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2020年1月 5日 / 旅の紹介 第106回 京都へ 皆川 明から「つづく文化」を考える旅

ファッション・テキスタイルを中心に、「せめて100年続くように」との思いを込めてものづくりを行っているデザイナー・皆川明。今回は京都を舞台に、皆川明が主宰する「ミナ ペルホネン」の京都店と、その生地の染めを担当する西田染工(にしだせんこう)の工場へ、足を運びました。

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京都店が入る壽ビルディング。1927年竣工。古い建物を大切に維持しながら、現在もテナントビルとして使われている。

短いサイクルで古いものが追いやられ、新製品を投入するのが当たり前の世の中にあって、新しい古いではない価値観で今あるものを大事に生かす。デザイナー・皆川明はそうした考え方で一貫しています。

ミナ ペルホネン京都店

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壽ビルディング入り口部分の床はモザイクタイルになっている。

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1階ショップの様子。かつてこのフロアは銀行として使われていた時代もあった。

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2000年から続くタンバリン柄の洋服(写真中央)。

京都店を訪れると、そうした価値観をよく肌で感じることができます。お店が入るのは1927年に竣工した、アール・デコ調の石造りの意匠が印象的な建物。京都の中心部で、このような昭和初期の事務所ビルが建て替えられることなく続いていること自体が貴重です。「オーナーさんはこの建物をとても大事に守られていて、私たちも敬意を払いながらこの場所の文化のひとつとして根づいていければと思っています」(京都店店長・岸本奈緒さん)

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建物の共用部分の装飾なども魅力的。

4階の店舗には「ラボラトリィ」という部屋があって、ミシンが置いてあり、残布を使ったパッチワークバッグの制作などされています。もともと皆川明はものをつくるアトリエと、それを売るショップが隣り合っていることを大切にしてきましたが、今ではミシンが置かれてその音が聞こえてくる空間をショップ内に残しているのは、ここ京都しかありません。

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フロアの奥に別室が見える。そこにはミシンが置かれており、スタッフが裁縫作業を行う。

4階では主に、服やバッグをつくったときに出る残布を利用した小物やリメイク服を扱っています。一方、3階では、素材・色・柄など多種多様な生地が並んでいます。服やバッグを身に着けて楽しむ人も、生地やハギレ布を買って手作りで工夫することを楽しむ人もいる。テキスタイルを余すところなく楽しんでもらいたい・生かしたいというメッセージをどこからも感じる場所です。

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表と裏で異なる生地のバッグ。こちらも残布を活用。

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好みの残布を合わせられるデニム。

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3階ではインテリアも含めてさまざまな用途で使うことのできる生地が並んでいる。

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刺しゅうが見応えのある布、染めが美しいもの。生地だけ見ていても楽しい気持ちになる。

生地をデザインするところから始まる皆川の服作りは、織り、染め、縫製など、いろんな職人や工場との関わりによって成り立っています。ひとつひとつの生地を見てデザイナーと職人の関係性を感じるのも楽しみのひとつです。

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服飾だけでなく、生地は椅子にも。生活全般にテキスタイルが入り込んでいる。

「技術を持った工場との関係は私たちにとってとても大切です。ただ、職人の高齢化などもあって、その継承については大きな課題で、どうしたらその環境を存続していけるのかということは皆川も考え続けています」(京都店店長 岸本さん)

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窓からは京都の山が見える。 

街を歩く

皆川明は文章の中でよく旅の話をつづっています。旅のときは、とにかくよく歩く、とも。というわけで、京都店の周りを散策してみます。建物のすぐ裏手は木屋町通りで高瀬川が流れ、透明な川面に浮かんで流れる紅葉の赤がきれいです。

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高瀬川の水面に浮かぶ紅葉を眺める。

木屋町通りの向こうは、鴨川。鴨川と四条通りが交差する橋のたもとには、東側に「レストラン菊水」、西に「東華菜館」の建物があります。いずれも1926年築で、今も現役です。東華菜館の建物は、関西を拠点に優れた近代洋風建築を数多く残したアメリカ人建築家ウィリアム・メリル・ヴォーリズが設計した唯一のレストラン建築でもあります。


四条大橋の東側にあるレストラン菊水。建築は1926年築、壽ビルディングと同時期の建築。

皆川明の手がける服の店舗があるのは東京、京都、松本、金沢、湘南などですが、土地選びで大事にしているのは、その街に独自の魅力的な文化が根づいているかの点だと言います。

少し歩けば、戦前の町並みが残る祇園白川。この一帯は京都の伝統的建造物群保存地区に指定されている。 

西田染工

京都の店舗がある四条から電車で南下すること約20分、九条に生地の染めを手がけている工場のひとつ、西田染工があります。通常、一般向けの見学は行っていませんが、特別に見せていただきました。

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西田染工。創業1960年。京友禅の伝統のもと捺染(なっせん)による染めを得意とする。 

西田染工は京友禅の伝統に連なる染めの工場です。スクリーンプリントの型を布に置いて、その上からスキージというヘラを用いて色のりを乗せていく「捺染(なっせん)」という染めを専門にしています。手で職人さんが刷る「手捺染(ハンドプリント)」と、機械を職人が調整しながら刷る「セミオートプリント」の2種類があります。

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今では製造していないという、捺染のセミオートプリント機。ちょうど取材時は、来季春物のプリントが行われていた。

「皆川さんの会社とお付き合いが始まったのは今から10年前の2009年です。弊社が今となっては珍しいセミオートプリントの捺染機を持っていたり、変わった素材にプリントしていたり、そうした情報をどこかで聞きつけられたのではないかと思います。『一度見学に来たい』という連絡をいただき皆川さんが来られました。いろいろ現場で見ていただき、以来ご一緒するようになりました」(西田染工 代表・西田庄司さん) 

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この日に刷っていたのは左側のパターン。これで7版重ね刷りしている。

今でも京都の染め業界は、工程ごとに職人がいて分業制だそうです。スクリーンに製版するための型をつくる「型屋」、染めた後の生地を蒸して色を定着させる「蒸し屋」、蒸した生地を洗って仕上げる「整理屋」と分かれます。

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セミオートプリント機を操る熟練の職人さん。刷り続けているとインクの乗りも変わるため気が抜けない。

「皆川さんから求められるものは非常に高く、普段のやり方を超えていかないと要望されているものはできません。たとえば濃淡とか、輪郭線と色面の重なりとか、生地に染めたときにイメージされているとおりの見え方を実現するために、毎回職人と試行錯誤が絶えません」

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染料の色見本帳。担当者は、どれとどれをどのくらいの分量で合わせればどういう色になるか、頭に入っているという。

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染料の調色機械。染料を混ぜる分量を打ち込めば使いたい色に調合される。

「でも、確実に新しいチャレンジになっています。それに何より、我々にとっての新しい仕事になったということです。弊社はもともと和装関係の染めが主業でしたが、需要の減少に歯止めがかからない状況がずっと続いていました。そんなとき皆川さんの会社と知り合え、緊張感を持って新しいものづくりの仕事を定期的にさせてもらえるようになったことはとても大きいです。また最近では定年を迎える職人がいる一方で、20〜30代で新たに就職して職人修業をしてくれる人材が増えるようになった。これも前向きな変化です」 

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こちらは手捺染(てなっせん)。傾斜した台に貼り付けた生地の上に、版を置いてその上からスキージで色のりを刷り、横にずれてまた刷る、という作業を延々と繰り返す。乾いたら次の版を上から刷る。 写真提供=ミナ ペルホネン 撮影=在本彌生

ただ、悩みも。「セミオートの機械が希少になったのは、インクジェットプリントが主流になったことが関係しています。つまり一般的には時代遅れの機械で、新品の交換部品ももはやなく、故障すると大変です。皆川さんがおっしゃる『100年つづく』をご一緒したいと思ってやっていますが、いつまで出来るだろう? という自問自答を繰り返す日々でもあります」

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こちらは検反作業といって、染めが上手く行っているかのチェックをしているところ。

〜日本の工場は本当にすばらしい技術を持っており、そこには人件費やコストがどうのこうのという以上の価値が絶対にあるはずなんです。産地の人はもちろん、洋服作りに携わっている人たちはそこを大事にするべきだと思います。そこに気づかなければ、その技術は確実に途絶えてしまうし、なくなってしまえば終わりなんです。〜
皆川明・著『ミナを着て旅に出よう』より 

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夜の祇園白川。水辺が美しい。

皆川明は著書の中で、会社のスタッフも、染め屋も生地屋も縫製工場も、一緒に同じ方向に向かっていけたらということを記しています。
今回の旅では服だけでなく、店が入る建物から、歴史を重ねた街並み、職人さんの奮闘まで、続いていくことの希少さとかけがえのなさを感じました。デザイナー・皆川 明のものづくりをきっかけに「つづく文化」を考える旅、いかがですか。

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1966年から続く京都の老舗中華料理店にて。

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ヴォーリズが手がけた東華菜館を眺めながら……。

展覧会情報

◎東京都現代美術館(東京)では「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」が開催中です。2020年2月16日まで。