再び糸芭蕉の畑が広がり、集落の人々によって芭蕉布の製造が続けられています。

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糸芭蕉の畑が喜如嘉地区にはあちこちで見られる。

この度は平良敏子さんの義娘であり、喜如嘉芭蕉布事業協同組合の理事長を務める平良美恵子さんに芭蕉布の製造工程を見学させていただきました。

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平良美恵子さん。喜如嘉芭蕉布事業協同組合の理事長を務める。

糸芭蕉の畑と芭蕉布織物工房

芭蕉布織物工房は、平良敏子さんが主宰する芭蕉布織物工房です。(※一般公開はしていません) 

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茎の中の繊維は芭蕉布に、外側の繊維は芭蕉紙に使われる。 

伺った日は室内作業中心。その前日には屋外で「苧倒し/うーとーし」※が行われたとのことです。 
3年かけて糸芭蕉を育て、繊維を取るために糸芭蕉を倒す「苧倒し」が行われるのは10〜3月。勢いよく成長する夏より、繊維が熟成する時期が良いそうです。

※「苧」……糸芭蕉の繊維のこと。

倒した糸芭蕉から茎の部分の皮を剥ぎ(「苧剥ぎ/うーはぎ」)、その後、繊維を取り出しやすくするために木灰汁の上澄み液で煮るという工程と続きます(「苧炊き/うーだき」)。

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煮た皮を竹バサミでしごいて繊維を取り出す「苧引き/うーびき」の作業。

工房では、ちょうどその後からの行程を見学することができました。
上の写真は「苧引き/うーびき」。煮た後の原皮を竹バサミでしごいて、不要な部分を除き繊維を取り出します。

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「苧干し/うーぼし」。苧引した繊維を干す。

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糸芭蕉の繊維。光にあたるとつやつやと輝いて美しい。

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「苧績み/うーうみ」。織物で使える糸にしていく作業。

「苧績み/うーうみ」。片手に小刀を持ち、繊維を裂いて機結び(はたむすび)をして芭蕉布を織るための糸にします。 

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撚りかけ。糸車を使い、慣れた手付きで糸を撚っていく。

「撚(よ)りかけ」。出来上がった糸に撚りをかける作業です。

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「絣結び」をして染めた糸。

「絣(かすり)結び」。染めたくない部分に糸芭蕉の原皮を巻き、さらにビニールひもで覆ってから天然染料で染めていきます。

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加湿をしながら行われる芭蕉布の織り作業。

「織り」。芭蕉布の織りにおいては気温や湿度が大きく影響するとのことで加湿がされていました。気候状況によっては一日で1メートル織れるときもあれば数十センチしか進まないときもあるそうです。

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藍や相思樹(そうしじゅ)など、天然染料で染めた芭蕉布。

熟練した職人さんと共に、それまで芭蕉布の作業をしてこなかった地元の方たちも技術を習得しに来られていました。地域から芭蕉布のつくり手を少しでも増やし、育てていこうという意識を強く感じました。

大宜味村立芭蕉布会館

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喜如嘉にある大宜味村立芭蕉布会館。

芭蕉布織物工房の近くに、後継者育成の場として1986年に設立された大宜味村立芭蕉布会館があります。こちらは一般の方々も見学可能。2階で芭蕉布づくりが行われています。1階では作り方の映像を見ることができ、実際の芭蕉布や道具の展示もされています。

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芭蕉布会館の1階展示より。芭蕉布のさまざまな柄。

また1年に一度、希望者に向けて、3泊4日で芭蕉布の工程を体験できるワークショップも開催しています。2020年は終わったばかりですが、毎年1月か2月頃に行っています。

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芭蕉布制作に使う道具の展示。

「他県の方や外国の方も含めて、興味のある人々に芭蕉布について深く知ってもらうことは大きな意義があります。触れていただくことが大切なので、ワークショップではつくる体験と合わせて、芭蕉布の着物も実際に羽織っていただきます」(平良美恵子さん)

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染料に使う植物。右から琉球藍、福木(ふくぎ)、相思樹、車輪梅(しゃりんばい)。

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1階で上映されている芭蕉布の作り方の映像。平良敏子さんの映像を中心にわかりやすくまとめられている。 

伺った日も2階で黙々と芭蕉布づくりに励む人々の姿がありました。そのかたわらでは御年99歳、人間国宝の平良敏子さんが慣れた手付きで管巻き(くだまき)の作業を行っていました。「ええ。敏子は今でも毎日のように工房に来ていますよ」(美恵子さん)。

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芭蕉布会館の周りに植えられていた花芭蕉。芭蕉布に使う糸芭蕉とは別の種類。

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喜如嘉の風景。「以前はどの家でもおばあさんが芭蕉布づくりの作業をしていました。今ではそうした風景は皆無です。若い人にどう引き継いでいくかが課題です」。

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喜如嘉で見つけた相思樹。地区の中で染料の植物とさまざま出会う。

「地元の植物を天然染料として使うようにしています」と美恵子さんが仰っていましたが、集落を散策していると、琉球藍・月橘(げっきつ)・車輪梅・相思樹・福木など、芭蕉布を染めるために使う植物を見つけることができました。

七滝とヒンバムイ

喜如嘉は、沖縄で伝承されてきた森の精霊「キジムナー」発祥の地としても知られています。(喜如嘉では「キジムナー」ではなく、「ブナガヤー」と呼ぶのが一般的)

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喜如嘉における神聖な滝「七滝」。

喜如嘉に古くから伝わる神聖な御嶽(うたき)、「七滝(ななたき)」に行ってみました。滝の横にある祠(ほこら)も大変に古い歴史を持っています。

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七滝の脇にある古い拝所。

また七滝の近所に、「ヒンバムイ」と呼ばれる丘があります。鳥居をくぐり石段を登っていった先に神様の拝所があり、喜如嘉の集落と海を一望することができます。 

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「ヒンバムイ」で喜如嘉の集落を一望。

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頂上に据えられた拝所。

沖縄県立博物館・美術館

県外から喜如嘉に行くには那覇まで飛行機で、そこから車で大宜味村を目指す道のりになります。せっかくなので、那覇市内で芭蕉布が見られる博物館に立ち寄りました。

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「芭蕉桃色地経縞絽織衣裳」。琉球王国時代、身分の高い人が着用していた色染め芭蕉布を、残されたはぎれを手掛かりに芭蕉布織物工房が復元。

沖縄県立博物館・美術館では2015年度から染織、陶芸、漆器、金工など8つの分野で、現代の職人と研究者が協力して琉球王国時代の手わざを復元する事業を行っています。その成果発表を兼ねて「手わざ -琉球王国の文化ー」展が開催されていました。

芭蕉布織物工房との協同によって最近完成した、桃色地に縦縞の織りが入った優美な芭蕉布の衣裳も展示されていました。博物館に所蔵されている古いはぎれを手掛かりに試行錯誤の末復元したそうです。桃色の地は紅花で染められています。

※展覧会は3/15までですが、芭蕉桃色地経縞絽織衣裳は3/1で展示が終了しています。

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常設展示室でも琉球王国の美術工芸が堪能できる。

常設展示室でも芭蕉布が展示されていました。また館内にある「ふれあい体験室」では沖縄の工芸品にじかに触れることができますが、その中に芭蕉布もあります。平良敏子さんの手がけた芭蕉布の着物を羽織ることができるそうです。※

※注……染織品は定期的に休ませる必要があるため、常時出ているわけではありません。

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常設展示室にて。20世紀初頭のものとされる、子どもの芭蕉布の衣裳(中央)。 左は紅型、右はトゥンビャンと呼ばれる琉球の伝統衣裳。

那覇市歴史博物館

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那覇市歴史博物館。毎月掛け替えられる国宝の衣裳展示コーナーは必見。

那覇市歴史博物館は琉球王国の王族であった尚家の旧蔵資料(国宝)や工芸品を所蔵・展示している博物館。19世紀の士族が着用していた芭蕉布の衣裳「黒朝(くろちょう)」が展示されていました。

ガラスケースの外から見てもわかるほどの薄く軽い芭蕉布で、極限まで細く紡がれた糸が使われた高級な品です。黒という色からも、身分の高い人の服だったことがわかります。

染織品のデリケートな性格上、歴史博物館でもいつも芭蕉布が出ているわけではありません。ただ今年の夏には『王家の芭蕉布』というテーマで尚家に伝わる国宝の芭蕉布3点が1か月間、特別に展示されるとのことです。

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最上級の芭蕉の糸を使い、黒く色染められた芭蕉布「黒朝(くろちょう)」。※展示期間は3月9日まで。
(沖縄県立博物館・美術館所蔵) 

喜如嘉で芭蕉布づくりを見て学び、那覇の博物館で高貴な芭蕉布を鑑賞する。琉球王国由来の工芸の真髄を味わう沖縄の旅はいかがですか。

展覧会情報

◎沖縄県立博物館・美術館では「琉球王国文化遺産集積・再興事業博物館特別展 手わざ -琉球王国の文化ー」が3/15まで開催中です。
※芭蕉桃色地経縞絽織衣裳の展示は3/1までで終了。常設室では芭蕉布の展示があります。

◎ 那覇市歴史博物館では7/31〜8/31までの1か月間、『王家の芭蕉布』展が開催されます。特別室に3点の国宝芭蕉布が展示予定。

◎静岡市の駿府城公園茶室で、10月1日〜11日まで、芭蕉布織物工房による「芭蕉布展」が開催予定です。

インフォメーション

◎大宜味村立芭蕉布会館
沖縄県大宜味村喜如嘉454
開館時間 午前10時〜午後5時
休館日 日曜・旧盆・年末年始
アクセス バス「第一喜如嘉」下車徒歩約3分/那覇空港から車で約2時間30分

◎沖縄県立博物館・美術館
沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
開館時間 火・水・木・日=午前9時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)/金・土=午前9時〜午後8時(入館は午後7時30分まで)
休館日 月曜(祝日の場合は翌日)・年末年始
アクセス モノレール「おもろまち」駅下車徒歩10分/バス「おもろまち3丁目」下車徒歩5分/バス「上之屋」下車徒歩10分/バス「県立博物館前」下車すぐ/バス「那覇メインプレイス東口」下車徒歩5分/那覇空港から車で約30分

◎那覇市歴史博物館
沖縄県那覇市久茂地1-1-1 パレットくもじ4階
開館時間 午前10時~午後7時
休館日 木曜・年末年始
アクセス モノレール「県庁前」駅下車すぐ/バス「パレットくもじ前」「沖銀本店前」「県庁北口」下車すぐ/那覇空港から車で約10分