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2017年8月27日 / 旅の紹介 第49回 東京で日本の家を巡る旅

「小さな家たちの冒険」の放送と関連し、日美旅でも日本の住宅の魅力を肌で感じてみたいと思います。

まずは、現在開催中の展覧会「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」の監修者のひとりでもあり番組にもご登場いただいた塚本由晴さんのご自宅を訪ねました。こちらは、塚本さんと、妻でやはり建築家・貝島桃代さんの住居であるのと同時に、ふたりが代表を務める建築設計事務所「アトリエ・ワン」のオフィスでもあります。

※今回の「出かけよう、日美旅」でご紹介する場所のうち一般の方が訪れることができるのは、「前川國男邸」のみです。ハウス&アトリエ・ワンは事務所兼個人の住居なので、この記事だけでお楽しみください。

ハウス&アトリエ・ワン

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奥に見えているのがアトリエ・ワンの事務所兼塚本さんの自宅。旗ざお地(※)に建っているため、外観全体は見えない。

やってきたのは新宿・四谷、都心です。教えられた住所の場所に行ったのですが、どこにあるかわかりません。見まわしていると、家と家の間にある細いすき間のような土地の奥に、オレンジ色をした3階建ての建物が見え隠れしているのに気が付きます。もしかして、ここ?

こちらのハウス&アトリエ・ワンが建てられたのは2005年。ちょうど東京の地価が下がり始めた頃だったということです。旗ざお地(※)という特殊な形状の土地であるために手の届く値段で土地を購入することができ、都心に家を建てることができました。それ自体が発見だったと言います。「小さかったり、特殊な形の土地をやりくりして設計することは仕事で慣れていたからそれほど難しくはありませんでした」   

※旗ざお地……公道に接道している部分が狭く細く、奥に行くと広い敷地になっている姿が竿にさした旗のように見える、特殊な形状の土地。

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8畳程度の屋上ではブドウが育てられている。なっているブドウをつまんで食べる塚本由晴さん。 

地上3階地下1階の戸建て。3階は夫婦のプライベート空間、1階と地下1階はアトリエ・ワンのスタッフが働く事務所空間。面白いのは、2階は夫婦にとってのLDKであるのと同時に、事務所の人たちが昼食を食べたり、外部の人が来て仕事の打ち合わせをする場所でもあるという、公私の交差する空間であるということです。

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住居部分である3階で身支度をして、打ち合わせに出かけるところの塚本さん。階段のところから顔を出して1階のスタッフに声をかけていったのが印象的だった。

「『家』というのは家族のためだけのものではないと思う」と塚本さん。

戦後、核家族化が進み、家は外と切り離された「内向き」なものになっていきました。けれども、塚本さんは家の中に家族以外の人が立ち入る場所があったり、縁側のような半分外の空間があってご近所さんや敷地に生えた木など隣り合うものとの関係性が感じられたり、そうしたものとして「家」を捉え直せたらと言います。

「何と共に生きているか」を感じられる家づくりをしていきたいと話されていたのが印象的でした。 

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2階のダイニング&リビングは夫婦の空間であり、事務所スタッフや客人を招き入れるスペースでもある。 

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2階から下を眺めたところ。1階・地下1階では事務所のスタッフが忙しく働いている。

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2階と3階の間にある踊り場は、AVルーム。ここで映画を見たり音楽を聴いたりする。

海外から日本の住宅建築がユニークだと注目されていることについても聞いてみました。 

「でも、たとえばこの家がデザインによる積極的な提案なのかと言われれば、難しいところです。詰まるところ『やりくり』なんじゃないかと。だって現実にこの2倍の広い敷地が手に入るなら、家と事務所を別々に建ててもいいという発想に立てるわけです。その点で言えば日本の住宅環境は海外のそれと比べて『貧しい』んだと思います。でも貧しい分、工夫する。結果、そこに他と違う価値が生まれているということは言えると思います」

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2階は、外と内。室内と庭。家族とそれ以外の人。いろいろな要素が交差しコミュニケーションする空間という印象。

江戸東京たてもの園内 「前川國男邸」

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花見の名所としても知られる小金井公園。ジョギングや散歩をする人も多く見かける。

次に東京・小金井市にある「江戸東京たてもの園」に向かいました。こちらは江戸から昭和中期にかけての歴史的建造物を移築・復元し、保存・展示する野外博物館です。国宝や重要文化財に指定されていないものでも、デザイン・住生活史を考える上で重要な役目を果たした住宅建築から暮らしの中で人々から愛された商店建築まで、広い視点から建物が選定され保存されています。一般公開されており、開園時間に家の中まで見学することができます。   

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小金井公園内にある江戸東京たてもの園。墨田区にある東京都江戸東京博物館の分館である。

そうした移築された復元建造物のひとつに前川國男が実際に暮らした邸宅があります。

前川國男は1920年代後半、フランスに行きル・コルビュジエの元で学び、帰国後、日本におけるモダニズム建築をリードした建築家でした。上野公園内にある「東京文化会館」や「東京都美術館」などが代表作としてよく知られています。またコルビュジエの建築作品として国立西洋美術館が昨年世界文化遺産に登録されましたが、コルビュジエの基本設計に基づき、坂倉準三、吉阪隆正とともに実施設計を手がけた3人の日本の弟子たちのひとりです。

戦前から戦後にかけての日本のモダニズム建築の第一人者として知られる前川國男ですが、自邸を建てたのは1942年。戦時下だったため、使って良い資材の種類も制限され、自由度を奪われていました。 

金属が使えなかったため、この家は木材のみ、しかも比較的安価な木材で作られています。真偽は不明ですが、南側中央の円柱は、電信柱に使われた木を再利用したというエピソードが伝えられています。  

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江戸から昭和にかけての貴重な建造物が30棟、移築・復元されている。その中のひとつが前川國男邸。

玄関から入ってすぐ広間がありますが、前川國男は居間と呼ばず「サロン」と呼んでいたと言います。それは家族の団らんの場所でもあるが、同時に知人との会合に使ったり仕事の空間としても使ったり、多様な場というイメージを持っていたからでした。また、結果的にですが、1945年には銀座にあった前川國男の設計事務所が東京大空襲で焼けてしまい、このサロンは突如として設計事務所になりました。

戦前、1942年に建てられた前川國男邸と、2005年に竣工したハウス&アトリエ・ワン。60年以上の時間が経過していますが、制限された状況の中での精一杯の工夫や、「家」というものの有り様の追求など、どこか通じる部分があるように感じました。

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特徴的なデザインの扉を開けると天井の高い広間「サロン」がある。

江戸東京たてもの園の研究員・米山勇さんにこの建築の細部についてもいろいろ教えてもらいました。

「ひとつひとつのデザインに細やかな意図があったようです。たとえば、建物の真ん中の円柱ですが、担当した所員の崎谷小三郎さんが『伊勢神宮の棟持柱を模した』とおっしゃっていますが、それだけでなく、やはり前川さん自身のコルビュジエゆずりの冒険心が大きくあったと思われます。伝統的には建造物の真ん中に柱は来ない。たとえばギリシャ神殿を見ても柱は偶数本で真ん中に柱はありません。けれどもそうした様式を否定したのがコルビュジエです。たとえばコルビュジエの代表作のひとつ、サヴォア邸では、ひとつの面に対して柱が奇数本、つまり真ん中に柱が来ています」

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格子状になった大きな窓から差し込む光が室内につくる模様も目に心地いい。

他にも、雨戸をしまう戸袋部分にはちょう番がついていて回転する仕掛けがあり、建物全体の美観を損ねないようにしていること。遠近法を意識してサロンの奥に置かれたテーブルは手前の方が細くなっていること。サロン入り口にある独特のデザインをした大扉は、コルビュジエの事務所にいたデザイナー、シャルロット・ペリアンのつくる形からヒントを得ているという話など、いろいろ教えてもらいました。 

やはり説明をしてもらいながら見るとより興味が湧きます。普段、江戸東京たてもの園にはいくつかの建物にボランティアのガイドさんがいるので、いろいろ尋ねてみると良いでしょう。

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外に見えるのは雨戸を入れる戸袋。ちょう番がついており、雨戸を入れた後、戸袋をくるりと回転させ壁面に格納することができる。

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戦時下に建てられた家でありながら、キッチンやバスルームは完全に洋風で驚く。

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建物の中央に大きな柱が通されている。それまでの建物の常識を覆したル・コルビュジエのスタイルに通ずる。

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1942年につくられた建物でありながら中2階のロフト付き。2階の棚は収納でありつつ、見せる飾り棚にもなっている。

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江戸東京たてもの園には無名だが人々の思い出に残る地域の商店建築なども保存されている。

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展示室では特別展「世界遺産登録記念 ル・コルビュジエと前川國男」が開催中。前川國男邸の設計図面も見られる。9月10日まで。

今回はつくられた時代も社会状況も違う2つの日本の「家」を訪ねました。住宅は、暮らしが営まれる場所であるゆえ、内部空間の細かなところにまで建築家の繊細な仕掛けや冒険心が込められています。自分の暮らす家や、街中で見かける小さな家たちに目を投じて、日本の家の形というものを、もう一度考えてみてはいかがでしょうか?

展覧会情報

東京/竹橋・東京国立近代美術館では「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展が10月29日まで開催中です。

東京/小金井市・江戸東京たてもの園では「世界遺産登録記念 ル・コルビュジエと前川國男」展が9月10日まで開催中です。  

インフォメーション

◎東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間 午前10時〜午後5時(「日本の家」展開催期間中、金・土は午後9時まで開館)
休館日 月曜(祝日の場合は開館)、展示替期間、年末年始
東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分

◎江戸東京たてもの園
東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
JR中央線「武蔵小金井」駅北口バス停 2番/3番のりば(西武バス)より「小金井公園西口」下車徒歩5分
または西武新宿線「花小金井」駅南口から徒歩5分、バス邸「南花小金井」のりば(西武バス)より「小金井公園西口」下車徒歩5分
休園日:月曜(月曜日が祝日または振替休日の場合は、その翌日)、年末年始
開園時間:4月~9月:午前9時30分~午後5時30分/10月~3月:午前9時30分~午後4時30分 ※入園は閉園時刻の30分前までとなります。