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2017年4月30日 / 旅の紹介 第42回 京都・兵庫へ 広重「六十余州名所図会」をたどる旅

「東海道五十三次」で知られる浮世絵師・歌川広重。
それまで役者絵や美人画が主流であった浮世絵の世界に、風景画という新たな分野を確立させるきっかけをつくりました。
そして晩年、日本全国の名所を描いた「六十余州名所図会」が登場します。
この一連の作品に描かれた場所を旅します。

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日本三景のひとつ、天橋立。天橋立は龍にも例えられる。

江戸時代には街道整備がされ、また天下太平の世が続いたことで、一般の人々にも旅を楽しむということが身近になっていきました。

通俗小説『東海道中膝栗毛』が空前の大ヒット。その主人公の弥次・喜多が見たであろう東海道の景色を描いた広重の「東海道五十三次」も人気を博しました。
旅ブームはますます高まり全国の旅情報も求められる中、刊行されたのが「六十余州名所図会」でした。六十余州というのは当時で言うところの「日本全国」の意。東北から九州まで、江戸と共に当時の国ごとに1か所の名所が選ばれて描かれています。

国ごとに1か所が厳選されているだけに、それがどんな場所なのか江戸の人ならずとも気になるところ。現代の私たちにとっても楽しい旅になるのではと、早速出かけてみました。 

京都府宮津市「天橋立」へ

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「六十余州名所図会 丹後 天の橋立」 1853年 中外産業株式会社(原安三郎コレクション)蔵

まず向かったのは京都府の北部、「天橋立」。言わずと知れた日本三景のひとつ。「六十余州名所図会」には「丹後」の名所絵として登場します。

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天橋立をふかんしたければ「天橋立ビューランド」がおすすめ。

もともと天橋立は東からの海流と西からの海流がぶつかり砂が堆積してできた砂州で、約2000年前には既に現在に近い形状だったようです。天橋立という名前は、イザナギノミコトが自分の住む天上とイザナミノミコトの住む地上を行き来するためにはしごをかけたが、うっかり倒れて天橋立になったという話がもとになっていると言います。

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天橋立の南にある智恩寺。日本三大文殊のひとつとされている。 

古来、旅の目的の大きなひとつは参詣でした。たとえば室町時代、雪舟が描いた水墨画の天橋立図は3か所だけ朱で塗られています。天橋立の南にある「智恩寺」と、渡った先、北側にある「元伊勢 籠神社(もといせ このじんじゃ)」と「成相寺(なりあいじ)」。これらに詣でるのが定番であったようです。江戸時代も、こうした参詣が中心だったことでしょう。 

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天橋立の北にある元伊勢 籠神社。 

実際に行ってみると、天橋立は非常に気持ちの良い自然公園という感じです。サイクリングスポットとしてもおすすめです。広重の絵が描かれた江戸時代には渡し舟がないと天橋立の南端に上陸できなかったそうですが、現在は橋が架かっており、レンタサイクルで20分程度で渡れます。
また地元の人からすればウォーキングやランニングの良いコースでもあるでしょう。海の水がとても透明できれいで夏になると海水浴場にもなるそうです。フィッシングの楽しみもあります。もう少ししたらキスがよく釣れると地元の方がおっしゃっていました。

吹き抜ける風が気持ちよく、春夏は特に心地よい。展望スポットに上って景色を眺めるのも、風景の抜けが良く最高です!

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天橋立は美しいビーチでもある。夏になれば海水浴場に。

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松原の中を自転車で走るのが気持ち良い。

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行きは自転車で天橋立を渡り、帰りは船で戻ることもできる。

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「天橋立ビューランド」より。ここは現在は展望台兼遊園地だが、江戸時代には山越えをして天橋立に向かう人たちの休憩地であった。

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下りのリフトから眺める天橋立も絶景。

兵庫県丹波市「鬼の架け橋」へ

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「六十余州名所図会 丹波 鐘坂」 1853年 中外産業株式会社(原安三郎コレクション)蔵

続いてお隣りの兵庫県へ。広重が「丹波」の名所として選んだのは、丹波市にある金山(きんざん)という山の景色です。

その絵の中に描かれ、今も残っているという「鬼の架け橋」を探しに行きました。

いわゆる観光スポットではないので、探すのにも少し苦労しました。鐘ヶ坂バイパス(国道176号)沿いに車で走っていると、見落としそうな標識で「金山登山口はこちら」と目印が。 

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鐘ヶ坂バイパスから脇道に入ったところにある神社の入り口が登山口になっている。

金山のふもとにある「追入(おいれ)神社」もしくは「大乗寺」の脇の登山口から上がっていけるようになっています。里山ハイキングといった感じで40分程度で山頂に着けます。特別な装備は要らず軽装で大丈夫ですが、もちろん足元には気をつけて。雨の翌日などは結構足元がゆるむと思われます。悪天候時は避けた方が賢明です。

多くの人がハイキングしているわけではなく、道中人気があまりないので、なるべく複数人で登る方が安心です。鬼の架け橋までは案内板が続いています。 

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途中の目印となった寂れた鳥居。
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登山途中の景色。

正直、登っている最中はなぜ他ではなくこの場所を選んだのだろう?と頭をひねりました。しかし、いざたどり着いてみれば、天橋立にも引けをとらない感動がありました。鬼の架け橋の向こうに広がる山あいの景色が絶景!

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登ること40分、「鬼の架け橋」に到着。疲れすぎず、程よい登山。

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これが「鬼の架け橋」。鬼の架け橋の下からのぞく山の景色が絶景!

鬼の架け橋は、岩場に大きな石が橋のように乗っています。記録によれば室町時代に起きた丹波地震がもとでできた奇岩とのこと。広重の絵に描かれていたものは太鼓橋のようにもう少しカーブがかかっていて、その点は本物とちょっと違っていました。しかし、「六十余州名所図会」の多くは資料を見て描いたとされる広重、この場所には実際に来たわけではないのでしょう。

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鬼の架け橋に隣接して、金山城阯がある。ここからの眺望も素晴らしい。

なお、同じ山頂に「金山城趾」という史跡があります。安土桃山時代、信長の命を受けた明智光秀が丹波を討伐するときに構えた陣城(駐屯地的な仮設の城) があった場所とのことですが、確かに敵地を見渡すのに最適の場所だっただろうと納得。素晴らしいパノラマビューが広がっていました。

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大乗寺。この脇からも40分程で鬼の架け橋まで登ることが可能。 

京都市・嵐山 「渡月橋(とげつきょう)」

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「六十余州名所図会 山城 あらし山 渡月橋」 1853年 中外産業株式会社(原安三郎コレクション)蔵

最後に訪ねたのは、京都市の嵐山にある「渡月橋」。「六十余州名所絵 山城」で描かれているスポットです。

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渡月橋をバックに、観光の船が行く。広重の名所絵にも船が描かれている。

渡月橋は平安時代には王朝貴族の別荘地であり、桂川で船遊びを楽しんだりする、都に隣接した近郊レジャースポットでした。嵐山という名称は紅葉などが風に舞い散らされるさまからそう呼ばれるようになったとも言われ、桜や紅葉の名所としても有名です。

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渡月橋は外国人観光客から修学旅行生まで人でいっぱい。

渡月橋(とげつきょう)が最初に出来たのは平安時代ですが、今も日々多くの人が賑わう観光地です。実際訪れたときも学生から外国人まで観光客でひしめきあっていました。

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戸無瀬滝。絵の中ではごうごうとした大きな滝として描かれているが、現在はチョロチョロ流れる、見落としてしまいそうな小さな滝。

ちなみに、広重が描いた渡月橋の絵には滝が見えます。この滝は戸無瀬滝(となせのたき)と呼ばれ現在もあります。が、当時はどうだかわかりませんが、今は絵とは似ても似つかぬ小さな滝です。広重の絵の中では構図的なバランスを重視してか、実際の位置よりも橋寄りに近づけて描いているようです。 

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渡月橋を渡った南端から直結して「法輪寺」に抜ける入り口がある。

また、広重の絵では北東から南西に向いた構図で描いていますが、画面の左、橋の南端の先に見える建物は法輪寺だとされています。
法輪寺は寺伝によると713年建立。平安時代から詣でる客で賑わい、今も「十三まいり」の行事などで京都市民から親しまれています。

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法輪寺の境内。もう少し前に来れば、一帯が桜の花に染まっていたことだろう。

十三まいりとは平安時代から続く行事で、数え年で13歳になると一人前になった証として大人の知恵を授かる祈とうをしてもらうとのことです。現在ポピュラーな「七五三」は江戸時代後期くらいから広まったけれど、京都ではそれよりずっと古くからこの十三まいりが生活の風習としてあったとのこと。そしてその発祥の地がここ法輪寺だと言います。

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渡月橋がかかる桂川沿いの川床にて。湯豆腐と川魚の天ぷらを食す。

渡月橋周辺を散策すると、京都は川辺に文化がある町だと感じます。桂川沿いには川床があり、渡し船も出て…、風土に根ざした風景がありました。

日本は風土のバラエティーに富み、多様な観光ができる

今回3か所を訪ねましたが、天橋立が海沿いの自然公園、鬼の架け橋が山のトレッキングスポット、渡月橋が街中感の強い川辺のスポット。ひとくちに名所と言っても、それぞれまったく違う個性がありました。 

日本には本当に多様な風土や習慣があり、旅の楽しみもバラエティー豊かであるということを痛感します。

また「六十余州名所絵」に収録されている場所を眺めていると、「三河 鳳来寺」(愛知県新城市)「尾張 津嶋 天王祭り(愛知県津島市)」など、行ってみたいところがまだまだたくさん。

それぞれの土地ならではの楽しみが肌で感じられる「六十余州名所絵」を訪ねる旅、あなたもいかがですか?

地図/住所/交通情報ほか

1. 京都府宮津市 天橋立
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JR「福知山」駅より京都丹後鉄道「天橋立」駅下車
「綾部JCT」より京都縦貫自動車道(綾部宮津道路)約20分、「宮津天橋立IC」

・天橋立 観光案内所(天橋立ターミナルセンター丹後観光情報センター)/
 京都府宮津市字文珠314-2 営業時間9:00~18:00
・智恩寺/京都府宮津市字文珠466
・元伊勢籠神社/京都府宮津市字大垣430
・天橋立ビューランド/京都府宮津市字文珠 営業時間9:00〜17:00(〜7/20)

2. 兵庫県丹波市 鐘ヶ坂
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国道176号線 鐘が坂公園付近

・鬼の架け橋/兵庫県丹波市柏原町上小倉
・金山城趾/兵庫県丹波市柏原町上小倉
・追入神社/兵庫県篠山市追入166
・大乗寺/兵庫県篠山市追入1

3. 京都府 嵐山 渡月橋
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嵐電嵐山本線・阪急嵐山線「嵐山」駅下車
市バス「嵐山」または「嵐山公園」下車

・渡月橋/京都市右京区嵐山
・戸無瀬滝/京都府京都市西京区嵐山元録山町
・法輪寺/京都府京都市西京区嵐山虚空蔵山町