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2017年10月29日 / 旅の紹介 第56回 太宰府へ 文化交流拠点を感じる旅

九州国立博物館がある太宰府は、1300年も昔より大陸との交流の拠点となってきました。文化の交流・発信の拠点という視点から現在の太宰府の町を旅します。

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福岡県太宰府市にある九州国立博物館。設計は菊竹清訓氏。

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2005年10月、東京、京都、奈良に次ぐ4番目の国立博物館として福岡県太宰府市にオープンした九州国立博物館。初めて訪れた方はそのアクセス・ルートに少なからず驚くでしょう。最寄りの西鉄「太宰府」駅を降りた後、太宰府天満宮の参道を進んでそのまま境内に入り、その先にある、異世界へと向かうかのような虹色に光るトンネルを通りぬけてようやく到着する……。いにしえより続く太宰府天満宮からいきなり違う時空にワープしたかのような感覚に襲われます。

九州国立博物館

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太宰府天満宮に接して九州国立博物館への入り口があるが、ここからは博物館の姿はまだ見えない。

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太宰府天満宮で平安時代の雰囲気を味わったと思いきや、いきなりSF的なトンネルで博物館へ。 

九州国立博物館は開館より一貫して「文化交流」をテーマにした展示を行ってきました。番組で紹介した「大洪水図屏風」が出品されている企画展「新・桃山展-大航海時代の日本美術」でも、日本と海外の国々との文化交流の様子が、当時の政治や交易の状況と共に読み解かれており、美術好きはもちろん、歴史好きにもたまらない展覧会となっています。

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教科書などで見たことがある人も多いであろう「泰西王侯騎馬図屏風」。意外に大きく、2メートル以上の高さがある。

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「大洪水図屏風」。日本の屏風を真似てつくられているが、描かれているのは聖書のノアの箱舟の物語。かと思えば鳳凰(ほうおう)や麒麟(きりん)が登場していたりと、組み合わせが不思議。 

また本企画の展示の中核をなしているのが「屏風」ですが、この時代、外交上の贈り物として諸外国に輸出される機会が多かったそうです。外国向けに西洋風にアレンジされたもの、海外で人気を博した結果、日本から輸入すると高価だからと現地で日本のものをまねてつくられた屏風……。交ざりあう文化の様相が興味深いです。 

また4階の「文化交流展示」フロアも文化のルーツをたどるのが好きな人には楽しい空間です。取材時には大分県国東半島(くにさきはんとう)に古くから存在する仏教文化「六郷満山(ろくごうまんざん)」の展示が行われていました。

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4階の文化交流展示。  

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「大分県国東宇佐 六郷満山展〜神と仏と鬼の郷〜」より。「鬼大師坐像(国東市・文殊仙寺」。

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六郷満山の千燈寺で行われていた火祭り「修正鬼会」で使用された面。 

太宰府天満宮

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菅原道真公をまつる太宰府天満宮の境内は自然も豊か。大きなクスノキや梅林などの樹木や池など。

九州国立博物館が太宰府に開設されるに至った経緯は、それ自体が歴史的な出来事でした。地域の人たちの100年を超える思いがそこにはあり、その中心に居たのが太宰府天満宮です。さかのぼること1873〜75年に太宰府天満宮の境内を使い社宝や民間の工芸品などを見せる「太宰府博覧会」という催しが行われました。その直後から九州地方における博物館の必要性を訴え、1893年に政府から許可が下りながら戦争の関係で実現しませんでした。これが124年前のこと。その後昭和の始めに再び議院で建設が可決。しかしまたも戦争で実現せず。更に1966年にも内閣決定されるも当時の政治状況により三度白紙に。

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太宰府天満宮の御本殿。桃山時代初期の建築。

もう諦めた方が良いのか……。地元財界は意気消沈し、文字通り風前の灯火と化しましたが、当時の太宰府天満宮宮司が「火を消してはいけない」と主張。そして、太宰府天満宮は所有する土地15万坪のうち5万坪を博物館建設用地にと自治体へ寄贈しました。また地元では市民と共に「国立博物館を誘致する会」が結成され10万人以上の会員を集めることに成功。結果、1996年に正式に博物館建設が政府で決定され、ついに2005年、九州国立博物館が誕生しました。
そうした思いに基づく九州国立博物館は地域に根ざし愛されるミュージアムとなっています。

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奥に見えるのは太宰府天満宮が所蔵する美術工芸品を展示する「宝物殿」。手前に太宰府天満宮名物のひとつ「麒麟(きりん)」像が見える。

もうひとつ、太宰府天満宮では博物館がオープンした翌年の2006年より「太宰府天満宮アートプログラム」という、現代アートの展示企画を継続的に行っています。これまでに行った展覧会は日比野克彦、ライアン・ガンダー、サイモン・フジワラ、ホンマタカシなど。「太宰府天満宮がおまつりしている菅原道真公が文化・芸術の神様であるということが常に私たちの意識の根底にはあります。そして伝統を守るということは、100年後に歴史となる最先端のものを紹介することでもあると思っています」(太宰府天満宮アートプログラム担当学芸員の方のコメント)

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鳥居をくぐって右に進むと現れる「浮殿(うきどの)」。中を覗くと……。

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世界の第一線で活躍する現代アートの作家を紹介する「太宰府天満宮アートプログラム」第6回の招へいアーティスト、ライアン・ガンダーの作品が常設展示されている。

なおこのアートプログラム、基本的には期間限定なのですが、太宰府天満宮境内の建物「浮殿(うきどの)」にはライアン・ガンダーの作品が今も飾られています。

「ここは毎年9月の神幸式大祭の折には道真公のおみこしが滞留される場所になるので、そのときだけ作品は撤去されますが、その時期を除いて常設で展示するようにしています」

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太宰府天満宮の参道にて。菅原道真公に献上したという逸話から太宰府名物となった、梅ヶ枝餅。

大宰府政庁跡と大宰府展示館

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現在は史跡公園となっている大宰府政庁跡。

もともと太宰府の辺りが文化の交流拠点となったのは7世紀後半から奈良・平安時代にかけてこの地に置かれた役所、その名も「大宰府」の存在が元になっています。(※こちらは大宰府と言い、大を用います。現在の行政区分名および太宰府天満宮は太を用います)1968年から始まった本格的な発掘調査によって詳細が明らかになりました。現在は史跡公園として、地域の人々たちがウォーキングや犬の散歩をしたりと、日常的に利用されています。

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大宰府政庁跡を訪れたら隣接する「大宰府展示館」へもぜひ。

なお史跡公園の脇にある大宰府展示館では、発掘資料の展示が見られます。大宰府とはどんな場所だったのか、学芸員の方から教えてもらいました。 

朝廷からの命でつくられた大宰府の主な役割は「九州全域の統括」「大陸からの防衛」「大陸との外交・交易」の3つであったこと。大宰府を治める立場には相当な高官が選ばれたが、同時に中央政府から遠い場所にあるので、時に左遷先ともなったこと。その代表的な人物が菅原道真であり、赴任してからわずか2年ほどでこの地で亡くなったこと。そのなきがらを牛車に乗せて運んでいた道中、急に牛が動かなくなり、その場所を道真公の廟(びょう)としたのが今の太宰府天満宮の始まりであること、など。 

大宰府は九州を束ねる中心的な存在であり、大陸の最新文化が集まり、中央に伝える役目も担っていました。敷地は広大、平城京の1/4程もあり、その中には役人を養成する「学校院」などもあったということです。

2018年には「大宰府史跡発掘調査50周年」を迎えるということで、いろいろな催しが予定されているとのことです。

観世音寺(かんぜおんじ)

また「府の大寺」と呼ばれた巨大なお寺もありました。それが現在、大宰府政庁跡のすぐ東にある観世音寺(かんぜおんじ)です。巨大な伽藍(がらん)を持つ寺でしたが、今は大半が失われてしまっています。ただ、現在宝蔵殿に収められている平安〜鎌倉期作の仏像群は、かつてのこの寺の格をよく伝える素晴らしいものばかりです。また、日本最古とされる国宝のぼん鐘も境内にあります。   

また隣接する戒壇院ももともと観世音寺の一部でした。奈良時代、僧侶に戒律を授けるため中国より招へいした鑑真和上が東大寺内に戒壇を設立しましたが、都から遠い地方の者には赴くのが困難であるため、西は観世音寺に、東は栃木県の薬師寺にそれぞれ戒壇を設置、「天下の三戒壇」と呼ばれたのでした。九州地方の僧侶はみな観世音寺で受戒したと言いますから、その意味でも大宰府は拠点であったわけです。

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大宰府政庁跡から歩いてすぐのところにある観世音寺。

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観世音寺の宝蔵院。重要文化財の仏像が並ぶ。

宝満宮 竈門神社(ほうまんぐう かまどじんじゃ)

最後に、太宰府天満宮の北東にある、宝満宮 竈門神社(ほうまんぐう かまどじんじゃ)に立ち寄りました。大宰府政庁から見て鬼門を守る意味で、古くから祭祀(さいし)が行われてきた場所。太宰府天満宮より古く1350年の歴史があります。

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竈門神社のお庭に集まる子どもたち。

現在、この竈門神社は太宰府天満宮の宮司が兼務をしています。そして2013年には創祀1350年という節目を記念して新しい社務所が建てられました。手がけたのはインテリアデザイナーの片山正通氏。またデッキのベンチはプロダクトデザイナーのジャスパー・モリソンさんが手がけました。

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竈門神社の御社殿。

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片山正通氏が手がけた社務所の一部はお札お守り授与所になっている。ポルトガル産のピンク色の大理石を使用した壁面が印象的。

政庁の頃より1300年以上の歴史を持ち、外に開かれ文化の交流拠点であった太宰府。古きと新しきを結び、新たな文化的接続を見つける太宰府の旅、いかがですか? 

展覧会情報

◎太宰府・九州国立博物館で「新・桃山展―大航海時代の日本美術」が開催中です。11月26日(日)まで。

◎太宰府天満宮アートプログラム 11月26日(日)よりフランスの現代アーティスト、ピエール・ユイグの展示が太宰府天満宮内で行われます。(詳細は決まり次第、公式サイトに掲載されます)。

インフォメーション 

◎九州国立博物館
福岡県太宰府市石坂4-7-2
西鉄天神大牟田線「西鉄二日市」駅から、西鉄太宰府線に乗り換え「太宰府」駅下車、徒歩約10分
開館時間 日・火〜木 午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)/金・土 午前9時30分〜午後8時(入館は午後7時30分まで)

◎太宰府天満宮
福岡県太宰府市宰府4-7-1
西鉄天神大牟田線「西鉄二日市」駅から、西鉄太宰府線に乗り換え「太宰府」駅下車、徒歩約5分(九州国立博物館から徒歩約5分)
開門時刻 春分の日より秋分の日の前日まで 午前6時/秋分の日より春分の日の前日まで 午前6時30分
閉門時刻 4月・5月・9月・10月・11月 午後7時/6月・7月・8月 午後7時30分/12月・1月・2月・3月 午後6時30分

◎大宰府政庁跡/大宰府展示館
福岡県太宰府市観世音寺4-6-1
太宰府市コミュニティーバスまほろば号「大宰府政庁跡」下車すぐ
または西鉄「都府楼前」駅下車、徒歩15分
開館時間(大宰府展示館) 午前9時〜午後4時30分(月曜休館/月曜が祝日の場合は翌日休館)

◎観世音寺
福岡県太宰府市観世音寺5-6−1
太宰府市コミュニティーバスまほろば号「観世音寺前」下車すぐ
または西鉄「太宰府」駅下車、徒歩約20分、「西鉄五条」駅下車、徒歩約10分
開館時間(宝蔵) 午前9時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)

◎宝満宮 竈門神社
福岡県太宰府市内山883
太宰府市コミュニティーバスまほろば号「内山」下車すぐ
祈願受付 午前9時〜午後4時
お札お守り授与所 午前8時〜午後7時