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2018年11月25日 / 旅の紹介 第81回 にほん 美の地図 ―熊本―

今回の「出かけよう、日美旅」は11/25放送「にほん 美の地図」と連動して、旅の案内をお届けします。熊本への美の旅に、ご一緒しましょう。

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熊本県阿蘇郡小国町に行く途中に立ち寄った、阿蘇山の見晴らしが素晴らしい「大観峰(だいかんぼう)」にて、番組司会の小野正嗣さん。

熊本市内・宮本武蔵ゆかりの地へ

2016年4月16日に起きた熊本地震から2年半。熊本城は修復作業が続く毎日ですが、大天守には鯱(しゃちほこ)が再び乗り、上層部分の外装が完成。足場もなくなりました。日々変化する熊本城の様子を体感してもらおうと、「復興見学ルート」も組まれています。

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修復作業が続く熊本城。大天守は上層部の足場が取れ、鯱も復活していた。

宮本武蔵関連の貴重な品が常設されていることで知られる島田美術館へは、熊本駅からタクシーで10分ほど。武蔵の肖像画、彼が描いた水墨画、刀などのほか、熊本関連の歴史資料や古美術など計700点近くの所蔵品があります。場所は閑静な住宅街の中、美術館に面した庭には古木が自然なたたずまいで残り、落ち着いて過ごせることも魅力の美術館です。

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宮本武蔵関連の古美術や資料のコレクションが充実している島田美術館(熊本市西区)。1977年開館。

敷地内にあるカフェもゆったりとした雰囲気。その居心地の良さからたびたび足を運ぶ地元の方も多い様子でした。

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島田美術館に併設されたカフェ。薪ストーブがある。

武蔵が62歳(諸説あり)で没するまでの5年を過ごした熊本市内には、このほかにも武蔵にまつわる史跡がいくつもあります。たとえば、熊本城と並ぶ観光スポットとして知られる日本庭園、水前寺成趣園(すいぜんじじょうじゅえん)の中には、宮本武蔵を招いた肥後藩主・細川忠利の像があります。番組にも登場した、剣の奥義をまとめた兵法書『五輪の書』執筆のために武蔵がこもったと伝えられる洞窟・霊巌洞(れいがんどう)は車で中心市街から30分程度、雲巌禅寺(うんがんぜんじ)の裏山にあります。

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水前寺成趣園にて。宮本武蔵を熊本の地に招いた肥後藩主・細川忠利の像(右)。

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◎島田美術館
熊本県熊本市西区島崎4-5-28
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 火曜(祝日の場合は開館)・年末年始
アクセス 都市バス「慈恵病院前」下車徒歩約3分、または「城西校北」下車徒歩約2分

◎水前寺成趣園
熊本県熊本市中央区水前寺公園8-1
開園時間 3~10月:午前7時30分~午後6時(入園は午後5時30分まで)/11~2月:午前8時30分~午後5時(入園は午後4時30分まで)
アクセス 市電「水前寺公園」下車徒歩約4分

◎霊巌洞(雲巌禅寺)
熊本県熊本市西区松尾町平山589
開門時間 午前8時〜午後5時
アクセス 産交バス「岩戸観音入口」下車徒歩約20分

坂本善三ゆかりの地、小国町へ

グレーと黒を主体にした独自の抽象画で知られる画家・坂本善三(1911 -1987)の美術館がある熊本県阿蘇郡小国町(おぐにまち)。坂本善三の生まれ故郷でもあるこの町は、熊本中心市街から車で約1時間半。熊本駅から国道57号線で東へ、その後、国道212号線へ入り北上。すると、番組でも登場した「大観峰(だいかんぼう)」に着きます。大変素晴らしい阿蘇山の眺望が得られ、立ち寄りスポットとしておすすめです。

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大観峰から阿蘇山を望む。

そこからさらに212号線をずっと走ると、熊本県最北の町・小国町に到着します。坂本善三美術館は1995年開館、遺族からの作品寄贈をきっかけにオープンした町立美術館で、坂本善三の作品を含む約1300点の作品を収蔵。いつ来館しても新しい善三に会えるようにと、頻繁に展示替えが行われています。

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築150年近くの古民家を移築してつくられた坂本善三美術館。こちらの庭では、一年に2度、「zenzoアートフリマ」というイベントが行われている。

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展示空間は畳敷き。自由な姿勢で作品と時間を過ごすことができる。

館内展示室はすべて畳敷き。畳に腰を降ろし、くつろいで作品を鑑賞することができます。

企画展やワークショップを毎月のように開催。また4月と10月の年2回、美術館の前庭で「zenzoアートフリマ」というイベントが行われており、多様な人々が出店。美術作品から農作物までが並びます。 

坂本善三の抽象画は、小国町の自然や風土からインスピレーションを得ているものも多いと言われています。美術館の隣にある神社、鉾納社(ほこのみや)の御幣(ごへい)※が番組で登場しましたが、そうしたものからもヒントを得ていたとか。

※御幣(ごへい)……神道の祭祀で用いられる用具のひとつで、細長く切った紙を木にはさんで垂らしたもの。

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小国町町役場の近くにある湧水スポット、けやき水源。透明な水をのぞくと、たくさんの小魚が列をつくるように泳いでいるのが見える。

小国町役場の近くにある「けやき水源」。名前の通り、大きなけやきの足元に、阿蘇溶岩からの湧水がたまっています。大変澄んで透明な水の中にたくさんの小魚の列が見えますが、そうしたものも坂本善三の絵のモチーフになったと言われています。事実、作家の手記にも次のように書かれています。「目をつぶれば私にはまぶたの裏をさかなの列が泳いで通るさまが写ったものである」(1915年頃 『私の記録』より)

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坂本善三美術館の隣に位置する神社・鉾納社(ほこのみや)。推定樹齢700年と言われる夫婦杉がある。

鉾納社(ほこのうみや)には、樹齢700年を越す巨大な夫婦杉や、高さ40センチほどのミニ鳥居といった見どころもあります。鳥居の下をくぐれたら願いがかなうとのこと。
他、小国町で有名な観光スポットと言えば、美術館から車で10分程度、北に行ったところにある鍋ヶ滝(なべがたき)。こちらは“水のカーテン”とも称される見ごたえのある滝で、滝の裏に回ることもできる人気のスポットです。

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◎坂本善三美術館
熊本県阿蘇郡小国町黒渕2877
開館時間 午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜(祝日の場合は火曜)
アクセス 国道57号線を阿蘇方面へ。阿蘇市から国道212号線で小国町へ。約1時間30分

◎鉾納社
熊本県阿蘇郡小国町黒渕
※坂本善三美術館隣り

◎けやき水源
熊本県阿蘇郡小国町宮原
※坂本善三美術館から車で約10分

◎鍋ヶ滝
熊本県阿蘇郡小国町黒渕
開園時間 午前9時~午後5時(入園は午後4時30分まで)
休園日 年末年始
※坂本善三美術館から車で約5分

アートによるまちづくり 津奈木町へ

小国町は熊本県の最北にある山あいの町ですが、打って変わって津奈木町(つなぎまち)は熊本県最南に位置する水俣市の北隣りにある海沿いの町です。1984年に「緑と彫刻のあるまち」を掲げて以来、もう30年以上にわたってアートによるまちづくりを続けています。 

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海にせり出すかたちで建てられている旧・赤崎小学校。アート・プロジェクト「赤崎水曜日郵便局」の舞台にもなった。

最近では、「自分の水曜日の出来事を書いて送ると見知らぬ誰かの水曜日の手紙が届く」というちょっと変わった仕組みによるアート・プロジェクト「赤崎水曜日郵便局」を津奈木町の廃校で行ったり(2013-2016年)。現代アーティストの西野達さんがアート作品として海に浮かぶホテルをつくったり(2017年)。同じく現代アーティストの淺井裕介さんが横断歩道の白線の素材を使って町のさまざまな場所の地面に絵を描くプロジェクトを実施したり(2014-2017年)。これらを目当てに他県からも人が訪れています。

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海沿いを走る肥薩おれんじ鉄道、車窓からの風景。

そんな津奈木町へ、番組では肥薩おれんじ鉄道という一両編成のローカル線で訪れました。リアス式の美しい海岸線が続く中を走る電車で、西に向いた車窓から眺めると真っ青な海が広がっていました。

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つなぎ美術館。町で行われるアートも美術館が中心となって企画・運営している。2001年開館。

この町で行われているさまざまなアート・プロジェクトの運営において中心的な役割を担っているのが津奈木町立の「つなぎ美術館」です。館内では展覧会や、一般参加型のアートワークショップが定期的に催され、また過去にアーティスト・イン・レジデンス※で滞在した作家たちが制作した作品なども展示されています。

※アーティスト・イン・レジデンス……芸術活動を行う作家を一定期間その土地に招へいし、滞在・生活しながら作品制作をしてもらうこと。期間中、地元民との交流事業に積極的に参加する場合も少なくない。

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林の木に仏像が彫られている、アーティスト・西野達の作品「達仏」。全部で33体。

現在、津奈木町でアートな旅をするなら、以下のようなスポットを巡ることができます。まず、津奈木町役場北側一帯に設置された西野達さんの「達仏」。林の生木に33体の仏像を彫ったアートです。それから、津奈木駅のホームなど、淺井裕介さんの“地上絵”の作品が見られる場所が町内に複数箇所あります。これは、一般の人たちと一緒に作り上げたものです。

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アーティスト・淺井裕介と町内外からの参加者が一緒につくり上げた路面のアート。こちらは津奈木駅のホームに描かれたもの。

それから「赤崎水曜日郵便局」の舞台となった旧赤崎小学校。児童減少が理由で閉校となり、現在中には入ることはできませんが、海の上に浮かんでいるように見えるこの建物を対岸から眺めるだけでも風情があります。そして現在、旧平国小学校(やはり現在は閉校)では富田直樹さんがアーティスト・イン・レジデンス中。なんと、この学校は牡蠣(かき)シーズンの土日は津奈木町の漁協が運営する牡蠣小屋として使われていて、海を見ながら牡蠣をはじめ海鮮類が食べられます。

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つなぎ美術館から出ているゴンドラのようなモノレールで、奇岩がつらなる山の展望所へ。乗り心地は穏やかだが実はかなりの急勾配。

もうひとつおすすめなのは、つなぎ美術館に隣接しているモノレールです。美術館でチケットを買ってゴンドラのようなかわいらしいモノレールに乗るのですが、最高勾配は33度もあり、実は日本で2番目に急勾配なモノレールだそうです。ごつごつとした奇岩が周りを囲む中をゴトゴト進みますが、ちょっとしたスリルがあります。モノレールを降りた後の、展望所からの眺めは絶景です。

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モノレールで上がった展望所から海の方に向かった眺望。

また、津奈木の海は西に面しているため、美しい夕暮れが望める海沿いのスポットも充実しています。美を味わいに初めての土地へ。新たな熊本を探して、ぜひお出かけになってください。

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津奈木町役場の近くの海岸から夕日を眺める。

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◎つなぎ美術館
熊本県葦北郡津奈木町岩城494
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 水曜(祝日の場合は木曜)・年末年始
アクセス 肥薩おれんじ鉄道「津奈木」駅下車徒歩約10分

※施設改修工事に伴い、平成30年12月中旬から平成31年2月上旬までモノレールは運休となります。美術館は通常通りご利用いただけます。詳細は美術館ホームページをご覧ください。

◎達仏
熊本県葦北郡津奈木町役場付近
アクセス 肥薩おれんじ鉄道「津奈木」駅下車徒歩約20分

◎つなぎの根っこ(淺井裕介の地上絵)
熊本県葦北郡津奈木町(「津奈木」駅ホーム、周辺道路、旧赤崎小学校など)
アクセス 肥薩おれんじ鉄道「津奈木」駅下車

◎旧赤崎小学校
熊本県葦北郡津奈木町福浜165
アクセス 肥薩おれんじ鉄道「津奈木」駅から車で約12分

◎旧平国小学校
熊本県葦北郡津奈木町福浜3503
アクセス 肥薩おれんじ鉄道「津奈木」駅から車で約20分
※「つなぎオイスターバル」は1月5日からおおよそ3月末まで(牡蠣がなくなるまで)、土曜・日曜の午前10時〜午後4時に営業。