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2019年4月28日 / 旅の紹介 第90回 京都へ 空海と密教に触れる旅

番組では現在東京国立博物館で開催中の「東寺展」(〜6/2)に絡めて、東寺の立体曼荼羅(まんだら)を主に紹介しましたが、「出かけよう、日美旅」では、京都で空海を感じるいくつかのスポットを巡ります。

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東寺の境内。手前に見える建物が立体曼荼羅が展開されている講堂。

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空海は31歳のときに唐の長安に渡り、当時最先端の仏教だった密教の奥義を当代随一の師・恵果阿闍梨(あじゃり)より異例の早さで授かります。日本から来た留学生だったにもかかわらず、師が入滅した折に、2000人居る弟子たちの総代として追悼文を読み上げるほど、実力が認められた存在だったようです。 

国際都市・長安から最先端の思想を持ち帰り、サンスクリット語を自由に操り、 土木工学など宗教以外の最新技術にも通じていた空海。809年に即位した嵯峨天皇から厚い信頼を得て高野山を拝領、さらには都を守護する目的で平安京遷都時に建てられた東寺も下賜されるに至りました。 

また密教の奥深い教えは言葉で伝えるのが難しいとして、東寺の立体曼荼羅に見るような、“体験型”宗教空間をつくり上げたり、日本初の私立学校を開設するなど、他の人がなし得なかった独創的な提案をいくつも行いました。

神護寺

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清滝川の脇から神護寺へと登っていく参道。ちょっとしたハイキング。

空海ゆかりの場所を巡る旅、まず向かったのは京都の北西、高雄山の中腹にある神護寺です。
平安京遷都の進言をしたことでも知られる和気清麻呂の菩提寺で、8世紀頃の創建。かつては高雄山寺(たかおさんじ)と言いました。

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境内に着くまでの道中にはひと休みできる茶屋もある。 

清麻呂の後を継いだ長男・弘世(ひろよ)は大学別当という、国家にとっての優秀な人材を教育することに力を注ぐ役職に就いていました。そうした中で、それまでの奈良仏教に代わる新しい仏教を追求していた最澄を寺に招待、講義を行ってもらいました。高雄山寺での講義がもとで天皇からのお墨付きを得た最澄は、還学生(短期間の特待生)としての立場で唐へ留学し、中国の天台宗を学ぶことが許可されたのでした。最澄は帰国直前に密教も学びますが、それは十分なものではありませんでした。

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神護寺の山門に到着。なかなか良い運動。 

一方、空海はその頃まだ無名でしたが、漢語に精通していたことから、通訳の職務も兼ねた一般留学生として、最澄と同じときの遣唐使船で海を渡ります。
空海は唐の都・長安で最新の密教を完全なかたちで修めて、20年の留学期間を2年に短縮して帰国します。和気氏は、高雄山寺に帰国後の空海を招き入れます。最澄がそうするよう和気氏に進言をしたのではとも言われています。最澄と空海はこの寺で積極的に交流しました。

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神護寺山門。持国天と増長天が両脇に立つ。

809年に高雄山寺に入山して以降、空海は長くこの寺を拠点に活動しました。そして824年、同じく和気氏ゆかりの神願寺と合併するタイミングで寺名を神護寺と改め、真言密教の根本道場として本格的に運営していくことになっていきました。

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境内にある和気清麻呂公をまつった廟(びょう)。

神護寺にはその近くまでバスが出ていますが、停留所のそばから400段の石段から始まる山道を登って境内に到着します。ちょっとしたハイキングで息も弾みますが、今の季節は新緑が美しいです。また神護寺は京都でも有数の紅葉の名所としても有名なので、秋に訪れることを楽しみにしている人もいます。

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神護寺金堂。堂内にある薬師如来はもともと神願寺の本尊だったらしい。

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金堂へ向かう階段は春には桜、秋には鮮やかな紅葉で彩られる。

“山紫水明(自然の風景が清浄で美しいこと)”と呼ぶにふさわしい環境で、空海にとってはめい想をする場所として理想的だったでしょう。また神護寺は嵯峨天皇の離宮(現在の大覚寺)とも行き来がしやすい位置関係にあり、その点でも都合が良かったと考えられています。

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多宝塔に収められている国宝秘仏、五大虚空蔵菩薩像。 ※特別に許可をいただいて撮影しています。 

神護寺が所有する高雄曼荼羅(たかおまんだら)は、国内における現存最古の曼荼羅です。空海は唐で密教を教わった恵果阿闍梨から何幅もの曼荼羅を譲られ、日本に持ち帰ったと言われていますが、それらをもとに空海指導のもとに描かれた曼荼羅です。極彩色の装いではなく、紫の布地に金銀の線描で描かれた曼荼羅となっていますが、彩色だと表面が劣化したときに剥げて見にくくなってしまうためとも言われています。現在、220年ぶりの本格修理が5か年計画で進行中。2020年には修理が完了する見込みだということです。

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多宝塔内に置かれた密教の法具。

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多宝塔。普段は閉じられている。

その他、国宝秘仏の五大虚空蔵菩薩といった寺宝もあり、こちらは毎年5月と10月の2度特別公開されます。五大虚空蔵菩薩(こくうぼさつ)は虚空蔵菩薩の持つ5つの智恵を5体の菩薩像で表したものです。五大虚空蔵菩薩としては国宝指定されている唯一のものです。

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明王堂。第2土曜日にはここで護摩祈祷(きとう)が行われ、一般の人も見ることができる。

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高雄山。東京にある高尾山はこちらの山から名前が取られた。

神泉苑

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神泉苑。空海が雨乞いの祈祷を行った場所として知られる。

高雄山からバスで向かった先は二条城のお堀のすぐ南にある神泉苑(えん)。ここは平安の頃には皇族が宴遊などに使った庭園で、面積も現在のような小さな感じでなく、何倍もあったと言われています。また嵯峨天皇がこの庭園で桜を題材に花宴を催したという歴史上の記録があり、それが花見という習慣が生まれた最初と言われています。実際、その時代と規模は違えど、神泉苑は今でも桜の名所として人気です。

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今は小さな庭園だが、平安時代には広大な面積だったと言われている。

また干ばつの際、空海が雨乞いの修法をこの場所で行い、大きな成果を挙げたと言い伝えられています。空海は加持・祈祷を多く行っていたことが知られていますが、それはもともと密教の教義の中に “国家鎮護”という要素も込められているからです。ちなみに東寺の敷地内にある井戸はかつて神泉苑まで通じていて、そこからくんだ水が儀式のときに使われていましたが井戸が枯れてしまったため、現在は必ず神泉苑までお水を取りに行って、儀式で使っているそうです。

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雨乞いの儀式のときに、空海が善女龍王という龍神を呼び寄せて雨を降らせたという伝説に基づく社がつくられている。

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空海の法力が成就したことにちなんで名付けられた法成就池。

東寺

京都駅のすぐ南、九条大通り沿いの東寺に着きました。目印は何と言っても五重塔。新幹線の窓からも見えるので、県外の人々にとっては京都に来たという感慨を抱かせる目印としてもお馴染みでしょう。高さ54.8メートル、木造の塔としては日本一の高さです。

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東寺五重塔。木造の塔としては日本一高い。

もともと、平安京遷都の折、都の正門であった羅城門の東西に国家鎮護の目的で東寺と西寺がワンセットで建てられました。その後、823年に嵯峨天皇から空海が東寺を下賜され、そこから真言密教の寺院になりました。

東寺の本堂である金堂には、本尊薬師如来がまつられています。空海が東寺を下賜されたときに完成していたのは金堂のみでした。空海はまず講堂の建立に着手します。そして境内地の中央に位置する講堂に立体曼荼羅として21体の尊像を安置して、真言密教の説く悟りの世界を表しました。その中心には真言密教の主尊・大日如来が鎮座しています。

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講堂は東寺の中央に位置し、その中心に大日如来が安置されている。

「大日如来がすべての根源であり、宇宙の中心というのが真言密教の根本概念 なのです」と東寺の執事長、砂原秀輝さんが話してくれました。

なお、東寺は五重塔も金堂も講堂も、室町時代に焼失しています。大日如来も焼けてしまったため、現在のご本尊は室町時代につくられたもの。ただ現在開催中の「東寺展」で展示されている、講堂内の菩薩、明王、如来の中には平安時代の仏像も多く含まれています。それらは火災の中を命がけで運び出されるなどして守られたために、今私たちが見ることができているのです。

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東寺講堂。空海が東寺を賜ってから建てたお堂。

それから、現在講堂の仏像群、すなわち立体曼荼羅は誰でも自由に拝観することができますが、一般公開がされるようになったのは1965年のことで、それ以前には秘仏でした。

「公開されるようになってから今日までに、たくさんの方がここを訪れました。湯川秀樹さん、梅原猛さん、立松和平さん、松本清張さん……。弘法大師いわく曼荼羅は宇宙の真理であると言われたが、皆さん、ここを訪れて本物とは何か、真理とは何かと向き合う時間を持たれたのではないでしょうか」

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東寺の砂原秀輝執事長。講堂の大日如来の前で話を伺った。

綜芸種智院跡

最後に、東寺から東に数分歩いたところにある綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)跡に寄りました。ここは空海が828年に設立した私立学校の跡地です。
驚くべきはこの学校が、儒教、道教、仏教、また医学、土木も含め幅広い分野で、しかも身分に関係なく庶民にも教育の門戸を開いていた点です。その背景には空海が長安で目にした、広く人々が教育を受けることができ、その結果優秀な人材が育っていく教育環境があったと言われています。

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綜芸種智院跡の石碑が西福寺(浄土宗)の前に建てられている。

神護寺はハイキングがてら出かけるのも楽しい場所。一方、東寺は京都駅からすぐの立地で気軽に立ち寄れるところは良さのひとつでしょう。東寺には、毎日朝6時から行われている弘法大師へお食事をお供えする法要、「生身供(しょうじんく)」に誰でも参加できたり、番組で紹介した、毎年1月に行われる真言宗の最高儀式「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」も最終日の14日に行くと儀式を終えた直後の空間に特別に入ることができたり、体験の余地が多くあります。真理とは何か。自分なりの向き合い方で、空海ゆかりのスポットを訪ねて時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。 

展覧会情報

現在、東京国立博物館平成館(上野)では特別展「国宝 東寺−空海と仏像曼荼羅」が開催中です。6月2日まで。

インフォメーション

◎神護寺
京都府京都市右京区梅ヶ畑高雄町5
拝観時間 午前9時〜午後4時
JRバス高雄・京北線「山城高雄」下車徒歩約20分
市バス8系統「高雄」下車徒歩約20分

◎神泉苑
京都府京都市中京区御池通神泉苑町東入る門前町167
拝観時間 午前8時30分~午後8時(庭園)
市バス15系統「神泉苑前」下車すぐ
JR「二条」駅から徒歩10分

◎真言宗総本山 教王護国寺(東寺)
京都府京都市南区九条町1
開門時間 午前5時〜午後5時
拝観時間 金堂、講堂=午前8時〜午後5時(午後4時30分 受付終了)/宝物館、観智院=午前9時〜午後5時(午後4時30分 受付終了)
JR京都駅(八条口)下車徒歩15分
近鉄・京阪「東寺」駅下車徒歩10分
市バス18、42、71、207系統「東寺東門前」下車すぐ
市バス19、78系統「東寺南門前」下車すぐ

◎綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)跡
京都府京都市南区西九条池ノ内町
市バス18、42、71、207系統「東寺東門前」下車徒歩10分