第46回 「しょうぶ学園」と鹿児島を楽しむ旅
放送で紹介された「しょうぶ学園」。県外からの訪問も多いこの施設、鹿児島空港からまずこちらに立ち寄り、その後鹿児島の中心市街へ、という人も少なくありません。というわけで、「しょうぶ学園」から始まる鹿児島の旅に行ってきました!
「しょうぶ学園」内にある交流スペース。利用者の他、地域の人たちも使うことができる。園内はいろんな種類の木が生え、緑がいっぱい。
番組内で登場したヌイ・プロジェクトや、民族楽器を使ったパーカッショングループ「otto & orabu」の活動を展覧会やライブで見て、学園の名を知っていたという人もいるかもしれません。
鹿児島市北部の郊外にあるしょうぶ学園は障害者支援センターですが、門扉もなく近隣の人たちも自由に入って公園のように散歩しています。入り口をくぐるとそば屋・パン工房・レストランをはじめ、ツリーハウス、学園の工房でつくられた作品が見られるギャラリーやショップがあり、これらは誰でも見たり利用できます。また森のように緑があふれており、気持ちのよい木陰が至るところにあります。施設の利用者が工房で制作に励むかたわら、外から訪れた人がコーヒーを飲んで休んでいたり、近所の子どもたちが園内で飼われているロバや羊と遊んだり。心地よい時間が流れています。
施設内にはレストランやギャラリーもあり、いつでも来て過ごすことができる。
はじめてのしょうぶ学園
訪れて驚くのは園内で出会うモノがことごとく利用者と職員の手によってつくられていることです。たとえばそば屋。そばは手打ちで、職員が一から打ち方を覚えたそう。柿渋が塗られていい味を出しているお店のメニューは紙の工房、お盆は木の工房、器は土の工房がそれぞれ手がけています。その他にも一枚板のカウンターや、店内に掛かる絵画、箸袋ひとつとってもそうです。そして……そばが美味い!
手前がそば屋「凡太(ぼんた)」。入り口の横には、園の畑で収穫した野菜を販売するスタンドもある。
お盆、そばちょこ、箸袋、漆器、スプーン。いずれもしょうぶ学園の工房でつくられたもの。
しょうぶ学園は知的障害のある人を支援する施設で、今年創立44年目を迎えます。現在、入所されている方や自宅・グループホームから通園する方も含め、130名近くの利用者がいます。一方、職員は90数名に上っています。
土の工房の向かいには手作りパンの店「ポンピ堂」が。
生パスタがおいしいパスタ&カフェ「Otafuku」。ここでの食事を楽しみに来る訪問者も多い。
布の工房。通称“モグラ・ハウス”。
工房は、「土」、「木」、「布」、「紙と造形」の4つがあります。そこでつくられたモノたちには、前述のとおり、園内のさまざまな場所で出会えます。
土の工房。陶のボタン、食器からオブジェまでをつくっている。
しょうぶ学園の作品を展示するギャラリースペース。定期的に展覧会を行う。
園内にあるショップでは、それぞれの工房で手がけた作品が並んでいる。どれも一点ものだ。
施設長の福森さんにお話を聞きました。
「最初は、『言われた通りにモノをつくる』ことが前提の、下請け仕事を工房で行っていたのです。でも、世の中の規範に合わせるということが不得手の彼らにそれをさせようとしても仕方がないなと。一方で、その人ごとに備わっている才能がとてもかっこいいとある時期から思い出し、彼らに全面的に任せてしまう自由な制作スタイルを展開し始めたのです。
特別な技は要らない。ひとりひとりのこだわりが予測をはるかに超えて面白い。周りが言う良し悪しからは解き放たれて、実に自由なんです。むしろその自由な表現に感心するんですよね。
またしょうぶ学園では打楽器と叫びを組み合わせたパーカッショングループ『otto & orabu』のライブ活動も行っています。これは、彼らの演奏がズレるというところから始まっています。ズレが得意なら、そこから始まる曲や演奏ってないのかと。彼らの出すズレたリズムに、職員たちの出す音が入っていく行為は刺激的。すごく集中しないといけないので、ライブが終わるとドッと疲れますけどね(笑)」
木の工房にて。丸太に直接ノミで彫って顔をつくっている記富久さんの作品。
こちらは米山宜秀さんの作品。人それぞれに作風がはっきりあって面白い。
彫刻作品から漆器の器まで、さまざまなものが制作されている。
土の工房にて。陶板に次々に絵を描く鵜木二三子さんの作品。
床、壁、机……、あらゆる場所が絵画空間に。
布の工房にて。一枚のシャツができあがるのに数年が掛かることも。
(左)施設長の福森 伸さん。(右)布の工房担当の内村佳代子さん。
ものすごい密度の刺繍で画面が埋まっていく、大田智子さんの作品。
丸太から彫刻をつくっている記富久さんは、otto & orabuのメンバーでもある。
そば屋「凡太」でそば打ちをする職員の右田絵梨子さんもまたotto & orabuのメンバー。
壁から床までキャンバスにして描く、濱田幹雄さん。
園内のロバや羊はしょうぶ学園のアイドル。
ツリーハウス。この上で食事やお茶をすることもできる。
今年はほぼ毎月ライブがある「otto & orabu」。8月には鹿児島南九州市の野外フェスティバル「グッドネイバーズ・ジャンボリー」にも参加予定だ。(写真提供=しょうぶ学園)
週末には家族連れが訪れることも多く、デートでやってくるカップルもいるそうです。入り口をくぐったところから空気感が違い、時間を忘れていつまでも居てしまいそうな、特別な場所でした。
鹿児島県立吉野公園
吉野公園の入り口から桜島がドーンと見える。
しょうぶ学園のある鹿児島市吉野町は近所に桜島がきれいに見えるスポットにも恵まれています。まず車で10分のところにある鹿児島県立吉野公園。入り口から桜島の悠然たる山影がお出迎え。そちらにまっすぐ進めば、鹿児島湾に面した絶景の展望台に着けます!
また吉野公園は、四季折々、園内に咲きほこる花がきれいな公園でもあります。訪問時は、新緑が美しい上に、ツツジやしょうぶの鮮やかな色彩が相まって華やかでした。南国ならでは、ニョキニョキとしたソテツも見ていて楽しい。広々として、家族でおべんとうを食べながらピクニックしても気持ちがいいでしょう。
吉野公園の湾岸展望台からは桜島の大パノラマ!
仙巌園
吉野公園から中心市街地に向かう途中には、西郷隆盛や大久保利通など幕末の英雄を見出し育てたことで知られる薩摩藩の賢君・島津斉彬(なりあきら)の面影を感じられる「仙巌園(せんがんえん)」があります。島津家別邸及び、強く豊かな国づくりを目指し国内でも早い時期につくられた近代の工場群の跡があります。
島津別邸前の庭から桜島を眺める。鹿児島湾に浮かぶ桜島が、島津家の庭の池や山に見立てられている。
かつて島津公はこの別邸から眺める鹿児島湾と桜島をあたかも自分の庭の一部のように見立てて楽しんだそうです。日本庭園と、桜島を組み合わせた眺め、吉野公園からのそれとまたひと味違う桜島ビューです。工場跡をはじめとして、この一帯は、2015年、「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産に登録されました。島津斉彬は先見の明にすぐれ、今で言う「イノベーター(革新者)」だったのでしょう。「しょうぶ学園」の斬新な取り組みを見た後で訪れると、時代も分野も違いますが、どこか開拓者精神という点では通ずるものがあるように感じました。
NHK大河ドラマ「篤姫」で知られる天璋院(てんしょういん)は島津斉彬の養女。仙巌園は篤姫ゆかりの場所でもある。
森の中のミュージアム&ガーデンを訪れる感覚で「しょうぶ学園」でひとときを過ごし、また鹿児島の雄大な自然に抱かれる旅、いかがでしょうか。
なお、しょうぶ学園の後、鹿児島県立の野外美術館「霧島アートの森」を訪れるというコースもおすすめ。あるいは、8月19日に南九州市で開催される大規模な野外フェスティバル「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を訪れるその行き帰りに、学園に寄っていくというプランも良いのではないでしょうか。
住所/アクセス
◎しょうぶ学園
鹿児島県鹿児島市吉野町5066
(公共交通機関を利用の場合)
・鹿児島空港より
鹿児島空港より空港リムジンバス利用。鹿児島市内方面、「吉野(早馬)」バス停下車。南国バス「中別府団地行き・宮之浦団地」行きに乗り換え、「菖蒲谷」バス停で下車。徒歩1分。
・JR鹿児島中央駅より
鹿児島中央駅・天文館方面から南国バス利用。吉野方面、
「中別府団地・宮之浦団地」行きに乗車、「菖蒲谷」バス停下車すぐ。
※車で来る場合、園内に駐車場があります。
ギャラリー、ショップは、午前10時〜午後5時。レストランは午前11時〜午後5時。パン工房は午前11時〜午後4時。そば屋は午前11時〜午後3時。いずれも月・火は定休日。
◎鹿児島県立吉野公園
鹿児島県鹿児島市吉野町7955
南国バス吉野方面「吉野方面ゴルフ場」「吉野公園」行き、「吉野公園」バス停下車すぐ。
月ごとに開園時間が変更しますのでご確認下さい。(吉野公園管理事務所TEL 099-243-0155)
◎仙巌園
鹿児島県鹿児島市吉野町9700-1
各社バス(カゴシマシティビュー、まち巡りバス、南国バス他)「仙巌園前」下車すぐ
開園時間 午前8時半〜午後5時半